Wikipediaには載っていない、映画監督・紀里谷和明の本当のhistory。ここでは本人自らそのルーツを語ってもらい、今という時間にどう繋がってきたのか? これは紀里谷の生い立ちを通し、過去・現在、そして未来を灯す、ひとつのストーリーである。(History:Kは、紀里谷和明メールマガジン「PASSENGER」で連載中です)
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宇多田ヒカルのPV制作を通して、徐々に自身の世界観を確立させ始めた紀里谷。そのなかで浮かんできたのは、漠然と思い描き続けていた映画監督への思いだった。その当時、ハリウッドではマトリックスやスパイダーマンが大ヒット。「日本では予算がないから絶対無理」という言葉に悔しさがこみ上げた。「だったら俺が日本映画を変える」。そんな強い気持ちで、実写版「CASSHERN」の映画制作に挑んだのだった。
「CASSHERN」の制作でまず取りかかったのは脚本作りですね。脚本家の菅正太郎さんを紹介してもらって書き始めたわけですが、なんせ脚本を書くなんて生まれて初めてのことです。映画学校に行ったわけでもないし、脚本を読んだこともない。右も左もわからないまま、2人で意見を出し合いながら書いて。ある程度できあがったところで、佐藤大さんが加わって。2人とも、アニメ「攻殻機動隊」のチームなんですよね。それでなんとか脚本が完成して、スタッフに読ませてみたんです。そうしたら、もう『traveling』のときとは比にならないぐらいの反対が始めるわけです(笑)。「こんなのあり得ない。絶対に無理です!」って。そうこうしてる間に、松竹がやるという話も決まって、予算も5億円。それでもスタッフは「無理です!」という反応でした。
その当時は「新世紀エヴァンゲリオン」が盛り上がっていた時代で。それを見ていると、テレビ版とかで文字だけや1カットで止まったままのシーンであるわけですよ。だから、同じことができるんじゃないかと思っていた。俺がスタッフに言ったのは、「中途半端でも、最終的に合成や加工して完璧にする。俺が絶対に責任を持つから、とにかくやらせて欲しい」と。スタッフも疑いながら徐々に動き出してくれたんです。
絵コンテ作りからスタートしたんですが、「全カットの絵コンテを書く」と俺が言い始めたもんだから、それだけで数か月かかるわけですよ。普通、実写の映画で全カットの絵コンテなんてあり得ないですけど、それをやらないと話にならないと思っていたんです。それと同時にプレビズといって、撮影に入る前にCGなどにも取り掛かり始めました。予算5億円といっても、キャストの出演料や衣装、セット代も含まれてるわけですから、とにかくお金がない。もう仕方ないからCG部とみんなで秋葉原に行ってパーツを買って、コンピュータを組み立てるところから始まって。スタッフもギャラが高い人は雇えませんから、チーフはちゃんと人をたてて、それ以外は専門学校を出たての子とか学生レベルの子とかを多用した。もうありとあらゆる人材を集めてもらいました(笑)。それでコンピュータを30台組み立てて、今でいうアフターエフェクトを突っ込んで。今だと全然使えるんですけど、その当時は「アフターエフェクトなんて映画じゃ使えるわけない」という次元でした。普通はインフェルノっていう1台1億円ぐらいする機械を使うところを、うちらは十数万の機械でやると。でも、そうじゃないとできなかったんです。そんな状況だったので、さすがにプロデューサーが話をつけてくれて、最終的に予算を6億円にしてくれましたけどね。
次はCGのクオリティーをどうするのか。今は4Kとか出てますけど、当時は2Kでもハイクオリティーだったわけです。CGはレンダリングというのをかけないといけなくて、解像度があがるほど作業量は多くなり時間がかかって、それだけお金も掛かる。撮影前に解像度が違うモノをいくつか編集スタジオのイマジカに持っていってテストしたとき、俺が「960でいい」って言ったんです。
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