城繁幸
@joshigeyuki

期間限定公開! 新刊『「10年後失業」に備えるためにいま読んでおきたい話』

【第3話】見よ、あれがユニオンズの星だ!


駒沢大学野球部合宿所の会議室には、加賀にくわえ、監督、コーチが3人並んで座っている。こちらはスカウト2名に管理部長の山田で計4人。数からいえばこっちの方が多いが、雰囲気では完全に飲まれていた。そもそも、前任者からは、ドラフト上位者との交渉は手ごたえアリと引き継いでいる。

「あの、なにかいたらぬ点でもありましたでしょうか......」

「全部だよ!」

監督は苦虫をかみつぶしたような顔で続けた。

「契約書を見たが、ありゃなんだい 初年度440万円からスタートなんて、そこらの実業団と変わらないじゃないか!」

「あ、あの、一軍昇格したら1500万円は保証されますし、もちろん獲得タイトル 分は出来高上乗せいたします。......それに、現役の間は年俸はカットしませんし、本人の同意しないトレード、自由契約は一切ありません。また、引退後は連合傘下企業 での終身雇用を保証いたします。長い目で見れば、けっして他球団選手の生涯賃金に見劣りするものではありません(※2)」

「いいかい? うちの加賀はメジャーからも身分照会されとるんだよ。彼の右腕なら 一年目で1億も夢じゃない。そんな金の卵を400万ちょっとで渡せると思うかね?」

「そ、それは......」

「とにかく、ユニオンズとの交渉は打ち切らせてもらうよ。加賀はメジャーに行かせ る。向こうで揉まれたほうが長い目で見て本人のためだろう」

その日のうちに、球団事務所には同じような連絡が相次いだ。ドラフト1位以下、 ほぼ全員が交渉を打ち切り、メジャーや実業団の道を選ぶという。

あわてた山田は、連合事務局長の平野にお伺いを立てた。

 

※2 長い目で見れば、けっして他球団に劣らない/平均年俸2000万円で 年間契約した場合のトータル賃金は2億円だ が、平均年収800万円で40年間サラリーマンした場合の生涯賃金は3億2000万である。しかも単年度あたりの高額所得者は最高で4割税金として持っていかれるが、(各種控除を加えれば)平均的サラリーマンの実質的な所得税は2%程度に過ぎないので、この差はさらに拡大する。もっとも、それには会社が40年間存続することが前提ではあるが。

1 2 3 4 5
城繁幸
人事コンサルティング「Joe's Labo」代表取締役。1973年生まれ。東京大学法学部卒業後、富士通入社。2004年独立。人事制度、採用等の各種雇用問題において、「若者の視点」を取り入れたユニークな意見を各種メディアで発信中。代表作『若者はなぜ3年で辞めるのか?』『3年で辞めた若者はどこへ行ったのか-アウトサイダーの時代』『7割は課長にさえなれません 終身雇用の幻想』等。

その他の記事

出口が見えない我が国のコロナ対策の現状(やまもといちろう)
“コタツ記事”を造語した本人が考える現代のコタツ記事(本田雅一)
“日本流”EV時代を考える(本田雅一)
経営情報グループ『漆黒と灯火』というサロンらしきものを始めることにしました。(やまもといちろう)
古代から続くと言われるハロウィンの起源から人類の行く末を考える(高城剛)
私の武術探究史の中でも記憶に残る技法ーーDVD『甲野善紀 技と術理2016―飇拳との出会い』(甲野善紀)
なぜ人を殺してはいけないのか(夜間飛行編集部)
50歳食いしん坊大酒飲みでも成功できるダイエット —— “筋肉を増やすトレーニング”と“身体を引き締めるトレーニング”の違い(本田雅一)
ヘッドフォン探しの旅は続く(高城剛)
「スマートニュース」リストラ報道と報道記者喰えないよ問題(やまもといちろう)
米国大統領とテカムセの呪い(高城剛)
やっと日本にきた「Spotify」。その特徴はなにか(西田宗千佳)
これから「研究者」がマイノリティになっていく?(家入一真)
それなりに平和だった夏がゆっくり終わろうとしているのを実感する時(高城剛)
『風の谷のナウシカ』宮崎駿著(名越康文)
城繁幸のメールマガジン
「『サラリーマン・キャリアナビ』★出世と喧嘩の正しい作法」

[料金(税込)] 550円(税込)/ 月
[発行周期] 月2回配信(第2第4金曜日配信予定)

ページのトップへ