「内観」でしか説明できないステージへ
「技と術理2014」における一番の特徴だと思うのが、「内観」という言葉が前面に出て来たことである。これまでの甲野先生の術理においても「内観」は主要なテーマであったはずだ。
だが甲野先生はあえて内観という言葉を避け、一般化した例えを用いて説明してきたような気がする。その姿勢に対して私は、内観という個人的な世界に留まらない、普遍的な原則を見いだそうとする試みなのだと解釈していた。
だが本DVDを観た後は考えが変わった。実は甲野先生の特技とも言える鮮やかな例え話は全て、内観的身体と現実との乖離を補うための作業だったのではないだろうか。そしていよいよその乖離の幅が狭まり、「一致してきた」と言えるレベルになって来たからこそ、「内観」という言葉でしか説明できない動きに至ったのではないだろうか。
こうしたことをあれこれ考えたり自分の身体で試したりすることが、甲野先生の進展を追う醍醐味であると同時に、自らの成長の糧となる。だからこのDVDを観てもし「なにがなんだか分からない」と思ったとしても、気に病む必要はない。それは甲野先生が身を置く世界の一端に触れた証左だと私は思う。
そこでは人間と人間の身体という圧倒的に不可思議な存在に直面し、ほんの少しでも分かろうともがくことで力を得ることができる。そんな「分からない」点と「分からない」点を繋いでベクトルにしていくことで、甲野先生が向き合っている世界が徐々に姿を現すのである。
世に溢れる正しさの押しつけは私たちから力を奪う。その一方で、甲野先生は「分からない」を提供し続けることによって、今を生きる私たちに大きな力を与えてくれているのだ。
評者:北川貴英
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『甲野善紀 技と術理2014――内観からの展開』
一つの動きに、二つの自分がいる。
技のすべてに内観が伴って来た……!!
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