濃いものは濃く映し、フレームの外の世界の音を撮る
―スクリーンに映る秋の空と紅葉や金木犀の鮮明な色に対比して地面の暗さが際立ち、生きることへの苦悩や葛藤、生と死を暗示しているかのように感じました。黒く濡れた土のにおい、枯れ葉の乾いたにおい、ドングリや金木犀の香りといった秋の香りの記憶が鼻腔をかすめるほど、秋の植物たちが色美しいですね。
福間 日本映画で「秋」というと情緒的に映す傾向にあるのですが、この作品ではヨーロッパ映画のようなはっきりした色彩で撮ろうと決めていました。紅葉は鮮明に撮り、枯れているものは濃く枯れた色で撮る。実際に9月から11月の間で秋の色も変化するので、色彩の変化をどう見せるかにこだわっています。それから、地面を撮りたかった。
―なぜ地面を?
福間 「空には何もない」と、ある監督が言っている。そう思って空を見ると何もないが、反対に、地面を見るとものすごく変化がある。人のさまざまな生のあり方が地面に表れている。「そうだ、地面だ!」と思い、毎朝散歩しているときに地面を見ると、「雑草の力はすごいな」と気付くんです。どこか空から舞い降りてきたような存在のミクが地面に立つ。フミ(小原早織)が「私たちは雑草です。育てられなくても育つ雑草です」と言うように、空からやってきたような感じと力強く地面に育つ雑草の両方を表現している。あの役を単に妖精的にしてしまうと、フワッとしすぎてしまう。
―ファンタジーな要素が強くなってしまいますね。
福間 ファンタジーな要素を持ちつつも、「ヤバいことしてたんです」と、もしかしたらこの世の中の汚れるような場所にもいたのかなと思わせる。微妙なバランスを趣里ちゃんがうまく演じてくれています。
―趣里さんのどんなところに惹かれましたか?
福間 山戸結希監督の『おとぎ話みたい』(14)の予告編を見て、彼女なら僕の詩をはっきり言ってくれるだろうと思いました。実際に会ってみると、天才的で天使的。僕が思う頭のいい感じの女性だった。
衣装合わせで、もうわかってるなと思いました。ミクは最初モスグリーンのだぼだぼのコートを着ている。お金がないから誰か男の人からもらったような服を想定し、そのあとバイトも始めるし、18万円も取り返したから、次はちょっといい可愛いセーターを着ているとか、設定を二人で考えた。そういう感覚が合うんだよね。
今回は出演者に教えられてばっかりだった。演劇的な要素はあまり好きじゃなかったが、映画を飛躍させたいと思ったときに、演劇的なものが使い方によっては活きると感じた。趣里ちゃんの演技は、独特にリズムを感じさせる。そういうのがいいんだと学びました。
『秋の理由』より。趣里、佐野和宏 (c)「秋の理由」製作委員会
―ブランコの柵を跨いだり白線の上をリズミカルに歩いたり、ミクの動きにはリズムがある。日常的な現実の中にいるのだけれども、半分詩の世界にいるような不思議な感覚になりました。詩の表現方法と映画の表現方法は、やはりリンクするのでしょうか?
福間 僕がやっているので詩の表現とリンクするのは当然なのですが、その当たり前さを人とやることでどのくらい壊してもらえるか。佐野さんは、「僕が演じると福間ワールドを壊してしまうから、本当はやりたくなかった」と。
でも、壊しにきてくれなきゃ佐野さんに出てもらう意味がない。佐野さんは100%の佐野さんで演じて、それでも僕の映画になる。
だから「遠慮なくやってくれ」と言ったんです。僕は詩を書く時に、天才的なひらめきが出てきて詩を書くということではなくて、人と自分の間に生まれてくるものを活かしているから、詩自体にそういう要素があるのだと思います。
詩人だから特別な映画を撮るだとか、ジャン=リュック・ゴダールが好きだからゴダールっぽくやればいいんだとは全然思っていない。作者がいい気になっているものが、ひとつひとつ現場で壊されて、試されて、それを僕が掴み直して、ということができないといけないし、そういうことができる現場でよかったと思います。

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