あす9月1日の民進党臨時党大会で行われる民進党代表選ですが、概ね最終局面まで前原誠司さんの優勢が伝えられております。
今回はグループインタビューのような調査は横断的に行われているわけではなく、またサンプル数の少ない調査票でしか傾向分析がされていないうえに、臨時党大会の場で投票するものではなくすでに党員・サポーターは投票済みの人も多いようなので、おそらくはそのまま代表がすんなり決まる形になるのではないかと見られます。
枝野幸男さんになるのか前原誠司さんになるのかは別として、民進党そのものに対する有権者の期待感や代表選に対して注目される内容で言えば、それなりの様相は見えてきています。
党全体の方向性という意味では「保守」前原さんに対し「リベラル」枝野さんという対立図式で見る識者もいたようですが、どうもそういう簡単な話ではなさそうです。前原さんも枝野さんも比較的融和的な態度でお互いに接している中での選挙戦であり、一部では「なあなあ過ぎるのではないか」と言われる一方、党内融和をどう目指していくかについて代表選を巡り一騎打ち候補同士がガチ喧嘩をすると党分裂や解党的出直しに陥ることも考えられるため、そこは「勝ったほうが代表、負けたほうが幹事長」のような塩梅で話が進んでいるという観測が出ています。例えば枝野さんが勝って前何とかグループを干すと、普通に出て行ってしまうとか、分党議論になりかねないというのがかなり本音で話し合われているようです。
とするならば、本来問われるべき政策で言うならば「野党共闘路線」と「消費税など増税について」とが論点になってきます。あくまで党内の議論として、野党共闘路線の是非については民進党の支持母体である連合が一時期ガタガタしていたもののようやく神津里季生会長続投がきちんと決まって話の道筋が見えてきました。野党共闘や原発ゼロの道筋ひとつとっても連合と民進党の関係修復はそれなりに気合のいる作業となり、代表の方針ひとつで本格的な瓦解も考えられるため、かなりセンシティブです。
民進代表選:連合と関係修復課題 原発政策や野党共闘で溝
【民進代表選】連合・神津里季生会長、民共共闘路線の修正要求 「労働運動は共産主義革命のためにあるわけではない」と強い忌避感
一方、無党派層を含む民進党に対する要望としては、上位に「自民党に代わる政治勢力として」という内容があり、この内容を微分すると間違いなく「選挙に勝てる執行部」という意図が透けて見えます。つまりは、野党共闘で議席を取れる野党であることを民進党に期待している側面があります。ここを無視して民進党の再生を狙おうとしても、自民党への批判票が民進党だけではなく共産党や国政に進出した国民ファーストに割れてしまい共倒れになる危険性もあるわけです。
そうなると、野党共闘路線である枝野さんのほうが連合の立場は別として有権者の民進党への期待を直球で応えられるという話になるかもしれず、一方で民進党支持者は共産党との融合はむつかしいと考える向きも強いために「民進党の支持層の分裂」はどちらが代表になっても避けられないということが言えます。
また、消費税増税は社会保障関連の政策では避けては通れない歳入拡大策であって、民進党からすれば自民党の「低負担低福祉」路線への対抗として「高負担高福祉」を政策として打ち出すことで差別化を図るという意図もあるように見受けられます。ただし、ご存知の通り税と社会保障の一体改革は重要な政策上の論点ですが、消費税増税については国民の間で人気がない政策であるだけでなく、増税自体が本当に歳入を増やすのか疑問な部分もあります。一部では、議論もありますが消費税の逆進性を指摘する声もあります。それもこれも、日本の場合は一般会計での財政議論はあるものの、実際には特定の目的のために組まれる特別会計のなかにまるっと社会保障関連の予算が入ってしまっていることで議論が分かりにくくなっている側面があります。
民進党が仮にふたたび政権を狙えるところまで党勢を盛り返す可能性があるとして、障害になるのは文字通りこの経済政策の部分です。民進党関係者は「充分に自民党の経済政策への対案は国民に示している」と豪語するものの、市場を見ている私からしてもそんな対案は政策レベルに落とし込む段階で相当な齟齬を生むだろうと思える内容のため、担当する官僚が再び辛い思いをする日々になるのではないかと危惧することになります。
それでも民進党に期待されるのは自民党のオルタナティブであるということがはっきりしている以上、突き進まざるを得ないのでしょうが、このままでは民進党が党勢を拡大していく都度、市場から資金が逃げていく可能性だってあります。もう少し、市場や産業界の現場と対話できる能力がついていけば解決していく部分もあるのかもしれませんが、残念ながら身の回りで民進党の政策を支持すると裏でもこっそりでも言う人はほとんどいないというのが実情ではないかと感じます。
一方、自民党の代替が求められている民進党の当面の競合は、実は自民党ではなく都民ファーストの国政進出(仮に「国民ファースト」とする)と維新残党、そして共産党です。とりわけ、維新を吸収して大きくなるであろう国民ファーストは、仮に明日解散でもそれなりに議席を取る危険性すらある、かなり凶悪な存在として民進党の前に立ちはだかります。政策的な一貫性がなく、ただなんとなく政治への不信感を追い風に得票を伸ばすであろう国民ファーストは、本来は民進党が取り込んでおかなければならない現状批判票が多数を占めています。
ところが、民進党本部というのは比較的穏やかな人たちの集まりであって、あまり各種メディアで積極的に小池百合子女史やその周辺をきちんと調べて問題視しようというような、マーケティング上の「営業」をしっかりしていないというのが実情のようです。むしろ、民進党がうまく立ち直らなければいっそ国民ファーストに鞍替えしてしまおうという中堅議員すらも後を絶たない状況になると、民進党はどちらが代表になっても地方組織から崩れていかざるを得ません。また、岡田克也さんのお膝元である三重などは特にそうですが、サンプル調査をしても民進党の元代表岡田克也を担いでいる地盤であるにもかかわらず民進党単独よりも野党共闘路線の野党しか支持しないという謎な結果が出てくる不思議プレイスになっています。大丈夫なのでしょうか。
このあたりの党勢低迷からどのようにして切り返すのかという点では、与党との対決姿勢と野党共闘路線の堅持よりも、是々非々の政策提案で場合によっては自民党とも組みつつ、野党としてキーストーンとなる争点を紡ぎ出して、瞬発的で一時的な支持ではなく議員各位が知名度と支持者を確保できるようなマーケティングをやっていかないと大変なことになります。この舵取りは、いままでの独立商店の集まりのような政党ではなく、きちんと本部が各議員や地方をグリップし、日本の行く先を分かりやすい言葉で明示し、統制の取れた状況にして一貫したメッセージを国民に出し続けていく必要があります。果たしてそういう時間が民進党に残されているのかは分かりませんが、それだけむつかしい作業を代表は短期間に構想し、実現していく必要があるという点で「大変だなあ…」と思うわけであります。
最後に、旧民主党時代の問題もたくさん残っていて、霞が関に民進党アレルギー、枝野アレルギー、前方後円墳アレルギーを持っている有力者が多数残っています。官僚の持つ国家観のすべてがこれからの時代に相応しいかどうかというのは議論の余地がありますが、これから必要な日本の改革を行っていくうえで官僚をいじめてもどうにもならない問題ばかりで、より融和的で、より現実的で、より実現性の高い政策を立てて着実に実行するための手段を考えなければなりません。とりわけ外交・安全保障と、急速な人口減少に見舞われる日本の社会保障や移民政策あたりは役人抜きにして語れないのです。そういう切り替えをし、実際に議論を立てていく方法論について、民進党代表選を経て実りのある形で考えていってほしいと切に願う次第です。
やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」
Vol.200 民進党代表選を直前に控えて政治について思うことをあれこれと忌憚なく語ってみる回
2017年8月31日発行号 目次
【0. 序文】「民進党代表選」期待と埋没が織りなす状況について
【1. インシデント1】民進党「大変」と都民ファーストの会の胎動
【2. インシデント2】これから普及するであろう家庭用IoTの憂鬱
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A
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