一方で、その頃の僕は同時に、実際に市場に流通していて僕たちの生活を変えはじめている力のようなものに、急速に興味が移っていた。その一例がたとえば衣食住にまつつわるネットサービスや交通インフラだったり、情報技術を駆使したゲーミフィケーションの新しい展開だったりした。 こうしたマーケットの中の現象には、まだ知的な検証も文化論的な関心も寄せられていないけど、そこには人間の未知の可能性や行動原理の知見が、手つかずのまま沢山眠っているんじゃないかと思ったわけ。
たとえば一見なんでもないウェブサービスでも、実はそのユーザーの行動パターンを解析して行くと、これまで分からなかった人間の修正や行動心理が見えて来る、といった例はたくさんあると思うんだよね。情報技術と人間の関係を考えるときに、サブカルチャーやジャーナリズムを通して考えるより、別のやり方があってその方が今はずっと面白いものができるんじゃないかと考えたわけ。
あの本は、言わばそうした興味をストレートに反映させた本だったんだよ。今だから言うけど、後半の若手言論人のコーナーはこれまでの読者の関心を惹くためだけのもので、本当に読ませたいのは圧倒的に前半の情報社会特集なんだよ。
もちろん、後半も含めて結果的に一つ一つの記事は非常にクオリティの高いものになって、逆に同世代の知性に僕がほんとうに教えられた感があるんだけど、企画段階ではそんな少し意地悪な意識があったのね。NHKや朝日新聞よりも、僕たちの方が同世代の論客のいいところを引き出せるぞ、ってポジティブな宣戦布告のつもりだったんですよ。
でも、やっぱり本当に読ませたかったのはゲーミフィケーションや日本的情報サービスの特性を論じた特集部分なんですよね。当時僕の抱いていた理論的な関心がすべてなんですよ。けれど、それをストレートに追求しても、読者がついてこないと思った。だから若手論壇勢揃い的なパッケージングにしたんです。
そういう意味でP8は「動員の革命」的なネット・ジャーナリズムやインターネット・サブカルチャーに興味を失いつつある自分を発見して、そんな自分と折り合いをつけるために作ったところがある。あれは僕の中のひとつの時代というか、「インターネット+サブカルチャー」から「インターネット+ジャーナリズム」といった問題設定が急速に色あせていって、もっと端的に情報テクノロジーと人間社会や文化の関係について考えたくなった結果生まれた一冊なんだよね。
実際、PLANETSは商売のために作っているものではないわけで、そういうやり方で構わないと思ったしね。 ただ、クオリティにこそ自信はあったけど、ああいう方向に投げた球がしっかり反応が返ってくるかは不安だった。
その他の記事
|
日本のペンギン史を変える「発見」!?(川端裕人) |
|
新卒一括採用には反対! 茂木健一郎さんに共感(家入一真) |
|
12月の夏日を単に「暖冬」と断じてしまうことへの危機感(高城剛) |
|
AI時代の真のラグジュアリーとは(高城剛) |
|
「ノマド」ってなんであんなに叩かれてんの?(小寺信良) |
|
最新テクノロジーで身体制御するバイオ・ハッキングの可能性(高城剛) |
|
ゲームと物語のスイッチ(宇野常寛) |
|
衰退がはじまった「過去のシステム」と「あたらしい加速」のためのギアチェンジ(高城剛) |
|
米国大統領選まで1ヵ月(高城剛) |
|
ヘヤカツオフィス探訪#01「株式会社ピースオブケイク」後編(岩崎夏海) |
|
小笠原諸島の父島で食文化と人類大移動に思いを馳せる(高城剛) |
|
「日本の電子書籍は遅れている」は本当か(西田宗千佳) |
|
「高倉健の死」で日本が失ったもの(平川克美×小田嶋隆) |
|
身体に響く音の道――音の先、音の跡(平尾文) |
|
「人間ドック」から「人間ラボ」の時代へ(高城剛) |










