岩崎夏海
@huckleberry2008

岩崎夏海の競争考(その23)

なぜ若者に奴隷根性が植えつけられたか?(後編)

ゆとり世代の誕生

そうして、「ゆとり世代」が誕生した。彼らは、シラケ世代の両親に溺愛されて育った。おかげで、非常に楽に生きることができた。目の前に障害があっても、親がそれを取り除いてくれたからだ。彼らはただ、親に愛想さえ振りまいていれば良かったのだ。しかしおかげで、競争する機会を奪われてしまった。運動会では、負けた悔しさを味わわせないようにと、勝った子への報償が廃止された。ひどいところでは、全員が手をつないで横並びでゴールした。やがて思春期になると、「受験戦争」がどんどんと取り除かれていった。AO入試が流行し、勉強ができない子のための大学も用意された。そうして、受験に失敗する悔しさを味わわせないようにしたのである。

さらに、そういう状態の中で不況が続いた。ゆとり世代の子供たちは、生まれてから大人になるまで、一度も好景気を体験することがなかった。だから、格差というものが広がらなかった。みな、そこそこの水準にとどまっていて、その意味では平等だった。しかも、デフレ社会だったから必要なものはそれなりに揃った。貧乏にはほど遠く、飢えなどとは無縁だった。そのため、それなりに幸せだったのだ。

そうして、ついに彼らの内面から「競争する」ということへの価値観が失われてしまった。というより、それを育むチャンスを失った。なぜなら、競争をしなくても生きてこられたからだ。いやむしろ、競争を忌避することが最善の選択となるような人生を、ここまで送ってきた。庇護者である親に愛想さえ振りまいておけば、簡単に生きることができたからだ。その意味では、彼らは奴隷も同然だった。自らの主体性など、ほとんどゼロに等しかったのである。

ところが、そういう状態で社会に出たときに、彼らを待ち受けていたのは空前の「大競争社会」だった。世の中は格差が拡大し、必ずしも平等ではなくなった。不況が終わって、金持ちが生まれる代わりに貧乏もまた生まれるようになっていた。

そのため、大混乱が巻き起こったのだ。若者のほとんどが、大競争時代に飲み込まれ、為す術もないまま「捨て駒」として、いいように使われるようになったのである。

次回は、そんなゆとり世代を襲った「大競争時代」と、彼らと「相互依存」の関係を育んだ「ブラック企業」について見ていきたい。
※「競争考」はメルマガ「ハックルベリーに会いに行く」で連載中です!

 

岩崎夏海メールマガジン「ハックルベリーに会いに行く」

35『毎朝6時、スマホに2000字の「未来予測」が届きます。』 このメルマガは、『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』(通称『もしドラ』)作者の岩崎夏海が、長年コンテンツ業界で仕事をする中で培った「価値の読み解き方」を駆使し、混沌とした現代をどうとらえればいいのか?――また未来はどうなるのか?――を書き綴っていく社会評論コラムです。

【 料金(税込) 】 864円 / 月
【 発行周期 】 基本的に平日毎日

ご購読・詳細はこちら

http://yakan-hiko.com/huckleberry.html

 

岩崎夏海

1968年生。東京都日野市出身。 東京芸術大学建築科卒業後、作詞家の秋元康氏に師事。放送作家として『とんねるずのみなさんのおかげです』『ダウンタウンのごっつええ感じ』など、主にバラエティ番組の制作に参加。その後AKB48のプロデュースなどにも携わる。 2009年12月、初めての出版作品となる『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』(累計273万部)を著す。近著に自身が代表を務める「部屋を考える会」著「部屋を活かせば人生が変わる」(累計3万部)などがある。

1 2
岩崎夏海
1968年生。東京都日野市出身。 東京芸術大学建築科卒業後、作詞家の秋元康氏に師事。放送作家として『とんねるずのみなさんのおかげです』『ダウンタウンのごっつええ感じ』など、主にバラエティ番組の制作に参加。その後AKB48のプロデュースなどにも携わる。 2009年12月、初めての出版作品となる『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』(累計273万部)を著す。近著に自身が代表を務める「部屋を考える会」著「部屋を活かせば人生が変わる」(累計3万部)などがある。

その他の記事

なぜ母は、娘を殺した加害者の死刑執行を止めようとしたのか?~ 映画『HER MOTHER 娘を殺した死刑囚との対話』佐藤慶紀監督インタビュー(切通理作)
なぜ若者に奴隷根性が植えつけられたか?(後編)(岩崎夏海)
大きくふたつに分断される沖縄のいま(高城剛)
Appleがヒントを示したパソコンとスマホの今後(本田雅一)
東大卒のポーカープロに聞く「場を支配する力」(家入一真)
2021年は、いままで以上に「エネルギーと環境」が重大な関心事になる年に(やまもといちろう)
週刊金融日記 第316号【Twitterオフパコ論の再考察とTOKIO山口メンバーはおっさんになったらモテなくなったのか他】(藤沢数希)
検査装置を身にまとう(本田雅一)
やまもといちろうのメールマガジン『人間迷路』紹介動画(やまもといちろう)
インタラクションデザイン時代の到来ーー Appleの新製品にみる「オレンジよりオレンジ味」の革命(西田宗千佳)
マイナンバーカードについて思うこと(本田雅一)
日本人に理想的な短期間ダイエット「七号食」(高城剛)
急速な変化を続ける新型コロナウィルスと世界の今後(高城剛)
なぜか「KKベストセラーズ」問題勃発と出版業界の悲しい話(やまもといちろう)
クリエイターとは何度でも「勘違い」できる才能を持った人間のことである(岩崎夏海)
岩崎夏海のメールマガジン
「ハックルベリーに会いに行く」

[料金(税込)] 880円(税込)/ 月
[発行周期] 基本的に平日毎日

ページのトップへ