甲野善紀
@shouseikan

対話・狭霧の彼方に--甲野善紀×田口慎也往復書簡集(3)

信仰者の譲れない部分

 

武術研究者・甲野善紀氏のメールマガジン「風の先、風の跡――ある武術研究者の日々の気づき」に届いた、若者からの一通のメールによって始まった、哲学と宗教、人生を考える往復書簡。メールマガジン読者の間で話題となった連載をプレタポルテで公開します。

 

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一つの動きに、二つの自分がいる。
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武術研究者・甲野善紀の
新たな技と術理の世界!!


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「狂信」と「深い信仰」の違い

 

【田口慎也から甲野善紀へ】

甲野善紀先生

お手紙ありがとうございました。先生から頂戴したお手紙を拝読しながら、いくつか私のなかにも気づきが起こりましたので、それについて書かせていただきたいと思います。

大本教の草創期を描いた『大地の母』は、甲野先生が薦められていることを知り、2年ほど前に最初から最後まで読み通しました。今回、改めて11巻の部分を読み直しながら、私は「狂信」と「深い信仰」の違いについて考えました。

甲野先生はよく「『大地の母』の11巻目の部分を読んでいれば、あれだけ多くの若者がオウム真理教にのめり込むことはなかったのではないか」と仰っていますが、私もこの部分を読んでオウム真理教の事件や、自分自身の「狂信への恐れ」について改めて考えました。

私は昔から宗教や信仰といったものに関心がありましたが、そのような自分の性質を知っているがゆえに、私が一番恐れていたことは「自分自身が知らぬ間に狂信者や原理主義者のようになってしまうのではないか」ということでした。

といいますのも、私が小学校高学年の時に起こったオウム真理教の一連の事件のことが頭から離れなかったからです。彼等の中には「近代科学などに対する憧れが破れて信仰の道に進んだ」人々もいたといいます。

「高い理想を掲げて大学に入学したが、その理想が破れ、その『内面の隙間・空虚感』を埋めるために宗教を求めた」という人々です。そうした面は私の中にもあり、彼らの行動が「他人事」だとは思えなかったためです。

それを防ぐにはどうしたらよいか…10代のころは「自分が狂信や原理主義に陥らないようにするにはどうすればよいのか」ということを自分なりに考えて、とにかく「相反するもの・相反する考え方に同時に触れよう」と思い定めました。

「自分の考え方のバランスを取る」方法として、当時の私にはそれ以外のやり方が思い浮かばなかったのです。とにかく、当時の自分から見て「相反する思想」、たとえば「徹底的な無神論を説く書物」と「信仰や宗教を肯定する立場を取る書物」とを同時に読み、とにかく自分の思考に揺さぶりをかけ、自分の思考が凝り固まらないように、自分の思考が「居付かない」ようにするよう、必死に努力していました。

そうしたなかで、私は「科学」と「宗教」についても自然と考えるようになり、「狂信的な信仰者や原理主義者」と「深い信仰者」の違いは何か、どこにその差が生まれてしまうのかについて、自分なりに考えてきました。

そして今は、「狂信」と「深い信仰」の違いは「対立するもの・矛盾するものを抱え込むことが出来るかどうか」という点にあるのだと思っています。

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甲野善紀
こうの・よしのり 1949年東京生まれ。武術研究家。武術を通じて「人間にとっての自然」を探求しようと、78年に松聲館道場を起こし、技と術理を研究。99年頃からは武術に限らず、さまざまなスポーツへの応用に成果を得る。介護や楽器演奏、教育などの分野からの関心も高い。著書『剣の精神誌』『古武術からの発想』、共著『身体から革命を起こす』など多数。

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