やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

クラスターとされた飲食店で何が起きていたか


 短い暑さで終わったこの夏の終わりごろのある日、私も濃厚接触者の疑いとして複数回にわたる検査を受け陰性でした。それ以外でも、5月から都合3度ほど、濃厚接触者として検査の対象となったのですが、相応に気を付けていたからか無事陰性続きでございます。

 もう旧聞に属し、また、問題となったお店もママさんの御英断で「一時休暇」となりまして、関係者からも問題ないという話でしたので雑記帳に書くわけなんですが。

 ある上場企業経営者のお誕生日の集まりがその銀座の飲食店であり、また、同時にその会社にお勤めの某氏のご結婚発表などもあって、15人ぐらい顔なじみが集まる場として、銀座のママさんがお店を提供してくれたのです。もちろん、ママさんのお店を利用する理由はあるわけですが、それは野暮ですのでここでは書きません。

 確かに、ご体調の悪いご同業の紳士がマスク越しに咳をしていたのは見ていました。のちに体調不良で会合に来てしまい申し訳なかったという釈明のメールやお手紙も頂戴したのですが、正直それはお互い様であるし、わざわざ地方からこのイベントのためもあって上京され、御近況を訊きたいとお呼びしたのは主賓経営者氏であったため、それは言いっこなしよと返答をしました。そのときは、ご自身もまさかコロナに罹患されているとはご存じなかったでしょうからね。

 ただし、その代償はそこそこ高くつき、その店で複数人の接触があってクラスター化した、という話は瞬く間に広がりました。いやもう、あっという間に。そこのママさんは大手のお店のOGなのですが、夜の街の恐ろしさをよくご存じだということで、そのような疑いがかけられた翌々日にはお店をしばらく畳む決心をしていたそうです。

 さらに悪くしたことに、地域やビルの名前も明らかになりそこの店でコロナが出たということで名指しで問題視されていたところ、少し後で経営者氏が操舵するクルーザーのうえで美男美女がにこやかに集まる写真をFacebookに載せるなどしたため、巻き添えを食った関係先からもクレームとなり、しめやかにそのFacebookは削除されるに至りました。

 そして9月に入ってから六本木や麻布でも似たような別の上場企業経営者氏の開催するパーティーで同じ類のコロナ禍の問題が出て、これまた同じように濃厚接触者の検査が行われることになりました。もうこのころは、すでに界隈では「相当コロナウイルスの感染者の人たちが夜の街を遊び回っているのだろう」という確信に近い噂が出回るようになり、私など家庭持ちで医療関係の縁にいる人間は、いくら付き合いのある経営者やファンドからのお声が掛かってもなるだけそういう店には寄り付かないようになります。

 最終的に、その経営者氏も10月に入ってコロナウイルスに感染してしまい、同行していた幹部社員ともども遙か北の大地で逼迫する医療サービスのお世話になることになってしまったようです。何してんだよと思いますが、何かしてたんでしょう…。迷惑な話ですが、本人から連絡をもらって元気を確認できてそれは良かったわけですが、やはりバイアスがかかっているというか、私がまさか罹患するとは思わなかった、と書かれておるわけです。

 結局、夜の街で遊び回るクラスターはだいたい顔見知りで、どこかしらパーティーや会合で一緒になるので、リスクの高い60代、70代以上の財界紳士の皆さんは「遊びたい」のと「コロナが怖い」という狭間で揺れ動いた挙句、「きちんとコロナ対策がされているならば、そちらのお店に顔を出したい」という折衷策を取ります。それがアカンねんと思うんですが。

 そうなると、必然的に夜の街クラスタとされた各お店に次亜塩素酸水を薄めた溶液を空中に噴霧して「コロナを空間除菌」するシステムが稼働することになります。もちろん、そういう方面にリテラシーのある私や他の経営者はそういう対策を採るような店には行かないという選択になるわけですけれども、「空間除菌はやって損はないんだろ」「あの店の安全への配慮はしっかりしている」と誤認したお爺ちゃん経営者はみんなそのような「対策の取られた店」へと優先的に行くようになるのです。

 もちろん、そんなもん噴霧してもコロナウイルスが減ることなどなく、むしろ別の病気になるだろと思うわけなんですが…。

 当然、まともな人たちはあまり寄り付かなくなるので、夜の街で頑張っておられるママさんたちや、そこで頑張ってこられた人たちは仕事が一気に干上がります。これはもう、どうしようもないことだと思うのですが、そういう人たちが今度はパパ活という名のセルフ管理売春のほうに行って別の問題を起こします。

 要は、お店で集まって騒がなければよいのだろうということで、気の利いた経営者同士が集まってタワマン上層階の部屋をカネを出し合って借り、実質的なヤリ部屋を作ったり、クルーザー船を買ってきて洋上でコンパをやるわけです。私のような敬虔な妻帯者には無縁の世界ですが、その方面で付き合いがあると、いわゆる「みせびらかし」のために画像が回ってくるわけですよ。まだトライアスロンやグランピングの画像のほうが精神衛生上良いのにとは思います。

 やはり、カネはあればあっただけ良いのは間違いないにしても、コロナで世間が沈滞しているけど遊びたい人たちはたくさんいて、カネの使い方が昔とはずいぶん変わってきたぞというのが気になるところです。夜の街全体が干上がっているなら、潤っている客のところに行けばいいのだという生き延び方は逞しいと言うべきか、そこまでやるのかと言うべきか。

 かくいう私自身は、仕事以外で家から出ることなく、子どもたちとジョギングをしたり、家族でカニ鍋をやったりしてつつましく過ごしております。私は海老カニなど甲殻類アレルギーなので食べませんけど、家族はカニが好きなんですよ。今年の冬は北海道にも行けなさそうですので、静かな年末年始を送るのかなと。
 

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」

Vol.Vol.315 コロナ時代の夜の街のあれこれを記しつつ、このところの国税庁の活躍や新型Macの話題などに触れる回
2020年11月30日発行号 目次
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【0. 序文】クラスターとされた飲食店で何が起きていたか
【1. インシデント1】頑張れ僕らの国税庁!
【2. インシデント2】独自開発チップ採用のApple新型Macで今後期待したいこと
【3. インシデント3】アカンことをした友人をどこまで助けるべきか
【4. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A

 
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やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

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