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岩崎夏海の競争考(その26)ゆとり世代に迫るタイムリミット
「非」ゆとり世代と接してみて感じたこと
ゆとり世代は、ほとんど競争をしないままに大人になった。そうして、社会に出てからも競争から逃げたことで、上の世代の恨みを買い、社会の中での立場をなくした。それが原因となって、老人と若者の格差が拡大したり、ブラック企業が増えたり、就活がエスカレートしたりといった問題を生み出した。
しかしそれらは、これから起こるであろう問題に比べれば、まだまだ軽いものだ。これから起こるであろう問題に比べると、ほんの前哨戦に過ぎない。実は、ゆとり世代には新たなる危機が迫っている。あるタイムリミットが迫っているのだ。それは、ゆとり教育ではなくなった「非ゆとり世代」が、新たに社会に出てくる――ということだ。
ゆとり教育は、2010年に終わった。その年、文科省の学習指導要領から「ゆとり」の文字が消された。ちょうどその年、ぼくはテレビの企画で、母校の小学校に授業に行く機会を得た。そこで、小学校6年生の子供たちに、丸2日、授業をすることになったのだ。
そこへ行く前、ぼくは戦々恐々としていた。というのも、お笑い養成所で講師をする中で、ゆとり世代のひどさはさんざん味わっていたから、それより下の子供たちがどんな悲惨な状況になっているか、想像もつかないと思っていたからだ。「授業中、勝手に歩き出したりしたら叱らなければならないのだろうか」「叱っても、話が全然通じないのではないだろうか」「モンスターペアレントが出てきたらどうしよう」
そんな暗い気持ちで授業に臨んだのだが、いざ始まるとびっくりした。全ての生徒が、きちんと授業を聞いているのである。それだけではなく、彼らが緊張し、集中しているのがよく伝わってきた。しかも、問題を間違えた子にそれを指摘すると、真摯に反省していたのである。それで、不思議に思ってその学校の先生に聞いてみた。「彼らは、ゆとり教育の申し子ではなかったのか?」と。
すると、そこで興味深い答えが返ってきた。というのも、この頃になると、確かにゆとり教育は形の上では残っていたが、その現場からはすっかり取り払われていたのだそうである。現場では、2000年代の初めくらいから、すでにゆとり教育には重大な欠陥があることに気がついて、もう少し厳しくしつけるスタイルに変わっていたらしい。その学校は、特に教育熱心な地域だったから、なおさらそういう傾向が強いというのはあったかもしれない。それにしても、教育指導要綱から「ゆとり」の言葉が外される数年前から、すでに「ゆとり教育」は形骸化していたのだ。
そのため、その小学生たちはみないい子なのであった。ゆとり世代のように、話しても響かなかったり、受け止めずにごまかしたり、逃げたりするということがなかったのである。「ゆとり教育はすでに終わっていた!」それが、母校の子供たちに触れて初めて分かったことだった。
それから、再びお笑い養成所に戻って、ゆとり世代の若者たちに教える日々が始まった。するとその中で、ふとあることに気がついた。それは、ぼくの中で、ゆとり世代と先日出会った非ゆとり世代を、比べているということだった。比べて、なおかつ、非ゆとり世代を好意的に思っていた。「ぼくの生徒が、このようなゆとり世代ではなく、あの小学校で出会った非ゆとり世代であったら、どんなに有意義なものになるだろう」そんなふうに思って、目の前のゆとり世代の若者たちを疎ましく感じていたのである。
そのときぼくは、ある重大なことに気づかされた。それは、あと10年もすれば、ぼくが母校の小学校で出会ったような非ゆとり世代は、社会に出てくるということだ。そして、そのとき社会の上層に位置する人たちは、ぼくと同じようにゆとり世代と非ゆとり世代を比べることになる。すると、必然的に若く、溌剌として、しかも人間として逞しく、頼もしい非ゆとり世代に、愛情が湧くのではないか。そうなると、役に立たず、言い訳ばかりして、すぐに逃げ出すゆとり世代は、「使い物にならない」という烙印を押され、社会の片隅に追いやられてしまうのではないだろうか。

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