「午前中の練習に参加しない選手がいるんです」
息せき切ってそう報告してきたのは、今年球団入りしたスタッフの松浦太郎だ。松浦は元実業団の選手だったが、引退してアメリカの大学に留学、スポーツトレーニング理論で修士号をとった努力の人である。スタッフとして、トレーニング面からのチーム力の刷新を期待されている。
「どういうこと? 少なくとも午後のワークアウトはみんな揃っているように見えるけど」
「そうなんですよ、コーチ陣やメディアのくる午後にはいるんです。で、各自バッティングやピッチングをこなすんですけど、午前中の基礎体力作りのメニューをやらない選手がいるんです」
「ああ、そういうの良くないねぇ。僕も嫌いだよ、なんだか上司のいるときだけ残業するサラリーマン(※3)みたいで」
「これが欠席者のリストです。山田さんから監督に報告してください」
「えぇ? 僕が言うの? そりゃ君達フィールドスタッフの仕事でしょ? 僕の出る幕じゃないよ」
「私からは何度も監督には申しあげてますが、まったく聞いてくれないんです。山田さんだったら、無下に断られないでしょう」
「ふーん。まあいいよ。それにしても、中村、林、秋山......って、ベテラン揃いだなぁ。こりゃ監督も注意しにくいだろうなあ。って、中森!? 彼も午前さぼり組なの!?」
「彼が昼前から球場に来たのは初日の挨拶の時だけですよ」
山田は、日中取材陣の前で中森が見せる姿勢とのギャップに驚いた。
「......ここだけの話ですけど、彼が入ってから、なんというか、全体的に規律が乱れたって気がします」
※3 上司がいるときだけ残業するサラリーマン/残業には本当に忙しくて行われるものと、仕事してるふりを装うために行われるものの二種類ある。上司不在時や金曜日の夜だけ速攻で帰る人間は言うまでも無く後者である。
その他の記事
これからのクリエーターに必要なのは異なる二つの世界を行き来すること(岩崎夏海) | |
女の体を、脅すな<生理用ナプキンの真実>(若林理砂) | |
負け組の人間が前向きに生きていくために必要なこと(家入一真) | |
アーユルヴェーダで本格的デトックスに取り組む(高城剛) | |
良い旅は、旅立つ前に決まるのです(高城剛) | |
ふたつの暦を持って暮らしてみる(高城剛) | |
この冬は「ヒートショック」に注意(小寺信良) | |
ぼくがキガシラペンギンに出会った場所(川端裕人) | |
「韓国の複合危機」日本として、どう隣国を再定義するか(やまもといちろう) | |
『無伴奏』矢崎仁司監督インタビュー(切通理作) | |
いじめ問題と「個人に最適化された学び」と学年主義(やまもといちろう) | |
「認知症」自動車事故とマスコミ報道(やまもといちろう) | |
『木屋町DARUMA』そして初のピンク映画!榊英雄監督ロングインタビュー(切通理作) | |
【疲弊】2021年衆議院選挙の総括【疲弊】(やまもといちろう) | |
自民党・野田聖子さんご主人、帰化在日韓国人で元暴力団員と地裁事実認定の予後不良(やまもといちろう) |