岩崎夏海
@huckleberry2008

岩崎夏海のメールマガジン「ハックルベリーに会いに行く」より

少子化を解消するカギは「家族の形」にある

※岩崎夏海のメルマガ「ハックルベリーに会いに行く」より


「少子化を解消する方法」を思いついたので、少し長くなるが、なるべく簡潔に記してみたい。

「少子化を解消する方法」を考える上で、まず考えたのが「少子化はなぜ起きたのか?」ということだ。

すると、そこで参考になるテレビ番組があった。

NHKスペシャル『ママたちが非常事態!?〜最新科学で迫るニッポンの子育て〜』

この中で、子供を産んだ母親というのは、誰でも不安や孤独感を感じるものだ——ということがトピックとして取り上げられていた。それは、妊娠中に分泌されていたエストロゲンというホルモンが、産後になると急激に分泌されなくなるからだそうだ。

エストロゲンは、母親に安心感をもたらすために、それが急激になくなることによって、不安や孤独感が増大するらしい。

では、なぜ母親の身体はそういう仕組みになっているのか?

それは、「母親に他者や共同体とのつながりを促すため」という仮説があるらしい。

不安や孤独感に苛まれた母親は、他者や共同体につながろうとする。その結果、自然と生まれたばかりの赤ちゃんも、他者や共同体とつながる。そうして、子供は共同体で育てるという風習が生まれる。

子供を共同体で育てると、母親は子育てから解放される。子育てから解放されると、母親は再び子供を産むことができる。人間の母親は、そんなふうに赤ん坊を他者や共同体に預け、子育てから解放されるからこそ、たくさんの子供を産むことができていた。そうして、少子化に陥らず、人口を増やすことができたてたのだ。

しかし現代の母親は、産後に不安や孤独感が増大しても、他者や共同体とつながれていない。それゆえ、子育てから解放されず、たくさん産むことができない。

それで、少子化になってしまった。

では、なぜ他者や共同体とつながれないのか?

それを知るヒントとなる記事が、先日あった。

中田敦彦 「よく稼ぎ、よく休む」これぞ良き夫

この中で、インタビューを受けていたオリエンタルラジオの中田氏は、自身の妻の産後の様子をこんなふうに述べていた。

「それまで妻は、託児所、ママ友、岩手に住む母親と、いろんな人の手を借りて子育てと仕事をしていました。安心して頼れる受け入れ先があるわけだし、僕がお金を稼げば託児所だってより利用できるわけで、妻はラクになると信じて疑ったことがありませんでした。でも妻が求めているのはそこじゃなかった。

社会でも実母でもなく、目の前にいる夫に力になってほしかったのですね。

妻は常に、“子どもを誰かに預けている後ろめたさ”と葛藤していることも分かりました。もう一人の親である夫に子どもを任せるときが唯一、「見ておいてね!」と気兼ねなく仕事に行けて、自分の時間をまっとうできるのですね。」

こんなふうに、中田氏の妻は、他者や共同体に子供を預けることに「後ろめたさ」を感じていた。この感覚は、きっと中田氏の妻だけではなく、この世代の多くの母親に共通していることなのだろう。

そしてこの感覚こそが、現代の母親が不安や孤独感に苛まれ、また少子化を促進する最大の要因となっていた。彼らがそこで他者や共同体に子供を預けないからこそ、母親は子育てから解放されず、新たに子供を産めないでいたのだ。

では、なぜ中田氏の妻を初めとする現代の母親は、他者や共同体に子供を預けることに「後ろめたさ」を感じるのか?

ここからはぼくの仮説だが、それはおそらく、彼女の生まれ育った環境に影響があるのではないだろうか。

中田氏の妻は、30歳前後だ。そしておそらく、彼女は「核家族の第三世代」ではないかと推測する。

「核家族の第三世代」とは、彼女の祖母が第一世代、母が第二世代、そして本人が第三世代という意味だ。曾祖母が、大家族で育った最後の世代ということになる。

核家族も第三世代となると、それが骨の髄まで染みてくる。彼女の祖母や母親は、核家族で育ちながらも、まだ大家族の名残があって、子育てに際しては他者や共同体からの介入があり、またそれを受け入れたので、必ずしも不安や孤独感を感じなかった。

しかし核家族第三世代となると、もはや祖母までが核家族で育ったので、強制的な介入はなくなった。だから、他者や共同体に子供を預けることに「後ろめたさ」を感じるようになったのだ。

それを裏付けるように、先日、こんな記事も話題になっていた。

【姑の誤介入阻止】昔の子育て常識は今の非常識! さいたま市が作成した「祖父母手帳」がめちゃめちゃ役に立つんです!!

これは、さいたま市が新生児の祖父母世代に子育ての新しい常識を伝えるための冊子を作ったのだが、それについて触れた記事だ。この中で、おそらく30歳前後だろうと思われる記者の鷺ノ宮やよい氏は、祖父母世代の子育てに対する介入について、こんなふうに述べていた。

「子どもを産んだ女性の多くが直面していることのひとつ。それが「ジジババが昔の育児法を押し付けてくる」問題。

「保育園に預けるなんてかわいそう」「抱っこのしすぎは抱きぐせがついてよくない」「母乳あげても泣くならミルク足しなさい」などなど……うん、それはン十年も前の常識で今はちがうんですよ……。そう思っても、自分の母親ならまだしも義理の両親なんかには言いづらいもの。もし言えても、「それはネットで調べた知識でしょ」なんて一蹴されることも」

そんなふうに、祖父母からの介入を「害悪」と決めつけて一蹴している。

こういう人は、けっして少なくないだろう。現代の母親は、他者や共同体とつながらないことがもはや常識化しているのだ。だから、子供を預けることに後ろめたさを感じている。そして、それが少子化の原因となっているのだ。

そう考えると、「少子化はなぜ起きたのか?」ということの答えは、「核家族が定着したから」ということができよう。核家族化が始まったのがだいたい1960年前後だから、それはおよそ半世紀かけて築かれた状況ということになる。少子化という現象は、実にそれだけの期間をかけて着々と進行してきたのだ。

だから、少子化を解消する方法としては、「核家族をやめる」というのが、自ずから答えとなる。

では、核家族化をやめるにはどうしたらいいか?

これもやっぱり、「核家族がなぜ始まったのか?」ということから考えてみる。ここからは、紙幅の関係で答えを急ぐが、ぼくはそれを「急激な人口の増加に危機感を抱いた人々が、それへの対抗策として核家族化を採用したからではないか」と考えている。

人口が増えて人口密度が増すと、プライバシーが阻害されて息苦しくなる。それを解消するためには、核家族というのは絶好のソリューションとなる。人口密度が高い状態でも、ある程度快適に暮らせる。

そうして生まれた核家族が、自然と人口を減らす効果も担っていたのだ。そう考えると、人類というのは実に上手くできている。

今後、人口がさらに減れば、今度は逆に人々の不安や孤独感が増大するだろう。それがプライバシーが阻害される度合いよりも上回れば、核家族は自然と解消されるのではないだろうか。そうなれば、再び大家族が常識となり、母親は産後に不安や孤独感を感じなくなるので、子供は他者や共同体が育てることに成り、少子化も自然と解消されるのではないかと思う。

 

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岩崎夏海
1968年生。東京都日野市出身。 東京芸術大学建築科卒業後、作詞家の秋元康氏に師事。放送作家として『とんねるずのみなさんのおかげです』『ダウンタウンのごっつええ感じ』など、主にバラエティ番組の制作に参加。その後AKB48のプロデュースなどにも携わる。 2009年12月、初めての出版作品となる『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』(累計273万部)を著す。近著に自身が代表を務める「部屋を考える会」著「部屋を活かせば人生が変わる」(累計3万部)などがある。

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