やまもといちろう「人間迷路」

減る少年事件、減る凶悪事件が導く監視社会ってどうなんですかね

やまもといちろうさんのメルマガ「人間迷路」Vol.107<一斉に増資と身売り交渉の始まったバイラルメディアの諸行無常感を見ながら、それとは桁違いの巨人であるamazonを仰ぎ見る回>より

 

減る少年事件、減る凶悪事件が導く監視社会ってどうなんですかね

このたびの、神戸市の少女殺害・死体遺棄事件は結構な余波が起きております。

女児遺体遺棄現場、血液反応なし…容疑者宅捜索
http://www.yomiuri.co.jp/national/20140925-OYT1T50108.html

室内で血液反応がなく、近隣住民の目をかいくぐって外で女の子の遺体を「解体」していたのだとすると、それはそれで相当目立つと思うんですが。

報道では、容疑者が知的障害者である可能性を踏まえて責任能力の有無や減刑についてまで触れられていますが、有力ではあるもののまだ現段階で断定するのは早いんじゃないですかね…。

で、ウェブ上では衝撃的な事件だったこともあり、事実関係の確認できないさまざまな噂が飛び交っています。

捜査はどうなる?神戸生田美玲ちゃん殺害の47歳容疑者に知的障害
http://matome.naver.jp/odai/2141153928937864501

【神戸行方不明】生田美玲ちゃんの母親と祖母の言動が ヤ バ す ぎ る !!! 2ch「わざわざ猫を見にこんな奴の家に来る方も変」
http://www.news-us.jp/article/405991164.html

ネットではどうしても話が面白い方向に流れるので、ある種「知的障害者が知的障害者を殺した」的な構図で理解しようとするのでしょうが、もう少し俯瞰して状況を整理すると、そもそも日本では少年犯罪も凶悪犯罪も減少している、という実情があります。

元データを少年犯罪データベースドアが掲載しておられましたので、それをご覧いただければ一目瞭然かと思いますが、犯罪が異常なので繰り返し報じられ印象に強く残っている部分はあるにせよ、犯罪件数の絶対数はとても減少しています。

児童虐待についての基本データ
http://blog.livedoor.jp/kangaeru2001/archives/52175200.html

そこへきて、今回強い容疑がかけられている君野康弘さんについていえば、一部報道でもあるとおり、コンビニエンスストアでの映像を元にマークされていることも伝わってきています。

小1女児遺体遺棄事件 逮捕の男は黙秘
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20140924/t10014834741000.html

[引用] また警察は、回収した防犯カメラに、君野容疑者が美玲ちゃんのあとをふらふらと歩き、美玲ちゃんのことを気にするような姿が映っていたことから、不審人物の1人として把握し、行方不明になってから5日後に1人暮らしをしていた自宅を訪ねましたが、美玲ちゃんは見当たらなかったということです。

--

この犯罪自体が理解できない異常なものですし、再発を防ぐために何ができるのかという議論になるのは当然とはいえ、薄ら寒いのはやはり防犯カメラによるプライバシー問題があまりしっかりとは国内で論じられていないことや、知的障害者に対する監視や扱いがいままで以上に厳しくなるであろうことです。

むしろ、日本でこれから起こる凶悪犯罪の根幹のところが普遍的に日本人の間で広がるかもしれない貧困と孤独に依拠するものなのかもしれないし、そうであるならば本当にこの容疑者が犯人であったとしても知的障害者に過ぎなかったからと脇に置くことが果たして妥当なのか、判断に苦しむところでもあります。

同様に小学校一年生の女の子が夕暮れまで一人でふらふらと歩いている状況自体も微妙でしょうし、本来であれば切り取るべき「みんなに関わる問題点」や「防犯のためにどこまでプライバシーは晒してよいのだろうか」といった問題をさておいて、特殊な家庭環境や知的障害のところで話を終えてしまっては、この事件が残す教訓は何も残らなかったことになるのではないかと危惧します。

そして、何よりまだ真犯人がこの君野容疑者だと決まったわけではない、ということも充分に留意して情報を扱う必要があるのではないかと感じました。

 

やまもといちろうメルマガ「人間迷路」Vol.107

<一斉に増資と身売り交渉の始まったバイラルメディアの諸行無常感を見ながら、それとは桁違いの巨人であるamazonを仰ぎ見る回>

187A8796sm

目次
【0. ヘッドストーリー】減る少年事件、減る凶悪事件が導く監視社会ってどうなんですかね
【1. インシデント1】バイラルメディア諸行無常
【2. インシデント2】このところAmazonが派手に事業拡張しているようなので最近の動向をまとめてみました
【3. 特別対談その3】茂木健一郎×山本一郎 『小保方問題、ネトウヨとの絡み方などなどについて茂木健一郎さんに直接ツッコミを入れてみた』(3/5)
【4. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A

ご購読はこちらから

 

 

やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

その他の記事

「リバーブ」という沼とブラックフライデー(高城剛)
情報を伝えたいなら、その伝え方にこだわろう(本田雅一)
コロナ後で勝ち負け鮮明になる不動産市況(やまもといちろう)
住んでいるだけでワクワクする街の見つけ方(石田衣良)
資本主義の「貪欲さ」から逃げるように拡散するエッジ・ブルックリンの本当の魅力(高城剛)
環境省が目論む「炭素税」の是非と社会転換の行方(やまもといちろう)
グローバリゼーション時代のレンズ日独同盟(高城剛)
大きくふたつに分断される沖縄のいま(高城剛)
僕たちは「問題」によって生かされる<前編>(小山龍介)
目的意識だけでは、人生の中で本当の幸せをつかむことはできない(名越康文)
オランウータンの森を訪ねて~ボルネオ島ダナムバレイ(1)(川端裕人)
「罪に問えない」インサイダー取引が横行する仮想通貨界隈で問われる投資家保護の在り方(やまもといちろう)
週刊金融日記 第302号【コインチェックで人類史上最高額の盗難事件が起こり顧客資産凍結、暗号通貨は冬の時代へ他】(藤沢数希)
こ、これは「スマート」なのか? スマートカメラ「IPC-T3710-Q3」が割とやべえ(小寺信良)
“B面”にうごめく未知の可能性が政治も社会も大きく変える(高城剛)
やまもといちろうのメールマガジン
「人間迷路」

[料金(税込)] 770円(税込)/ 月
[発行周期] 月4回前後+号外

ページのトップへ