城繁幸
@joshigeyuki

期間限定公開! 新刊『「10年後失業」に備えるためにいま読んでおきたい話』

【第4話】キャンプイン――静かな戦いの始まり

「中森さん!  調子よさそうですねぇ。開幕4番はいけそうですか?」

「まあ上が判断することやけど、ボクやったらいつでもいけますよ。4番でも5番でも、なんやったら1番でもやったりますよ」

「すごいやる気ですね! ところで、どうして中森さんはユニオンズを選ばれたんですか? 他にオファーはあったと聞いていますし、言っちゃあ何ですけど、ユニオンズってあんまり報酬的な魅力はなさそうな気もしますが」

ユニオンズは、選手歴の長いベテランやタイトル経験のある選手に、高めのベース給を保証している(※1)。中森クラスだと3000万にも上る額だ。その半面、出来高に連動するボーナス部分は非常に少ない。

「ボクはね、ただ野球がしたいだけなんですよ。もう40前やからとか、膝故障しとるからとか、そういう理由でスタメン外されるチームよりも、チャンスをくれる球団で働きたいんですわ」

なるほどねぇと記者たちもうなづく。多くが40歳以上のベテランで、会社からやれ 成果主義(※2)だ、早期退職募集だと、ハッパをかけられている世代でもある。

連合事務局長の平野も、中森が大のお気に入りだ。

「彼こそユニオンズの理念をもっとも理解してくれている選手ですよ。我々連合としては、ああいう古き良き労働者を大切にしていただきたい。山上監督、開幕4番はぜひ彼でお願いしますよ」

「わかりました。とりあえずリーグ前半戦は彼を主軸にチーム編成を考えましょう」

ただ、山田には現場から気になるクレームも届いていた。

※1 ベテランに高めのベース給を保証/年齢に応じて給与が上がり、ポストを与えられるというシステムは、企業業績が右肩上がりを続けているうちは機能するが、業績が傾くと若手〜中堅があれこれイチャモンをつけられて彼らの取り分から削られることになる。

※2 成果主義/若手〜中堅にあれこれイチャモンをつけて取り分を減らすためのシステム。なぜか既に配分された分については成果ゼロでもほとんど見直されることは無い。

 

1 2 3 4 5
城繁幸
人事コンサルティング「Joe's Labo」代表取締役。1973年生まれ。東京大学法学部卒業後、富士通入社。2004年独立。人事制度、採用等の各種雇用問題において、「若者の視点」を取り入れたユニークな意見を各種メディアで発信中。代表作『若者はなぜ3年で辞めるのか?』『3年で辞めた若者はどこへ行ったのか-アウトサイダーの時代』『7割は課長にさえなれません 終身雇用の幻想』等。

その他の記事

自然なき現代生活とアーユルヴェーダ(高城剛)
気候変動や環境毒のあり方を通じて考えるフェイクの見極め方(高城剛)
「ラスト・ナイツ」ついに公開ーー苦労そのものに喜びがある(紀里谷和明)
苦手を克服する(岩崎夏海)
「民進党代表選」期待と埋没が織りなす状況について(やまもといちろう)
人事制度で解く「明智光秀謀反の謎」(城繁幸)
気候変動が影響を及ぼす人間の欲望のサイクル(高城剛)
初夏のような沖縄で近づいてきた「転換期」を考える(高城剛)
街にも国家にも栄枯盛衰があると実感する季節(高城剛)
なぜ、旅人たちは賢者のような眼をしているのか–旅こそが最良のソロタイム(名越康文)
ヘヤカツで本当に人生は変わるか?(夜間飛行編集部)
動物園の新たな役割は「コミュニティ作り」かもしれない(川端裕人)
なぜ人を殺してはいけないのか(夜間飛行編集部)
カナダでは尊敬の意をこめて先住民族をファーストネイションズと呼びます(高城剛)
人としての折り返し地点を見据えて(やまもといちろう)
城繁幸のメールマガジン
「『サラリーマン・キャリアナビ』★出世と喧嘩の正しい作法」

[料金(税込)] 550円(税込)/ 月
[発行周期] 月2回配信(第2第4金曜日配信予定)

ページのトップへ