川端裕人メールマガジン「秘密基地からハッシン!」より

絶滅鳥類ドードーをめぐる考察〜17世紀、ドードーはペンギンと間違われていた?

さてさて、クルシウスの本は長く読まれ、また、スペイン人のイエズス会士、Nierembergは、1635年の本"Historia Naturae (Nieremberg 1635)",でも、クルシウスの図版を使った。この本のタイトルは、まさに「ナチュラル・ヒストリー」。ここで、彼は、ペンギンとドードーを見開きの関係で掲載した。

だんだんペンギンとドードーが近くなってきた!

32
〈"Historia Naturae (Nieremberg 1635)",でペンギンとドードーが近づいた〉

さらに1650年のHistoriae Naturalis (Jonstonus c.1650)(これも「ナチュラル・ヒストリー」だ)では、ドードーとペンギンが同じページに掲載された。

ほかにもエミュやヒクイドリやエキゾチックな鳥がたくさん出ている中で、ドードーとペンギンが並んでいる。

おまけに、どっちがどっちのキャプションかわからない!

33
〈Historiae Naturalis (Jonstonus c.1650)ではペンギンとドードーが同じページに〉

34
〈隣並び、どっちがどっちのキャプションなのかよくわからない!〉

 

ドードーがペンギンに入れ替わる

こういった、ドードーとペンギンの接近の中で、別のところで「ドードー・ペンギンの置換」が起きていると著者は指摘する。

1646年に書籍 "Begin en de Voortgangh"の中で、このような図版がある。

この本らしい↓  Voortganghというのが船の名前なのか不明。「はじまりと Voortgangh」みたいなタイトル。
http://www.univie.ac.at/Geschichte/China-Bibliographie/blog/2012/10/06/commelin-begin-ende-voortgangh-van-de-vereenighde-nederlantsche-geoctroyeerde-oost-indische-compagnie/

この本の中に、マゼラン海峡での、キングペンギンの捕獲を描いたものがあるという。これ自体、なにか歴史を感じさせるペンギン史上の一コマだ。

35
〈キングペンギンが捕獲される一コマ。(Begin en de Voortgangh, 1646).〉

そして、その2年後の1648年、H. Soete Boomという出版者が、「Willem West van Zanenの航海日誌」を出版した。van Zanenは、1598年にファン・ネックと一緒ともに航海し、さらに1602年にもう一度モーリシャスを訪ねた人物。つまり、1648年になって、50年前の航海についての航海記録を出版したということ。

下記は、その本に挿入をされた図版。

今はいないジュゴンを捕獲しているところなどが描かれており、ほかには何種類かの鳥の捕獲が描かれている(それぞれどの種に対応するか分かる人は教えて下さい!)

36

〈1602年のモーリシャスへの航海を描いた図版. (H. Soete Boom, 1648).〉

ここで特に注目したいのは中段左。

これはドードーの捕獲とされているのだが、描かれているのは……おそらくキングペンギンだ。

拡大しよう。
37
〈これが「モーリシャスのドードー狩り」の挿絵。完全にペンギンに!〉

1646年のマゼラン海峡のキングペンギンに想を得たと思われる図版で、ここでは完全に、ドードーとペンギンが混同され、置換してしまった!

著者は、この「置換」した本を作ったH. Soete Boomは、上にも出てきたHistoriae Naturalis (Jonstonus c.1650)やBegin en de Voortgangh, (1646)を参照しているというのだが、ちょっと年代が合わないのが気になる。1650年の本は、1648年「置換本」の後の出版のはずなので。

ジュリアンに問い合わせたところ、1650年の本の草稿はわりと長く出回っており、それを参照したのではないか、ということだった。

どちらにしても、ほぼ同時に混同が起きていたということは注目に値する。

1 2 3
川端裕人
1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。普段は小説書き。生き物好きで、宇宙好きで、サイエンス好き。東京大学・教養学科卒業後、日本テレビに勤務して8年で退社。コロンビア大学ジャーナリズムスクールに籍を置いたりしつつ、文筆活動を本格化する。デビュー小説『夏のロケット』(文春文庫)は元祖民間ロケット開発物語として、ノンフィクション『動物園にできること』(文春文庫)は動物園入門書として、今も読まれている。目下、1年の3分の1は、旅の空。主な作品に、少年たちの川をめぐる物語『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、アニメ化された『銀河のワールドカップ』(集英社文庫)、動物小説集『星と半月の海』(講談社)など。最新刊は、天気を先行きを見る"空の一族"を描いた伝奇的科学ファンタジー『雲の王』(集英社文庫)『天空の約束』(集英社)のシリーズ。

その他の記事

週刊金融日記 第286号<日本で高額所得者がどれだけ税金を払うのか教えよう、衆院選は安倍vs小池の天下分け目の戦いへ他>(藤沢数希)
宗教や民主主義などのあらゆるイデオロギーを超えて消費主義が蔓延する時代(高城剛)
急成長する米国大麻ビジネスをロスアンゼルスで実感する(高城剛)
屋久島が守ろうとしているものを考える(高城剛)
アメリカ大統領選はトランプが当選するのではないだろうか(岩崎夏海)
迷路で迷っている者同士のQ&A(やまもといちろう)
アクティブ・ノイズキャンセル・ヘッドフォンと聴力の関係(高城剛)
デトックス視点から魚が現代人の食生活に適しているかどうかを考える(高城剛)
ストレスを可視化しマネージメントする(高城剛)
人生に一発逆転はない–心の洗濯のススメ(名越康文)
絶滅鳥類ドードーをめぐる考察〜17世紀、ドードーはペンギンと間違われていた?(川端裕人)
2021年のベストガジェットから考える新たなステージ(高城剛)
ビッグマック指数から解き明かす「日本の秘密」(高城剛)
政府の原発ゼロ政策はなぜ骨抜きになったのか(津田大介)
弛緩の自民党総裁選、低迷の衆議院選挙見込み(やまもといちろう)
川端裕人のメールマガジン
「秘密基地からハッシン!」

[料金(税込)] 880円(税込)/ 月
[発行周期] 月2回以上

ページのトップへ