小寺・西田の「金曜ランチビュッフェ」より

今だからこそ! 「ドローンソン」の可能性

※メールマガジン「小寺・西田の金曜ランチビュッフェ」2015年5月1日 Vol.033 <黄色い週間号>より

 

去る4月26日、Engadget主催の「ドローンソン」が開催された。先週のメルマガでもお伝えしたが、ドローンのポジティブな部分をもっと拡大するためのアイデアを出し合い、それの実現に向けて研究開発していこう、という主旨の会である。いわゆるアイデアソンのドローン版といったところだ。当日はドローンを業務で利用している方のお話しなども挟みながら、20数名の一般参加者を得て活発な意見交換が行なわれた。

・多くの参加者を集めたドローンソン

午前中は、国際医療福祉専門学校講師の小澤貴裕氏から、ドローンの救急医療の可能性について学んだ。ご存じのようにDJIのPhantom2は、GoProのようなカメラとジンバルを持ち上げることができる。積載重量のことをペイロードというが、Phantom2はだいたい400gぐらいだ。したがってすでにカメラとジンバルを搭載していると、残りはあと100g程度ということになる。

小澤氏はカメラ搭載モデルのPhantom2 Vision +を改造し、「エピペン」という緊急用の自分で打てる注射器を運び、遠隔で自動投下するというデモ映像をご披露いただいた。

・エピペン

http://www.epipen.jp/

エピペンとは、ショック状態を防ぐためのアドレナリン自己注射薬で、救急隊が到着する前、あるいは医師による治療の前に使用するものだ。今救急車の平均到着時間は通報から8分だが、それはもちろん、当日の交通状況や、現場までの距離によって大きく変動する。ドローンなら、最短距離でエピペンを運んで投下するということができる。

また試作機の段階であり、本当の現場に投入するには様々なハードルがあるのは事実だが、具体的に緊急医療で使う物資を運ぶという目標がセットされたのは喜ばしいことだ。

・脚部を自動開閉する仕組みを改造して試作した、エピペン自動投下装置

午後の講演では、ドローンの自社開発および業務利用を行なっているブルーイノベーション株式会社社長の熊田貴之氏から、ドローンの世界的利用状況と含め、幅広く業務利用の世界をご紹介いただいた。大学と連携して海岸線の測量や解析を行なうプロジェクト、あるいはエンタテイメント分野としては、空撮映像とVR技術を融合した「のび太と空中散歩」というコンテンツを拝見した。

・"ドラえもん『のび太と空中散歩』"プレイ動画

2つの講演を拝聴したあと、参加者全員でドローンの新しい活用法について、アイデアを出して頂いた。参加して下さった方々は、ソフトウェアエンジニア、電子工作が得意な人、実際にドローンを使って点検業務などを行なっている方、大学生、イベントプランナー、無線通信技術者、ドローン開発者、ドローン芸人、小学生など、多岐に渡る。おそらくドローンへの興味がなければ、一生知り合いになることはなかっただろう組み合わせである。

それぞれが思い思いのアイデアを紙に書き、ペアを組んでお互いのアイデアをブラッシュアップする。ペアを入れ替えながらこれを数回行なったあと、プレゼンテーションシートを書いてもらった。

このシートをみんなで見て回り、これはいけると思ったアイデアに投票してもらう。投票基準としては、3つの条件を出させて頂いた。

社会にとって有益であること
自分もやってみたいという面白さがあること
実現可能性が高いこと

この条件で、得票の多い順から4つを選び、プロジェクトチームを作ってもらった。簡単にできそうですぐに役に立ちそうなものや、技術的なハードルは高いがエンタテイメント性が高いものなど、なかなか面白いプロジェクトが揃った。さらにそのあとの懇親会で、もう1つプロジェクトが立ちあがったようである。

これらのプロジェクトによる成果は、5月30日に開催される「Engadget例大祭」の中の、「第3回クワッドコプター選手権」でお披露目される予定だ。およそ1カ月の開発期間で、アイデアを形にするのはなかなかハードだが、すでにチームのメンバーはノリノリで動き出している。このメルマガが出る頃、我々スタッフは会場のコース設計や参加ルール、審査基準といった下回りの打ち合わせをしているはずである。

今週になって、ドローンの法的規制の話も頻繁にニュースになっており、ネットでの意見を見る限り、早く規制してしまえという人の声が大きいようだ。だが規制するということは、技術の恩恵を受ける人も減るということであり、拙速な規制は今後の技術的可能性の芽を摘んでしまう。さらには、この技術に触れる人が少なくなることで、悪用に対抗できる技術の開発や方法論の研究といったことも少なくなる。こういうものは、より多くの人が技術を理解し、積極的に参入することではじめて、キチンとしたバランスで機能するものだ。国に方向性を決めてもらうようなものではない。

飛ぶものは、何か事故があれば落ちる運命にある。それを承知で、この技術がどう社会に貢献していけるか、自分たちでその道を探したいのだ。

 

小寺・西田の「金曜ランチビュッフェ

2015年5月1日 Vol.033 <黄色い週間号>目次

01 論壇(西田)
4K・8K・HMDから考える「ディスプレイの未来像」
02 余談(小寺)
今だからこそ! 「ドローンソン」の可能性
03 対談(小寺)
電子書籍を端末の歴史から眺めてみる(2)
04 過去記事アーカイブズ(西田)
静かに船出した「21世紀のウォークマン」
05 ニュースクリップ(小寺・西田)
06 今週のおたより(小寺・西田)

12コラムニスト小寺信良と、ジャーナリスト西田宗千佳がお送りする、業界俯瞰型メールマガジン。 家電、ガジェット、通信、放送、映像、オーディオ、IT教育など、2人が興味関心のおもむくまま縦横無尽に駆け巡り、「普通そんなこと知らないよね」という情報をお届けします。毎週金曜日12時丁度にお届け。1週ごとにメインパーソナリティを交代。

 

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