岩崎夏海
@huckleberry2008

岩崎夏海の競争考(その21)

なぜ若者に奴隷根性が植えつけられたか?(前編)

あさま山荘事件にはどんな意味があったのか

あさま山荘事件とは、一言でいえば「政治闘争の敗北」である。「革命の敗北」といった方がいいかもしれない。ある革命を起こそうとした若者グループが、警察の手によって鎮圧され、敗北した事件があさま山荘事件だ。

そして肝心なのは、その模様がテレビで1週間にわたり放映されたことだった。それも、1日24時間、ずっとその模様を放送し続けたのだ。それが、日本中で大きな話題となった。信じられないくらいの視聴率を獲得したのである。多くの人が、それを伝えるテレビの画面に夢中になった。数多くの国民が、一週間、それを伝えるテレビ放送を見続けたのだ。

テレビといっても、今のすっかり影響力を失ってしまったテレビではない。紅白歌合戦が80パーセントもの視聴率を獲得するような、それが日本文化の中心に位置していた頃のテレビだ。その影響力は計り知れないほど大きかった。特に、子供にとって大きかった。当時の子供たちは、テレビというと夢中になってみていた。そのため、この時代にはウルトラマンや仮面ライダー、戦隊ヒーローといった子供向けの番組がいくつも生まれた。それらのコンテンツがいまだに続いていることを考えると、この頃のテレビの子供に対する影響力がいかに凄まじかったが想像できるだろう。

その凄まじい影響力を持ったテレビが、一週間の長きにわたって、革命の敗北を放映し続けたのである。それは、当時の子供たちに巨大な影響を与えた。彼らの心には、決定的に「ああいう政治闘争をしてはいけない」という意識が植えつけられたのだ。「ああいうふうに熱くなって戦うのはバカだ」という概念が埋め込まれたのである。そういう考えは、特に小学校高学年から高校生に至るまでの、思春期の若者たちを直撃した。そうして彼らは、一気に「闘争」というものへの嫌悪感をふくらませた。戦わなくなったのである。熱くなるのを拒否しだしたのだ。

そんな彼らは、当時「しらけ世代」と呼ばれて話題になった。

しらけ世代 - Wikipedia

そういう「世代の特徴」を作ってしまうほど、この事件の影響は大きかった。そうして、そんなシラケ世代がやがてもう一つの歴史的な出来事「バブル経済」と遭遇し、やがてそれが、今の若者に奴隷根性を植えつけていくこととなるのだが、それらは次回以降にお伝えしていく。なお、この項は「前編、中編、後編」と、3回にわたってお送りする予定である。

 

※「競争考」はメルマガ「ハックルベリーに会いに行く」で連載中です!

 

岩崎夏海メールマガジン「ハックルベリーに会いに行く」

35『毎朝6時、スマホに2000字の「未来予測」が届きます。』 このメルマガは、『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』(通称『もしドラ』)作者の岩崎夏海が、長年コンテンツ業界で仕事をする中で培った「価値の読み解き方」を駆使し、混沌とした現代をどうとらえればいいのか?――また未来はどうなるのか?――を書き綴っていく社会評論コラムです。

【 料金(税込) 】 864円 / 月
【 発行周期 】 基本的に平日毎日

ご購読・詳細はこちら

http://yakan-hiko.com/huckleberry.html

 

岩崎夏海

1968年生。東京都日野市出身。 東京芸術大学建築科卒業後、作詞家の秋元康氏に師事。放送作家として『とんねるずのみなさんのおかげです』『ダウンタウンのごっつええ感じ』など、主にバラエティ番組の制作に参加。その後AKB48のプロデュースなどにも携わる。 2009年12月、初めての出版作品となる『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』(累計273万部)を著す。近著に自身が代表を務める「部屋を考える会」著「部屋を活かせば人生が変わる」(累計3万部)などがある。

1 2
岩崎夏海
1968年生。東京都日野市出身。 東京芸術大学建築科卒業後、作詞家の秋元康氏に師事。放送作家として『とんねるずのみなさんのおかげです』『ダウンタウンのごっつええ感じ』など、主にバラエティ番組の制作に参加。その後AKB48のプロデュースなどにも携わる。 2009年12月、初めての出版作品となる『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』(累計273万部)を著す。近著に自身が代表を務める「部屋を考える会」著「部屋を活かせば人生が変わる」(累計3万部)などがある。

その他の記事

鉄鋼相場の変調とアジア経済の調整(やまもといちろう)
「50歳、食いしん坊、大酒飲み」の僕が40キロ以上の減量ができた理由(本田雅一)
人も社会も「失敗」を活かしてこそサバイブできる(岩崎夏海)
子どもに「成功体験」を積ませることよりも、親の「しくじった話」が子どもの自己肯定感を育むってどういうこと?(平岩国泰)
中国からの観光客をひきつける那覇の「ユルさ」(高城剛)
歴史が教えてくれる気候変動とパンデミックの関係(高城剛)
感度の低い人達が求める感動話(本田雅一)
参議院議員選挙をデータで眺める(小寺信良)
ダイエットは“我慢することでは達成できない”というのが結論(本田雅一)
猛烈な不景気対策で私たちは生活をどう自衛するべきか(やまもといちろう)
私たちの千代田区長・石川雅己さんが楽しすぎて(やまもといちろう)
「深刻になる」という病(名越康文)
武術研究者の視点—アメフト違法タックル問題とは? そこから何かを学ぶか(甲野善紀)
「常識の毒」を薬に変える(名越康文)
「不倫がばれてから食生活がひどいです」(石田衣良)
岩崎夏海のメールマガジン
「ハックルベリーに会いに行く」

[料金(税込)] 880円(税込)/ 月
[発行周期] 基本的に平日毎日

ページのトップへ