※メールマガジン「小寺・西田の金曜ランチビュッフェ」2018年2月9日 Vol.160 <問題の本質号>より
ある日ウェブニュースを読んでいると、「変なホテル、東京にオープン」という記事が目に入った。
「変なホテル」とは、H.I.Sグループが展開するホテルチェーンで、ハウステンボスにある一号店が有名だろう。ロボットが接客し、客室には様々なIT機器が置かれている。「変な」とは変わった、という意味ではなく、機器やサービスが常に変わり続けるホテル、という意味らしい。
そんな「変なホテル」なのだが、2月1日に、東京・銀座に「変なホテル 東京銀座」としてオープンした。「変なホテル」には以前から興味があった。「変なホテル 東京銀座」は、1泊シングルで7000円からと、ごく普通のビジネスホテルの価格である。実際、規模的にもビジネスホテルと同じと考えて良いようだ。
部屋の空きを見ると、どうやら泊まれそうだ。というわけで、ちょっと一泊してきてみた。当然、取材として先方から便宜は図られていない。完全な自腹である。
「変なホテル 東京銀座」は新富町にあり、銀座には歩いて15分、築地まで歩いて10分、というところにある。名前は「変」だが、外観的にも立地的にも普通のビジネスホテルだ。
入ってみて驚いた。
あ、いや、なんか特別だったわけではない。いきなり普通に、フロントで人に接客してもらったからだ。ロボット接客じゃなかったのか。
・ロビーにはロボットが。でも、操作はキオスク端末で行い、普通のビジネスホテルのようだ
どうやら、開店したばかりで客の側に戸惑いがあるので、普通に人が接客していたらしい。
まあ、それはそれでいい。ロボットももちろんいて、無人でもチェックインはできるようになっている。実際、人に接客してもらったあと、カードキーを発行するのはロボットの前にあるキオスク端末で行う。キオスク端末でのチェックインは、最近のビジネスホテルではごく普通のものなので、この辺はそんなに「変」じゃない。
今回宿泊した部屋は「デラックスシングルルーム」。といっても本当に普通のシングルルームだ。入ってみても、普通のビジネスホテルである。ここも「変」じゃない。私が予約した時(週末)は、一泊9000円程度だった。これも、都内のビジネスホテルとして見れば、まあ水準、といった価格だろう。
・今回宿泊した部屋。狭いシングルルームだが、ビジネスホテルだと思えばこんなものだ。
ちょっと違っていたのは、部屋の装備だ。
まず目立つのは、LGの「LGstyler」が装備されていること。これは、衣類の埃や臭いをとる「ライフスタイルクローゼット」と呼ばれる家電。日本でも売られているが、ホテルに採用されている例は少ない。
・LGの「LGstyler」。花粉症の人にはうれしい装備だろう
テレビは同じくLG製のスマートテレビ。ただし、各種機能は封印されており、ホテル側の用意したいくつかの機能の説明が見れるようになっている。
・テレビはLG製。部屋に置かれた各種ガジェットのマニュアルはここから参照する
部屋には「Handy」というスマートフォンが導入されている。これは、宿泊者が自由に持ち出して通話や通信が使える、というビジネスモデルの製品で、実は日本では、シャープと香港のTink Labsが合弁で設立した「Handy Japan」という会社がサービスを展開している。特に海外からの旅行者には便利なものだが、これの導入例は増えており、別に「変なホテル」だけのものではない。
・Handyが部屋に導入されている。海外からの旅行者には便利だろう
テレビにはなんと、Chromecastがついている。自分の機器で設定すれば、手持ちのスマホやタブレットから映像などを表示できる。エアコンやテレビはマルチリモコンの「iRemocon」で連携されており、手持ちのスマホからもコントロールが可能だ。
・テレビにはChromecastも。設定はいちから手作業で
要は、「多数のガジェットが部屋に導入されたホテル」であるところが、普通のビジネスホテルとの違い、ということになるだろうか。
だが、実際に使ってみると、「うーん」と首をかしげざるを得ない。実に使い方がこなれていないのだ。わかりやすく言えば、「ガジェット満載の友人の家にいって、『自由に使っていいよ』と言われたものの、マニュアルだけ渡された状態」という感じだ。
マルチリモコンがスマホから使える、といっても、エアコンやテレビのリモコンは別にあるし、部屋も狭い。わざわざスマホでコントロールする必要はない。しかも、その操作方法はかなり煩雑だ。別にホテル向けにカスタマイズされているわけではなく、家庭向けに販売されているものがそのまま、本当にそのまま置いてあるだけなのだ。自宅でずっと使うなら、初回の設定の面倒臭さも我慢できる。だが、ちょっと数日(短ければ一泊だ!)過ごすだけのホテルのために、複雑なマニュアルを見ながら設定して使うほどの価値があるかというと……正直ない。
「LGstyler」は便利だと思ったが、実はこれ、動作音や振動がかなり大きい。狭いホテルの部屋で、夜中に音を立てながら動く様を見ると、「ちょっとこれはどうなんだろう」と思わざるを得ない。
ただ、ホテルのWi-Fiの速度だけは素晴らしかった。まだ宿泊者が少ないからなのか、それとも、コンセプトに合わせて回線がしっかり作られているのか。夜12時前のネットが混み合いやすい時間に、なんと下りで150Mbpsが出ていた。ホテルのWi-Fiといえば遅いのが当たり前なので、ここは感心した。
・Wi-Fiはとても快適。まるで自宅の高速回線を使っているようだった
ひとつ試せなかったのは、部屋の鍵がスマホにアプリを入れることで開けられるようになる、という要素である。NFC対応のAndroidスマホにアプリを入れればできるようだが、たまたまその日はAndroidスマホを持ち歩いていなかったので試せなかった。ただ、マニュアルを見ると設定はけっこう面倒に見えた。だから、何日も連泊するのでない限り、カードキーで十分だろう。
もともとこのホテルは、ビジネスホテルに多少の味付けをしたもの、として設計されているのだろう。ガジェットの要素をのぞくと、本当に普通の、なんの変哲もないビジネスホテルで、特徴があるわけでもない。ガジェット要素はむき出しで、どうにも使いづらい。もう一回泊まるか、と言われると、筆者は「無理しては選ばない」と感じたのが正直なところだ。ビジネスホテルなら、別に他のところでもいい。
だが、「変なホテル」の「変な」とは、特別なものがある、と言う意味ではなく「変わり続ける」という意味であるようだ。ガジェットを置いただけに見える要素も、改善されていくのだろうと思う。HISはこのコンセプトのホテルをこれから全国展開するそうだが、「変」である価値は、早めに普通の人に享受できるものに変えていく必要がありそうだ。
小寺・西田の「金曜ランチビュッフェ」
2018年2月9日 Vol.160 <問題の本質号> 目次
01 論壇【小寺】
「ママ」ビジネスは、なぜ炎上するのか
02 余談【西田】
そんなに「変」じゃなかった「変なホテル」
03 対談【小寺】
セルフィー文化論 (5)
04 過去記事【小寺】
PTA広報紙を電子化したった (3)
05 ニュースクリップ
06 今週のおたより
07 今週のおしごと
コラムニスト小寺信良と、ジャーナリスト西田宗千佳がお送りする、業界俯瞰型メールマガジン。 家電、ガジェット、通信、放送、映像、オーディオ、IT教育など、2人が興味関心のおもむくまま縦横無尽に駆け巡り、「普通そんなこと知らないよね」という情報をお届けします。毎週金曜日12時丁度にお届け。1週ごとにメインパーソナリティを交代。 ご購読・詳細はこちらから!
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