岩崎夏海
@huckleberry2008

岩崎夏海の競争考(その21)

なぜ若者に奴隷根性が植えつけられたか?(前編)

※「競争考」はメルマガ「ハックルベリーに会いに行く」で連載中です!

岩崎夏海の競争考(その21)なぜ若者に奴隷根性が植えつけられたか?(前編)

 

歴史を見ることで、なぜ若者たちに奴隷根性が植え付けられたのかがわかる

若者たちが自らの奴隷根性を断ち切るためには、まず「なぜ自分たちに奴隷根性が植えつけられたのか?」を知らなければならない。というのも、若者たちのほとんどは、それが「なぜ」かはもちろん、「自分たちに奴隷根性が植えつけられている」という事実さえ知らない場合が多いからだ。しかしながら、「なぜ自分たちに奴隷根性が植えつけられたか」を知ることができれば、自分たちに奴隷根性が植えつけられているということもはっきりと自覚できる。それは、ある特殊な歴史的経緯の中から生まれたのだ。今回は、そこのところを詳しく見ていきたい。

歴史を見ると、ゆとり教育の若者たちになぜ奴隷根性が植えつけられたのか、よく分かる。ところで、まずはぼくの話をしてみたい。ぼくは、1968年生まれで、今は46歳だ。そんなぼくは、社会に出てから、10歳くらい年上の先輩とよくつき合ってきた。そもそも師匠である秋元さんが10歳年上だった。それ以外の放送作家の先輩も、7、8歳年上が多かった。そのため、ぼくより10年年上の世代のことはよく知っているのだが、この世代の特徴を一言でいえば「享楽主義」だった。楽しまなければ損と思っていた。努力することをバカらしいと思っていた。暑苦しいとか汗臭いのを何よりも嫌った。スマートに、今を楽しむことを至上命題としていた。それはまるで、「アリとキリギリス」に出てくるキリギリスのような生き方だった。

そういう生き方は、ぼくらの世代とは大きく違った。ぼくらには、たった10年違うだけなのに、享楽主義的な考え方がほとんどなかった。それよりも、「アリとキリギリス」でいえばアリになることが称揚された。努力や根性はけっして悪いことではなく、暑苦しかったり汗臭かったりすることは価値とされた。熱血という言葉も褒め言葉として機能していた。

両者はほとんど百八十度違っていたといっても過言ではなかった。どうしてこんなに違ってしまったのか? 若い頃は、それが当たり前と思っていたし、他の世代と比較したこともなかったので、そのことをあまり考えたことがなかった。しかし、年齢を重ねて他の世代のことが分かったり、歴史を学んだりすると、そこには大きな「断絶」があることが分かってきたのだ。

 

1968年生まれから見た断絶

1968年生まれと、それより10歳年上の世代には、大きな断絶がある。両者には決定的な差がある。それは、他の世代と比較してもなお大きな差だ。なぜそんな差が生まれたかといえば、それは、ぼくらの世代が体験しなかったあるできごとを、ぼくらの上の世代が体験したことにある。ぼくらが体験しなかったある歴史的な事件を、ぼくらの上の世代は体験しているのだ。

それが何かといえば「あさま山荘事件」である。ぼくらの世代はあさま山荘事件を体験しなかったが、ぼくらより上の世代はあさま山荘事件を体験しているのだ。実は、これが巨大な差となって、両世代の間に断絶を引き起こしたのである。

ではなぜあさま山荘事件が両者の間に断絶を引き起こしたのか? それを知るには、「あさま山荘事件というのは何だったのか」ということを知る必要がある。

1 2
岩崎夏海
1968年生。東京都日野市出身。 東京芸術大学建築科卒業後、作詞家の秋元康氏に師事。放送作家として『とんねるずのみなさんのおかげです』『ダウンタウンのごっつええ感じ』など、主にバラエティ番組の制作に参加。その後AKB48のプロデュースなどにも携わる。 2009年12月、初めての出版作品となる『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』(累計273万部)を著す。近著に自身が代表を務める「部屋を考える会」著「部屋を活かせば人生が変わる」(累計3万部)などがある。

その他の記事

YouTube発信を始めようと考えた理由(本田雅一)
「貸し借り」がうまい人は心が折れない(岩崎夏海)
「Googleマップ」劣化の背景を考える(西田宗千佳)
驚きとは、システムのほころびを愛でること(名越康文)
国民の多極分断化が急速に進むドイツ(高城剛)
最近「オタク叩き」の論調がエクストリーム化して理解が非常にむつかしい件(やまもといちろう)
京都で実感した宗教を超える文化のグローバリゼーション(高城剛)
新MacBook Proをもうちょい使い込んでみた(小寺信良)
旅行需要急増でのんびり楽しめる時間が残り少なくなりつつある南の島々(高城剛)
「昔ながらのタクシー」を避けて快適な旅を実現するためのコツ(高城剛)
20代のうちは「借金してでも自分に先行投資する」ほうがいい?(家入一真)
正しい正しさの持ち方(岩崎夏海)
ソニーが新しい時代に向けて打つ戦略的な第一手(本田雅一)
信仰者の譲れない部分(甲野善紀)
日本の「対外情報部門新設」を簡単に主張する人たちについて(やまもといちろう)
岩崎夏海のメールマガジン
「ハックルベリーに会いに行く」

[料金(税込)] 880円(税込)/ 月
[発行周期] 基本的に平日毎日

ページのトップへ