名越康文
@nakoshiyasufumi

名越康文のメルマガ『生きるための対話(dialogue)』より

ビジネスマンのための時間の心理学――できる人は時間を「伸び縮み」させている

 

「太い時間」を上手に使うのが<時間の技法>の真髄

 

「時間のチューブ」は、自分の意志とは無関係に、周期的に伸び縮みします。後で述べますが、いわゆる典型的な「うつ」状態でない限り、「太い時間」の後には必ず「細い時間」がやってくるし、「細い時間」の後には「太い時間」が待っています。

そういう意味では、たとえ「細い時間」に陥ってしまったとしても、そう心配することはないわけですが、問題は「細い時間」にしても「太い時間」にしても、それが10分続くのか、1時間続くのかは誰にもわからないということです。

僕の実感では、本当にクリエイティブな作業に集中できる「太い時間」は長くても40-50分程度しか続きません。逆に、何をやっても集中できない「細い時間」というのは、コントロールに失敗すると長く続いてしまうことが少なくない。

ですから実践的に重要なことは、「太い時間」をいかに有効に使うか、ということと、「細い時間」からいかに早く抜け出すか、ということなんです。それがいわば、「時間の技法」の真髄ではないかと僕は考えます。

よく、「仕事に行き詰まったら自分なりの気分転換をしてください」といったことが言われます。それは確かに「太い時間」と「細い時間」の間に、ある種、「デジタルな区切り」をつける意味で、有効なテクニックです。「太い時間」からだんだんと「細い時間」に移り変わってきたら、そのまま効率の落ちた状態でだらだらと仕事をするのではなく「終わり」をキチッとつける。そのほうが、次の「太い時間」に万全の態勢で臨めるというわけです。

しかし、それだけでは十分ではありません。太い時間と細い時間にうまく乗っていくためには、「身体」を使った心理的アプローチが重要となります。

例えば気分転換ひとつとっても、身体を使って歩き、空間的に移動していくということの意味は非常に大きい。仕事場からちょっと外に出る、5分でもいいから散歩する。そうすることによって、時間の「太さ」は大きく変化するんですね。

少なくとも、デスクワークに従事している人が、気分転換のときにパソコンの画面を眺めたり、スマートフォンでtwitterを見たりするよりは、絶対、歩いて、移動したほうが「時間の切り替え」という点では有効なのです。

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名越康文
1960年、奈良県生まれ。精神科医。相愛大学、高野山大学、龍谷大学客員教授。 専門は思春期精神医学、精神療法。近畿大学医学部卒業後、大阪府立中宮病院(現:現:大阪精神医療センター)にて、精神科救急病棟の設立、責任者を経て、1999年に同病院を退職。引き続き臨床に携わる一方で、テレビ・ラジオでコメンテーター、映画評論、漫画分析など様々な分野で活躍中。 著書に『「鬼滅の刃」が教えてくれた 傷ついたまま生きるためのヒント』(宝島社)、『SOLOTIME~ひとりぼっちこそが最強の生存戦略である』(夜間飛行)『【新版】自分を支える心の技法』(小学館新書)『驚く力』(夜間飛行)ほか多数。 「THE BIRDIC BAND」として音楽活動にも精力的に活動中。YouTubeチャンネル「名越康文シークレットトークYouTube分室」も好評。チャンネル登録12万人。https://www.youtube.com/c/nakoshiyasufumiTVsecrettalk 夜間飛行より、通信講座「名越式性格分類ゼミ(通信講座版)」配信中。 名越康文公式サイト「精神科医・名越康文の研究室」 http://nakoshiyasufumi.net/

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