小寺・西田の「金曜ランチビュッフェ」より

あれ? これって完成されたウエアラブル/IoTじゃね? Parrot Zik 3

※メールマガジン「小寺・西田の金曜ランチビュッフェ」2016年1月29日 Vol.067 <情熱と発想の間号>より


 
ウエアラブル端末が来る来ると言われてもう2年ぐらい経ったような気がするが、実は「常時身につける」というのは結構ハードルが高い。以前JINSの方にインタビューした時も、身につけるもの、特に顔に実装して違和感を持たれないものって、メガネぐらいしかないんですよね、というお話を伺って、なるほどねと思ったものである。

メガネは13世紀に発明されたと言われているが、日本に伝来した16世紀には、知識階級には一般的になっていた。今のように耳にかけるツルがついたのは、17世紀になってからのことである。数百年人類とともにあるわけだから、いい加減違和感はない。したがってJINS MEMEも、アイセンサーでありながら、がっつりメガネメガネしたデザインになっている。

Google Glassも高い可能性が期待されながらも一旦終了したのは、顔につけた時にとてつもなくマヌケに見えるからだと個人的には思っている。いくら良いものでも、かけた途端両津勘吉のコスプレかと言わんばかりの眉毛繋がりに見えるのは、どう考えてもイカしてないわけである。

しかしよくよく考えたら、顔というか頭に取り付けて違和感を持たれないモノがもう一つあった。ヘッドホンである。街中でヘッドホンをつけるという習慣が一般的になった時期は、はっきりしている。ソニーが最初のウォークマンを発売した1979年に始まり、「ウォークマンII」ことWM-2が発売された1981年以降には、すでに違和感はなくなっていた。まさにその時期に青春時代リアルタイムだったので、よく覚えている。

決まった音を持たないヘッドホン

2000年台半ばにヘッドホンブームが起こり、その波は消えることなく続いている。ステレオのようなスピーカーシステムを持たない代わりに、ヘッドホンをいくつも持っているという人は珍しくない。基本的にヘッドホンは、アナログの線で繋がっているものなので、IT的な要素は全くなかった。

ワイヤレスということでは赤外線通信を使った製品もあったが、Bluetoothで繋がるワイヤレス型が登場したのは2011年ごろのことである。当時はIT寄りのメーカー、CREATIVEやロジテック、バッファローなどが、PCと繋がるという文脈の中で製品化していった。2013年頃には、オーディオメーカーも参入し、オーディオ製品として本格的なモデルが多数登場した。

今やドローンメーカーとしてよく知られているParrotが、最初のbluetoothヘッドホンであるParrot Zikを発売したのは、2012年の事である。当時はオーディオ的には全く無名のメーカーという事で、一部の好事家が手を出したような格好だったが、2014年のZik 2、そして今年1月27日から発売のZik 3と、着実に製品を積み上げてきている。2年に1回しか新製品が出ないので、今買えば2年間は散々自慢できる商品である。

そんなわけで、ドローンで仲良くなったコネを利用してParrot Zik 3をお借りすることができたので、ちょっと試してみているところである。

・デザイン的には2.0を継承したParrot Zik 3

・ヘッドバンドの作りはかなり固め

・片側が磁石でくっつくフタになっており、バッテリーも交換できる

Zikは、普通のbluetoothヘッドホンとかなり違う。ワイヤレスで音楽を聴く装置であるというところでは他のものと変わりないのだが、ノイズキャンセリング、ヘッドホン表面をタッチするだけのコントローラ、頭から外すと音楽を自動停止させるといった機能を最初から搭載していた。また専用アプリを通じて音質を自由に変更でき、そのプリセットをユーザー同士で共有出来るという、独自のエコシステムを持っている。

・左右で微妙に穴が違う

・内側のセンサー部。ここが肌から離れると音楽が自動停止する

Zik 3のポイントとしては、以下の3つがある。

1. Qiでのワイヤレス充電に対応
ただし充電器は別途用意する必要がある。

2. USB接続でハイレゾ対応
充電にUSB端子を使うが、PCにさせばUSBスピーカーとして認識、ハイレゾ音源にも対応する。

・USBはもちろん、従来型のアナログ端子も接続できる

・太めのケーブルが付属

3. ソフトウェアがウエアラブルデバイス対応
コントロールソフトが、Apple WatchとAndroid Wareに対応

どれも今時の機能であり、単にデザインのリニューアル以上の価値はある。しかし実際に使ってみて面白かったのは、サウンドが自分の好みに弄れまくるということである。

グラフィックイコライザー的な機能もあるのだが、それよりももっと感覚的に音質が変えられるUIを搭載しており、これをグリグリするだけで好みのサウンドになってしまう。またヘッドホン特有の閉塞感をなくすということで、リバーブやステレオセパレーションの変更もできる。ノイズキャンセルも、単純なON/OFFだけでなく、むしろ積極的に周りの音を聞くストリートモードまで、グラデーション的に変化させることができる。こう言う発想は、いわゆるオーディオ屋にはない。

・直感的なサウンド設定

・リバーブやステレオセパレーションも選べる

・ノイズキャンセリングも自在に設定

・設定のプリセットも多彩な切り口で共有されていく

・スマートウォッチでもコントロール可能

なぜならば、ZikにはZik独特の音というのがないのだ。もちろん、すべての効果をOFFにすれば、それがZikの素の音ということになるだろうが、いじろうと思ったらいくらでもいじれてしまうので、そこを評価しても意味がないんである。そもそもリバーブを入れた時点で、原音忠実主義とかいった概念もない。

真剣に音楽を聴きこむのではなく、装着して心地よく聞ければそれでよしという、実にリラックスしたコンセプトなのだ。これは仕事中に使うと、ものすごく効率が上がる。仕事中にあまりにも「いい音」で音楽をかけていると、気になって集中できないことがあるが、Zikでリバーブ多め、ステレオ広めに設定するといい具合に音が「散る」ので、どんなタイプの音楽でも注意を引かれない音になるのだ。

単に音を飛ばすためにワイヤレスを使うのではなく、どうせ繋がるなら中にプロセッサ入れて、IoT機器として色々コントロールしちゃえばいいじゃん、というヘッドホンなのである。目的が音楽再生にとどまらず、環境音を制御し、最終的には気持ちをリラックスさせる機器となっている。

その点でZikは、「これまでなかった」や、「役に立つ」にこだわらず、従来の機能にアドオンする格好で一般の常識からはみ出している。そういうところから攻めていくというのが、成功するIoTのセオリーなのではないだろうか。

 

小寺・西田の「金曜ランチビュッフェ

2016年1月29日 Vol.067 <情熱と発想の間号> 目次

01 論壇【西田】
 ワコム・山田正彦社長単独インタビュー・全長版 上 「手描きの本質ははインクにある!」
02 余談【小寺】
 あれ? これって完成されたウエアラブル/IoTじゃね? Parrot Zik 3
03 対談【小寺・西田】
 CES2016から見える景色(3)
04 過去記事【西田】
 「すべては2つ持て」 私の海外出張テクニック
05 ニュースクリップ
06 今週のおたより
07 今週のおしごと

 
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