高城剛メルマガ「高城未来研究所「Future Report」」より

廃墟を活かしたベツレヘムが教えてくれる地方創生のセンス

高城未来研究所【Future Report】Vol.270(2016年8月19日発行)より

photo: Dan DeLuca (CC BY 2.0)

今週は、ペンシルバニア州のベツレヘムにいます。

大都市圏への「ストロー現象」に歯止めをかけるべく、日本でも地方創生が叫ばれていますが、大きな成功を見出している地域はありません。
しかし、世界を見渡せば、見事に地方創生に成功した街がいくつもあります。
このベツレヘムも、そんな街のひとつです。

もともと宗教都市だったベツレヘムは、20世紀の好景気とパワーの象徴だったマンハッタンの摩天楼の鉄骨を作ることで大きく発展を遂げてきました。
「USスティール」に次ぐ全米第二位の規模を誇った製鉄所「ベツレヘム・スティール」は、エンパイアステイト・ビルをはじめ、文字通りの「ニューヨークの屋台骨」を担い、企業城下町として、街は豊かな時代を送ってきました。
しかし、安価な外国からの製鉄の登場により、街は徐々に疲弊していくことになります。

このベツレヘムが凋落する様は、ビリー・ジョエルの名曲「アレンタウン」にも歌われ、第二次世界大戦後の好景気から80年代に無職の人で溢れかえる地域の日常が綴られています。
そして2001年、ついに「ベツレヘム・スティール」は破綻することになります。

その後2009年になると、工場は廃虚のまま、インテグレーテッド・リゾートとして再始動がはじまります。
日本でインテグレーテッド・リゾート(いわゆるIR)と言えば、シンガポールの「マリナベイ・サンズ」のようなカジノを含んだ近代的な施設をイメージしますが、「サンズ・ベツレヘム」は、窓ガラスが割れ、朽ちかかった工場跡を、まるで最近発掘された遺跡のように保存し、その一角にホテル&カジノを開業しました。
なかでも、廃墟となった巨大工場を背景にした全米最大の無料屋外フェス会場は、まるで漫画「AKIRA」や映画「マッドマックス」シリーズの様相で、週末やホリデーシーズンに、わざわざニューヨークから訪れる人たちが後を絶ちません。
現在、世界中でカジノを運営するサンズグループのなかで、もっとも業績を伸ばすまでに成長しました。
いまや人口7万5000人の町に、数十倍もの人たちがやってくるようになり、街は大きく息を吹き返したのです。

2020年に開催される東京オリンピック施設を例に出すまでもありませんが、人々を引き付けるのは、あたらしく建てられたものだけではありません。
勿論、利害関係者を引き付けるのは、あたらしい建物なのでしょうが、「かつての時間」は、どんなにお金をかけても買い戻すことができません。
それは、数千年前の遺跡だけではなく、わずか数十年前のものでも価値を見出すことが可能なのです。

ベツレヘムは、地方創生の「センス」を教えているように思います。

 

高城未来研究所「Future Report」

Vol.270 2016年8月19日発行

■目次
1. 近況
2. 世界の俯瞰図
3. デュアルライフ、ハイパーノマドのススメ
4. マクロビオティックのはじめかた
5. 身体と意識
6. Q&Aコーナー
7. 著書のお知らせ

23高城未来研究所は、近未来を読み解く総合研究所です。実際に海外を飛び回って現場を見てまわる僕を中心に、世界情勢や経済だけではなく、移住や海外就職のプロフェッショナルなど、多岐にわたる多くの研究員が、企業と個人を顧客に未来を個別にコンサルティングをしていきます。毎週お届けする「FutureReport」は、この研究所の定期レポートで、今後世界はどのように変わっていくのか、そして、何に気をつけ、何をしなくてはいけないのか、をマスでは発言できない私見と俯瞰的視座をあわせてお届けします。

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高城剛
1964年葛飾柴又生まれ。日大芸術学部在学中に「東京国際ビデオビエンナーレ」グランプリ受賞後、メディアを超えて横断的に活動。 著書に『ヤバいぜっ! デジタル日本』(集英社)、『「ひきこもり国家」日本』(宝島社)、『オーガニック革命』(集英社)、『私の名前は高城剛。住所不定、職業不明。』(マガジンハウス)などがある。 自身も数多くのメディアに登場し、NTT、パナソニック、プレイステーション、ヴァージン・アトランティックなどの広告に出演。 総務省情報通信審議会専門委員など公職歴任。 2008年より、拠点を欧州へ移し活動。 現在、コミュニケーション戦略と次世代テクノロジーを専門に、創造産業全般にわたって活躍。ファッションTVシニア・クリエイティブ・ディレクターも務めている。 最新刊は『時代を生きる力』(マガジンハウス)を発売。

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