岩崎夏海
@huckleberry2008

岩崎夏海の競争考(その22)

「なぜ若者に奴隷根性が植えつけられたか?(中編)

※「競争考」はメルマガ「ハックルベリーに会いに行く」で連載中です!

岩崎夏海の競争考(その22)なぜ若者に奴隷根性が植えつけられたか?(中編)

 

シラケ世代

1955年から1965年くらいの間に生まれた人々は「シラケ世代」と呼ばれた。それは、彼らがテレビから多大な影響を受ける幼年期、あるいは思春期に、まるまる一週間、生放送であさま山荘事件を見続させられたからだ。そこで彼らは、革命家が警察によって決定的に敗北させられる現場を目撃した。そして「戦っても結局は負けるんだ」「熱くなったらカッコ悪い」という意識が植えつけられた。そのため、「人生は楽しまなければ負け」という考えが、知らず知らずのうちに醸成されていったのである。

そんな彼らは、一つの上の「団塊の世代」が学生運動などで熱い青春期を送っていたのに比べ、非常に冷めていたから「シラケ世代」と呼ばれるようになった。ところで、ここで重要なのは、彼らはシラケて、自らは戦いに参加しなかったものの、否応なく「ある戦い」に巻き込まれたということだ。それは「受験戦争」だ。シラケ世代は、団塊の世代の後に訪れた学歴重視の世の中で、最も熾烈な受験戦争に巻き込まれた人々でもあった。ちょうど、共通一次試験が1979年に導入され、多くの学生がそれを受けるようになった。そこでは、日本中の若者が一つの試験で比べられるという、過酷な競争を強いられたのだ。

ここに、一つの「引き裂かれ」が生じる。シラケ世代は、幼時に「戦ったら負けだ」という思想を植えつけられたにもかかわらず、思春期には「受験戦争」という「戦い」に否応なく巻き込まれた。それを嫌々させられた。

この「受験戦争」は、大きな社会問題になった。勉強についていけない落ちこぼれが多数発生した。そのため学校が荒廃し、校内暴力が拡大した。いわゆる「不良学生」が増産され、「ヤンキー」という言葉が広まったのもこの頃だった。さらには、受験勉強に心を病ませる学生も多発した。その中の一人が、勉強を強いた両親を恨み、金属バットで殴り殺すという事件が発生し、世間に大きなショックを与えた。1980年のことだった。

そんなふうに、受験戦争の激化によって、学生たちは苛烈な環境のただ中に置かれた。シラケ世代は、かつてなかったほどに勉強を強いられるという、皮肉な状況に置かれたのだ。

さらに、そんなシラケ世代を第三の皮肉な状況が直撃する。それは「バブル経済」である。

 

1 2
岩崎夏海
1968年生。東京都日野市出身。 東京芸術大学建築科卒業後、作詞家の秋元康氏に師事。放送作家として『とんねるずのみなさんのおかげです』『ダウンタウンのごっつええ感じ』など、主にバラエティ番組の制作に参加。その後AKB48のプロデュースなどにも携わる。 2009年12月、初めての出版作品となる『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』(累計273万部)を著す。近著に自身が代表を務める「部屋を考える会」著「部屋を活かせば人生が変わる」(累計3万部)などがある。

その他の記事

どうせ死ぬのになぜ生きるのか?(名越康文)
週刊金融日記 第314号【簡単な身体動作で驚くほどマインドが改善する、日米首脳会談は福田財務事務次官「おっぱい触らせて」発言でかき消される他】(藤沢数希)
お掃除ロボットが起こした静かな革命(名越康文)
話題のスマホ「NuAns NEO」の完成度をチェック(西田宗千佳)
「平気で悪いことをやる人」がえらくなったあとで喰らうしっぺ返し(やまもといちろう)
猥雑なエネルギーに満ちあふれていた1964年という時代〜『運命のダイスを転がせ!』創刊によせて(ロバート・ハリス)
「今の技術」はすぐそこにある(西田宗千佳)
ネットも電気もない東アフリカのマダガスカルで享受する「圏外力」の楽しみ(高城剛)
安倍政権の終わりと「その次」(やまもといちろう)
22年出生数減少の「ですよねー」感と政策の手詰まり感のシンフォニーについて(やまもといちろう)
いまそこにある農政危機と農協系金融機関が抱える時限爆弾について(やまもといちろう)
週刊金融日記 第297号【世界最大のビットコイン市場であるビットフライヤーのBTC-FXを完全に理解する、法人税率大幅カットのトランプ大統領公約実現へ他】(藤沢数希)
アーユルヴェーダについて(高城剛)
「温かい食事」だけが人生を変えることができる #養生サバイバル のススメ(若林理砂)
仮想通貨周りやオンラインサロンが酷いことになっている現状について(やまもといちろう)
岩崎夏海のメールマガジン
「ハックルベリーに会いに行く」

[料金(税込)] 880円(税込)/ 月
[発行周期] 基本的に平日毎日

ページのトップへ