本の読み方を知らない人たち
先日、ある古書店を訪ねたときのこと。僕の専門ジャンル、占いに強い書店だったので、ついつい、お店の方と雑談を含めて話し込んでしまったのだが、そんな中で、ベテラン店員さんがこんなことを冗談まじりにおっしゃった。
「鏡さん、本の読み方って本を書いてもらえませんかねえ」
一瞬、意味が分からなかった。なんだそりゃ? 最近多い、日本語を母国語としない人のため手引きのことか? 話を聞いてみるとそうではなかった。れっきとした日本人向けの本なのだそうだ。
どういうことかと聞いてみると、本を自分で選べない、ということらしい。
「本屋にきたときには、まず自分の興味のある本の棚を見るでしょう。
その中から、これかな?と思うものを手にとってみるでしょう?」
はい。当然ですが。
「で、まず『目次』を見るじゃないですか。そのあとで序文とか、目次の中で興味のありそうなところを立ち読みするとか」
うんうん。
僕なら、奥付を見たりもするな。それが専門書なら、参考文献や注などをみて、その本がどの程度信頼できるか、チェックする。まあ、これは半分プロの読み方だけれど……
「で、買うかどうか決めますよねえ」
そりゃそうだ。で、そこに至らせるように、本の作り手は、装丁やタイトルなどに工夫をこらして、まずは手に取ってもらえるようにがんばるのだ。
「それがねえ、できない人が増えたんですよ」
え? じゃ、どうやって本を選ぶの?
とくに占い専門書が多い本屋だからということもあるけれど、まずは、習っている先生が指定した本を買いにくるのだそうだ。それはいいけれど、それだけならネットで買ってもいいだろうに。
さらに驚いたのは、店員さんに「この本って私でもわかりますでしょうか?」と聞いてくる人も少なくないという。
常連ならともかく、初めての人ではその人の関心の方向も経験値もわからない。ましてやその人の理解力など推し量れるわけもない。その質問自体が僕からすると変だ。
これは学力の低下ということではくくれない事態だと思う。基本的に「学ぶ楽しさ」の質が変わったというか、知ることの楽しさが僕たちとは違うということなのだろうか。
このような人が出てくる要因は、複雑だと思うけれどすぐに思う浮かぶのは、「コース修了型」の学習過程が増えたということではないか。
占いというものにしても、ほかのスキルにしても、ある一定のライセンスや修了証を取るためにカリキュラムをこなしていく、という学習法だ。それ自体はハードルがかなり高いものもあって、良質なものも少なくはないだろうが、そこでは「テキスト」があって「段階別」の指導がされる。一定の知識が身に付くとライセンスが与えられるという仕組みだ。
高等教育においては、その過程で自分で独創的な発見や発想をする訓練を積ませられるのだが、カルチャーセンターや塾などではそこまではなかなかできない。よって、自分で本を選ぶというようなことをするのは学習にとっては寄り道でしかないので、先生が指定した本を自分のレベルに合わせてもらって購入する、ということになるのではないだろうか。
こうした方法は無駄がないのかもしれないが、自分で知識を発見する楽しさがない。何よりも、批判精神がはぐくまれない。ある一定の思考の型にたいして、反対する立場の思考や情報に触れることなく、学習が進んでいってしまう。
本を選ぶというのは宝探しだ。はずれもあるし、難しすぎたということもある。しかし、目次をじっくり見て、その本を吟味するという行為そのものが、その本の著者の思考や知識のフレームワークを見通すことであり、「ああ、これは私の言いたいことを知識で裏付けてくれている」と思うにしても、「全く知らないことだから知りたい」と思うにしても、「あれ、これは自分が学んできたこととはどうもまったく違うことを言っているぞ、なんだ?」と思うにしても、自分を大いに刺激してくれることでもある。
ネット書店でも同じだけれど、書店や図書館というのは恐るべき楽しみに満ちた発見現場なのである。順番に課題をクリアしてポイントをかせぐ、ということだけにはない楽しみとスリルがそこにはある。
みなさん、まず表紙を見ましょう。目次をにらみましょう。そこから自分の頭のなかで著者の思考を再現して組み立てなおしましょう。それで本をハントしましょう。これは本当にわくわくする冒険です。
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