宇都宮徹壱
@tete_room

海野隆太(浦和レッズサポーター @inumash)インタビュー<前篇>

横断幕事件の告発者が語る「本当に訴えたかったこと」

 

「何でクラブはこれを許しているんだろう?」

 

<中略>

 

――いよいよ例の事件に話題を移したいと思います。あらためてあの日、海野さんが体験したことを振り返っていただけますでしょうか。浦和対鳥栖の試合は3月8日の16時キックオフでした。海野さんがスタジアムに入ったのは?

 

海野 当日はちょっと遅れてスタジアムに入りました。すでに試合は始まっていて、前半15分から20分くらいのタイミングで、メインスタンド側のゴール裏コンコースを歩いていたときに、あの横断幕の存在に気付きました。

 

――その時の周りの雰囲気って、どんな感じだったんでしょうか?

 

海野 周りには誰もいなかったです。試合が始まっていましたから、私以外は誰もいない感じでしたね。

 

――パッと見た時、どう思いました?

 

海野 いやもう「これはダメだろう……」と思いましたね。ゴール裏には、たとえば「ここにいていいのは闘える者だけ」みたいな勇ましい横断幕とか、あるいは辛辣な言葉とかいっぱい貼ってあって、そういうものは見慣れていたんです。けど「JAPANESE ONLY」というストレートな人種差別のメッセージは初めて見たので、「うわっ、何でこんなものがここにあるんだ? 誰がこんなのを貼ったんだろう」と。

 

その次に思ったのが「何でクラブはこれを許しているんだろう?」ということでしたね。その横断幕の裏側には旭日旗も掲げてあったので、これは明らかにナショナリズムに基づく人種差別だと直感しました。(掲げた)本人にどんな意図があったとしても、それ以外の解釈はなされない。このまま放置していたら、Jリーグから厳しい処分を下される可能性がある。なので、近くにスタッフがいないか探し始めました。

 

――それは、試合中ですよね?

 

海野 試合中です。もちろん試合も気になりますが、さすがにこれは放置できないと。ただ、クラブ側が気付いていない可能性もあるので、だったら自分が伝えなければと思いました。それで前半30分くらいのタイミングで、シミスポ(編集部註:株式会社シミズオクト。スポーツイベントなどの運営・警備などで知られる)のスタッフの人と話をすることができて、「この横断幕は問題があるから、すぐにクラブスタッフに話をしたい」とお願いして、ハーフタイムになって、そのエリアの責任者とお会いすることができました。

 

そこで私はこう訴えました。あの横断幕はもう人種差別だから、このまま掲げているのはまずい。人種差別に関しては、Jリーグでも罰則規定が明確になっているし、浦和は4年前にも仙台で(人種差別的なやじで)やらかしているので、このまま放置しておくと処罰の対象になると。その頃には、何人かのサポが一緒に「確かにあれはまずいよ」と言ってくれたんです。

 

――他にも何人か「まずいよ」って方がいらっしゃったわけですね?

 

海野 そうですね。最初にもうひとりの方が一緒に抗議してくれて、通りがかりに声をかけてくれた人を含めて最終的には5~6人くらいはいましたね。そしたら責任者の方は「わかりました。では、サポーターの代表者の方と話してきます」とおっしゃってくれて、それで問題が解決するかなと思って、あとはお任せすることにしたいんです。

 

――サポの代表というのは「スネーク」と呼ばれるグループの代表ですか?

 

海野 その時は、そこまではわかりませんでした。ただ、責任者の方がサポーターと話をしているのはその場で見ました。それで少し安心したので、いったんはスタンドに行って、15分ぐらい試合を見ていたんです。

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(C)Tete_Utsunomiya

 

横断幕撤去を阻んだ浦和のローカルルール

 

――試合の内容は覚えていますか?

 

海野 うーん、やっぱり横断幕のことが気になって、試合の内容とかぜんぜん頭に入ってこなかったですね。で、後半30分ぐらいのタイミングで、もう一回ゲートの方に行ったんですね。そしたらまだ横断幕が掲げられたままになっていたので、シミスポの方に「これ、対応まだ終わらないんですか?」って聞いてみたんです。

 

で、これはいろんなところに書いたんですけど「この件に関しては、サポーターとクラブ側が話し合って、改善に向けて努力をしていく」っていう話になっていて(笑)。私はぜんぜんその意味がわからなかったので「ということは、試合が終わるまでこのままですか?」って聞いたら「そうです」と。

 

――それが今回、問題になった「貼った当人の同意がなければ、横断幕を外すことができない」という浦和のローカルルールですね?

 

海野 はい。それは知っていたので「いや、わかりますよ。わかりますけど、こんなあからさまなものを試合が終わるまで掲げていたら、大変なことになりますよ」って言ったんですけど、その人には権限があるわけではないので自分の判断で対応ができない。しかも私のことを、クレーマーみたいに思っていたのか「ここにいる人たちは、ちょっとアレな部分もあるけれど、本当にクラブを愛しているんだから」とか言い出すし(苦笑)。

 

それで私は「いや、それもわかりますよ。自分もそのど真ん中にいたんだから。でも、いくらクラブを愛していても、やっていいことと悪いことがあるでしょう。そこをきちんとクラブがコントロールしないとダメじゃないですか。これは明らかに一線を超えてしまっているんですよ」という話をしたんですが、やっぱり対応は変わらなかった。どうも後で聞いたら、クラブ側はきちんとサポーターと話ができていなかったそうです。

 

――え、そうだったんですか?

 

海野 横断幕を掲げた当事者は「クラブと話をする」ってその場は言ったそうなんですが、すぐにスタンドに戻ってしまっていたそうです。だから結局、あれを下ろすことができなかった、というのが顛末だったようです。

 

――そして海野さんは、撮影した横断幕の画像をTwitterにアップします。あれはどのタイミングで撮影したんでしょうか?

 

海野 最初にあれを見て「これはまずい」と思った時です。たとえば試合で、こんなゲーフラがあったとか、こんなチャントがあったとか、それが問題になっても噂レベルで終わってしまう可能性ってあるわけです。ですので、こういう問題があったということを、きちんと残さなければならないと思って撮影しました。

 

――何枚か撮ったんですか?

 

海野 いえ、横断幕の写真は1枚だけです。

 

――それをネット上にアップした理由は?

 

海野 そうですね、最初のツイートは何かの意図があったというよりも、ある種の“悲鳴”みたいなもんでしたね。たとえば事故なんかを目撃すると「うわっ」とか声を出したりとか、「大丈夫? 大丈夫?」みたいなことを呟いたりすると思うんですけど、それと同じような反応ですかね。ただ、あの時は周りに「大丈夫」と言ってくれる人がいなかったので、もうTwitterで悲鳴をあげるしかない、という感じでした。

 

――その時は、ご自身のツイートがその後どんなに大きな影響を与えるのか、あまり想像していなかった?

 

海野 全くですね、はい。

 

――ちょっと意地悪な質問ですけど、もしこういう事態になるとわかっていたら、アップしなかったですか?

 

海野 いや、出し方は考えたかもしれないけれど、アップしないという選択肢はなかったと思います。ああいった横断幕を出すことを許してしまう空気というか、環境というものは間違いなくスタジアムにありましたから。まあ、あの時は私も相当に混乱していたので「もっとこうすればよかったな」と反省することはあります。ただ、ツイートしたこと自体は、まったく後悔はありません。

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(C)Tete_Utsunomiya

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宇都宮徹壱
1966年3月1日生まれ。東京出身。 東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)、『松本山雅劇場』(カンゼン社)など著書多数。『フットボールの犬欧羅巴1999-2009』(東邦出版)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。2010年より有料メールマガジン『徹マガ』を配信中。

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