川端裕人メールマガジン「秘密基地からハッシン!」より

絶滅鳥類ドードーをめぐる考察〜17世紀、ドードーはペンギンと間違われていた?

川端裕人メールマガジン「秘密基地からハッシン!」Vol.012より
 

創刊号から連載している「ドードーをめぐる堂々めぐり」第12回。インド洋のモーリシャス島に生息していたドードーは、17世紀に絶滅したといわれていた幻の飛べない鳥である。この生き物が「じつは1647年の江戸時代初期に日本に来ていた」という。残されたのは「来日したドードーは、その後どこに消えた?」という謎。各地への取材、資料との格闘。筆者の“ドードー・チェイス”は、まだまだ続くーー

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※記事本文より
〈キングペンギンが捕獲される一コマ。(Begin en de Voortgangh, 1646).〉

(編注)そもそも「ドードー」ってどんな生き物なの? と思った方は、まず下記の記事からご覧ください。

【関連記事】
幻の絶滅鳥類ドードーが「17世紀の日本に来ていた」という説は本当なのか
幻の鳥・ドードーの来日説を裏づける『オランダ商館長の日記』

ドードーを追っていてたら、ペンギンにまつわる資料が……

2014年の論文で、日本の出島にドードーが来ていたことを発見したジュリアン・ヒューム博士(ロンドン自然誌博物館)から教えてもらったことで、ひとつ、日本のペンギンファンに知らせたい! と思ったことがある。

同時にドードーの追跡にも関係あることだ。

というのも、出島にドードーが来た時、欧州では、すくなくとも一部でペンギンとドードーが混同されていた可能性があるというのだ。

ひと目みれば間違いようがない。

しかし、逆に考えれば、見たことがなければ、どうとでも間違える余地がある。

ペンギンの標本はともかく、ドードーの標本はほとんど欧州にたどり着いていないので(前にも述べた通り、本当に数点、なのである)、誤解される可能性は充分にあったと言える。

ジュリアンが2006年に出した論文の中で、そのことが論じられているので紹介しておきたい。

The history of the Dodo Raphus cucullatus and the penguin of Mauritius 
Historical Biology, 2006; 18(2): 65–89

この論文自体は、17世紀に描かれたドードーの絵を精査して由来を議論している部分がほとんどなのだが(直接ドードーを見て描いたと思われるものは数えるほどしかない!という結論)、「ペンギンとドードーの混同」にも紙幅を割いている。

 

ドードーを「発見」したファン・ネックは、ペンギンだと思った?

まず、ドードーの「発見」をもたらした航海である1598年のVan Neckによる航海日誌は、1601年に出版されており、その中にこのような記述があった。


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we also found large birds, with wings as large as of a pigeon, so that they could not fly and were named penguins* by the Portuguese. These particular birds have a stomach so large that it could provide two men with a tasty meal and was actually the most delicious part of the bird (Moree 1998, p. 12).
******
(Moree1999による英訳)

 
【試訳】

我々は、翼が鳩ほどしかない巨大な鳥も見つけた。それゆえ、その鳥は飛ぶことができず、ポルトガル人によってペンギンと名付けられたものだ。この鳥は巨大な胃袋を持っており、二人の男が食べるのに充分なものだった。実際、胃袋はこの鳥でもっとも美味な部分だった。

胃袋が美味というのは興味深いが置いておいて、とにかく、いきなり「発見」時にペンギンとされているのである。

その頃、ポルトガル人はケープペンギンのことをfotilicaiosと呼んでいたので、ここでいうペンギンが今のペンギンと同じかどうかはわからないと著者は慎重に書いている。むしろ、ポルトガル語の “pinion” (clipped wings、短い折れ曲がった翼)から来ているかもしれないとしている。

北のペンギン「オオウミガラス」との関係も議論の余地があるかもしれない。

いずれにしても、最初からペンギンと呼ばれてしまったことは、面白い事実だ。

 

ペンギンとドードーがだんだん近づいてくる

Clausiusという博物学者が、1605年のExoticorum Libri decimeという博物学系の著作で、ドードーとキングペンギンを一緒に扱った。

Clausiusは、日本語では、カロルス・クルシウスまたはシャルル・ド・レクリューズと呼ばれている植物系博物学者だった。フランス人だが、ライデン(オランダ)でキャリアを積んでいた。

この時点では、ドードーとペンギンはしっかり区別されている。ファン・ネックの航海日誌の記述はいったん忘れられたのか、クルシウスがナチュラリストとしての判断が優先したのか。とにかく、当時の情報でもマゼラン海峡のペンギンとモーリシャスのドードーは、素直に見れば、まったく違う生き物だった。

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〈ドードーとペンギンが別のページに書いてある(画面では見開きに見えるが別々のページ)Exoticorum Libri decem, Clusius, 1605.〉

なおクルシウスが使った絵は、ドードーについては、ファン・ネックの航海日誌から、クルシウス自身が模写したもの。

一方、キングペンギンは、マゼラン海峡でのオランダ人の活動を報告した文書に出ている木版画をコピーしたものだそうだ。著者(ジュリアン・ヒューム)は、この文書の書名は記していない。

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〈クルシウスがvan Neckの航海日誌から模写したドードー Clusius, 1605.〉

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〈キングペンギンを描いた1599年の図版。これもクルシウスが使った〉

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川端裕人
1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。普段は小説書き。生き物好きで、宇宙好きで、サイエンス好き。東京大学・教養学科卒業後、日本テレビに勤務して8年で退社。コロンビア大学ジャーナリズムスクールに籍を置いたりしつつ、文筆活動を本格化する。デビュー小説『夏のロケット』(文春文庫)は元祖民間ロケット開発物語として、ノンフィクション『動物園にできること』(文春文庫)は動物園入門書として、今も読まれている。目下、1年の3分の1は、旅の空。主な作品に、少年たちの川をめぐる物語『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、アニメ化された『銀河のワールドカップ』(集英社文庫)、動物小説集『星と半月の海』(講談社)など。最新刊は、天気を先行きを見る"空の一族"を描いた伝奇的科学ファンタジー『雲の王』(集英社文庫)『天空の約束』(集英社)のシリーズ。

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