高城剛メルマガ「高城未来研究所「Future Report」」より

沖縄の長寿県からの転落で考える日本の未来

高城未来研究所【Future Report】Vol.302(2017年3月31日発行)より


今週は、那覇にいます。

沖縄県は長らく「長寿県」として知られてきましたが、実は大昔の話です。
5年ごとに発表される都道府県別平均寿命を見ますと、沖縄の男性は1990年に5位、2000年には26位と大幅に転落。
女性はしばらく都道府県別平均寿命1位を維持していたものの、2010年には遂に女性も3位に転落しました。
男性はその後も落ち続けて、現在は30位以下まで下がっています。

そもそも沖縄はなぜ長寿県だったのでしょうか?
その理由は、戦前の沖縄の食事は非常に質素かつ栄養価が高く、主食も白米を常食する人は少なくて、県民の主食は繊維質が豊かな芋でした。
古くからの中国の影響を受け、「医食同源」の考え方「クスイムン」も定着し、体に良いものを食べようという意識が高かったことも理由のひとつだと思われます。

しかし、アメリカ占領下にあった1960年代から、米軍の軍用食料から供出されたコンビーフハッシュやポークランチョンミートの肉加工品が大量に沖縄にもたらされ、急速に食の欧米化が進みました。
ハンバーガー、タコス、ピザ、ステーキといったアメリカの食事が普及し、ファストフードのチェーン店も広まりました。
こうして戦前は野菜やイモ類など繊維質の多い食材を食べ続けてきた沖縄県民が、この頃から高カロリー、高脂肪の食事をするようになっていったのです。
そして沖縄県は、肥満者の割合が45.2%で、日本一肥満者の多い県へと変わり、確かに、これは街を歩いても実感します。

また、世界から日本を見ますと、沖縄同様世界一の長寿国から脱落したとは言え(男性が6位に転落)、今後は驚くべき超高齢化社会がやってくるのは間違いありません。
昨年、日本人の100歳以上の高齢者がついに6万人を超えました。
今後、団塊世代が100歳を迎える2050年には68万人を超え、僕の世代や少し下の40歳代が100歳になる頃には、日本全土で100万人の「百歳超の人々」が登場すると予測されます。
減少する日本人口の70-80人にひとりが、100歳となる超高齢化社会になるのです。

いったい、長寿とは何歳を指すのでしょうか?
そして、人間は何歳まで生きることが可能なのでしょうか?

この背景には、医療の大きな進歩があります。
特に投薬の進化は凄まじく、しかし、価格は青天井となるほど上がっています。
例えば、癌の新薬は一定のペースで認可され続けていますが、米国でみますと、月当たりの平均薬価は90年代後半が1770ドル、00年代前半が4716ドル、後半が7000ドル、そして2010年代前半が9905ドルと、驚くほどの上昇一途を辿っています。
ちなみに 80年代前半は430ドルですので、30年強で20倍以上高騰していることになります。

キートルーダという話題のオプジーボと同種のチェックポイント阻害剤は、非小細胞肺癌に対する用法用量だと月当たりのコスト(体重75kgの人に対して)が実に8万3500ドルで、1年だと100万ドルを超えるコストがかかります。
この値段は、mgあたりで換算すると同じ重さの金(ゴールド)の約4000倍になり、新薬開発は、まさに現代の錬金術なのです。

このような高価な投薬を続け長生きすることが本当に幸せなのかどうなのか、という議論は別の機会に譲るとして、100万人を超える時代の「百歳超の人々」のなかには、150歳のひとたちもそれなりにいるでしょう。

どちらにしろ、超長寿や超健康は、食事と医療に大きな鍵があると数字が示しています。
古い食事と最新医療。
このふたつを見失うと、あっという間に誰もが短命になると、沖縄県は教えているのです。

社会変化も含め、ここには日本の未来が潜んでいると、日々考えます。

 

高城未来研究所「Future Report」

Vol.302 2017年3月31日発行発行

■目次
1. 近況
2. 世界の俯瞰図
3. デュアルライフ、ハイパーノマドのススメ
4. 未来放談
5. 身体と意識
6. Q&Aコーナー
7. 著書のお知らせ

23高城未来研究所は、近未来を読み解く総合研究所です。実際に海外を飛び回って現場を見てまわる僕を中心に、世界情勢や経済だけではなく、移住や海外就職のプロフェッショナルなど、多岐にわたる多くの研究員が、企業と個人を顧客に未来を個別にコンサルティングをしていきます。毎週お届けする「FutureReport」は、この研究所の定期レポートで、今後世界はどのように変わっていくのか、そして、何に気をつけ、何をしなくてはいけないのか、をマスでは発言できない私見と俯瞰的視座をあわせてお届けします。

高城剛
1964年葛飾柴又生まれ。日大芸術学部在学中に「東京国際ビデオビエンナーレ」グランプリ受賞後、メディアを超えて横断的に活動。 著書に『ヤバいぜっ! デジタル日本』(集英社)、『「ひきこもり国家」日本』(宝島社)、『オーガニック革命』(集英社)、『私の名前は高城剛。住所不定、職業不明。』(マガジンハウス)などがある。 自身も数多くのメディアに登場し、NTT、パナソニック、プレイステーション、ヴァージン・アトランティックなどの広告に出演。 総務省情報通信審議会専門委員など公職歴任。 2008年より、拠点を欧州へ移し活動。 現在、コミュニケーション戦略と次世代テクノロジーを専門に、創造産業全般にわたって活躍。ファッションTVシニア・クリエイティブ・ディレクターも務めている。 最新刊は『時代を生きる力』(マガジンハウス)を発売。

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