前回(第1話 日本型雇用の未来は君の肩に……)はこちら。
プロ野球史上初の〝終身雇用球団〞連合ユニオンズへの出向を命じられた総務畑ひとすじのサラリーマン山田明男(45歳)。どうなる山田君。どうなる連合ユニオンズ!?
【第2話】波乱の記者会見
連合ユニオンズ結成の記者会見が、神田駿河台の連合本部で行われたのは、年の瀬も迫る12 月のこと。普段は閑静なホールに、100人近いマスコミが集まった。
(今日はなんだか、いつもと空気が違うな)
何度も通っている場所だが、日経新聞経済部若手記者・渡辺俊也はそう感じた。今日はなんだかいつもと雰囲気が違う。経済部の記者仲間の間でもそれが話題になっている。
「いつもなら経済部かせいぜい社会部で、どの社もだいたい顔見知りだけど、今日は 東スポから報知まで実に幅広いからね。なんでも赤旗(※1)まで来てるらしいぞ」
「ま、それだけユニオンズが注目されてるってことでしょうね。それにしても、あの正面にあるでかい幕って何なんでしょう? ユニフォームか何かかな」
累増する各球団の赤字や視聴率低迷、スター選手のメジャー流出など、近年のプロ野球には暗いニュースが多い。そんな中、ユニオンズの誕生は、まあ明るいかどうかは分からないけれども、とりあえずほっと一息つけるようなニュースであることは間違いない。
「えーそれでは、これから新チームの編成について、連合会長の古賀剛より発表いたします」
会の司会は管理部長の山田が務める。やや緊張した面持ちだが、もう腹はくくっている。「日本型雇用の優秀性を天下に示す」この言葉の熱っぽい響きが、山田の心のどこかに響いていた。
それに、このミッションを上手く回せれば、いずれ本社への復帰時(※2)に部長待遇で迎え入れられることだろう。部長になる。同期の誰よりも先に。今日という日は、 そのための輝ける第一歩となるであろう。
山田に促されて壇上に登った古賀は、ごほんと咳払いをしてからゆっくり話し始めた。
※1 赤旗/日本共産党の機関誌「しんぶん赤旗」。ウェブサイトには「国民とともに真実を伝え85年」とあるが、あくまで 彼らの階級闘争史観という特殊なメガネを通してみたバーチャル世界のお話である。なお〝しんぶん〞とついてはいるが、 正確には機関紙であって〝新聞〞ではないので、何を書こうと彼らの自由である。
※2 本社への復帰/「出向先で立派な成果を上げれば本社に復帰させるから」というリップサービスで多くの人が40歳以降に子会社へと送りだされる。実際に成果を上げることで昇格+復帰する島耕作みたいな人も一部にいる。

その他の記事
![]() |
ヘヤカツオフィス探訪#01「株式会社ピースオブケイク」前編(岩崎夏海) |
![]() |
なぜ、日本人はやりがいもないのに長時間労働で低賃金な仕事を我慢するのか(城繁幸) |
![]() |
明日にかける橋 1989年の想い出(切通理作) |
![]() |
小さな仏教都市にも訪れている世界的な観光バブル(高城剛) |
![]() |
南国の夜空を見上げながら読むアーサー・C・クラーク(高城剛) |
![]() |
乙武洋匡さんの問題が投げかけたもの(やまもといちろう) |
![]() |
PlayStation VRを買ったら買うべきコンテンツ10選(西田宗千佳) |
![]() |
今年もウルトラデトックス・シーズンがはじまりました(高城剛) |
![]() |
父親の背中、母親の禁止–『ドラゴンボール』に学ぶ好奇心の育み方(岩崎夏海) |
![]() |
相反するふたつの間にある絶妙なバランス点(高城剛) |
![]() |
シンクロニシティの起こし方(鏡リュウジ) |
![]() |
能力がない人ほど「忙しく」なる時代(岩崎夏海) |
![]() |
なぜ忘年会の帰り道は寂しい気持ちになるのか――「観音様ご光臨モード」のススメ(名越康文) |
![]() |
細野豪志さんとJC証券が不思議なことになっている件で(やまもといちろう) |
![]() |
依存から祈りへ(名越康文) |