<これまでのお話>
プロ野球史上初の〝終身雇用球団〞連合ユニオンズへの出向を命じられた総務畑ひとすじのサラリーマン山田明男(45歳)。波乱の記者会見を終え、ペナントレース開幕まで4か月を切ったユニオンズに早くも暗雲が立ち込める!?
<バックナンバー>
第3話 見よ、あれがユニオンズの星だ
「部長! 部長! 山田部長ったら!! ドラフト担当から電話ですよ!」
「へ? ああ、僕のことね」
ぼーっと端末に向かっていた山田は事務の鈴木彩さんからの呼び声で我に返った。
「なんだか部長って言われても実感なくてねえ」
「しっかりしてください。ここには山田さんしか部長はいないんですから」
主任から課長を飛ばして部長になって4カ月。まだ実感はない(※1)。部下といっても、つけてもらえたのは、派遣社員の鈴木さん達3人だけだ。
もっとも、実務の多くは、旧横須賀から引き継いだ球団職員がこなしてくれる。山田の仕事の半分はハンコを押すだけで完了し、多少なりとも判断の必要なことも、連合にお伺いをたてるだけでよかった。まあ、この電話もいつもの直帰申請だろう。
「はい、山田ですが」
だが、電話の声は、明らかにいつものトーンとは異なっていた。
「た、たいへんです......すぐにこっちに来てください」
「なんだね、ルーキーちゃんと喧嘩でもしたのかね」
「いえ、それが......ドラフト1位、駒沢大の加賀義洋が、うちとの契約交渉を打ち切 ると言うんですよ」
「えぇ 」
「と、とりあえず、すぐ来てください。私では手に負えません」
※1 部長になって4カ月。まだ実感はない/〝名ばかり管理職〞には二種類あって、組合から脱退させてこき使いやすくするために管理職にするケースと、年功序列的にポストにつけなきゃならない適齢期のためお飾りポストに据えるケースである。前者は肉体的、後者は精神的にきついものの、開き直れば後者ほどラクなポストもない。

その他の記事
![]() |
体調を崩さないクーラーの使い方–鍼灸師が教える暑い夏を乗り切る方法(若林理砂) |
![]() |
旅行者が新天地を探すことができるか試される時代(高城剛) |
![]() |
クリエイターとは何度でも「勘違い」できる才能を持った人間のことである(岩崎夏海) |
![]() |
「文章を売る」ということ(茂木健一郎) |
![]() |
宗教や民主主義などのあらゆるイデオロギーを超えて消費主義が蔓延する時代(高城剛) |
![]() |
揺れる情報商材 違法化、摘発への流れが強まる(やまもといちろう) |
![]() |
次の食文化を左右するであろうアニマルウェルフェアネスと環境意識(高城剛) |
![]() |
学術系の話で出鱈目が出回りやすい理由(やまもといちろう) |
![]() |
ゲームを通じて知る「本当の自分」(山中教子) |
![]() |
もし朝日新聞社が年俸制で記者がばんばん転職する会社だったら(城繁幸) |
![]() |
「控えめに言って、グダグダ」9月政局と総裁選(やまもといちろう) |
![]() |
年内に来る? Wi-Fi Awareとは(小寺信良) |
![]() |
資源がない国から徐々にリセッションの足音が聞こえてくる(高城剛) |
![]() |
極めてシンプルでありながら奥が深いシステマ小説(西條剛央) |
![]() |
「お前の履歴は誰のものか」問題と越境データ(やまもといちろう) |