川端裕人のメルマガ『秘密基地からハッシン!』Vol.077より、オランウータン研究者・久世濃子さんとの対談「ヒトに近くて遠い生き物、「オランウータン」を追いかけて」の第2回を無料公開にてお届けします。
撮影:川端裕人〈顔の裸出部が大きなスマトラオランウータンの母子だ〉
久世濃子(くぜ・のうこ)さん プロフィール
1976年東京都生まれ。国立科学博物館人類研究部日本学術振興会特別研究員。理学博士。日本オランウータン・リサーチセンター事務局長。1999年3月、東京農工大学農学部地域生態システム学科卒業。同年東京工業大学命理工学研究科に入学しオランウータンの行動や生態を研究。京都大学野生動物研究センターの研究員などを経て2013年〜国立科学博物館人類研究部に所属。
*著書
『セックスの人類学』*共著(2009年・春風社)
『オランウータンってどんな『ヒト』?』(2013年・あさがく選書)
『女も男もフィールドへ』*共著(2016年・古今書院)
『フィールドノート古今東西』*共著(2016年・古今書院)
『オランウータン: 森の哲人は子育ての達人』(2018年・東京大学出版会)
(参考記事)
研究室に行ってみた。国立科学博物館 オランウータン 久世濃子
『オランウータン: 森の哲人は子育ての達人』久世濃子(東京大学出版会)
https://amzn.to/2QJvREo
子育ての達人――オランウータン。アジアの熱帯雨林で暮らす「森の哲人」たちの究極の子育てを紹介。長い時間をかけて、とても大切に子どもを育て上げる母親たちの育児から、ひとりで生きていてもけっして孤立はしないユニークな社会がみえてくる。
前回の記事はこちら。
川端裕人×オランウータン研究者・久世濃子さん<ヒトに近くて遠い生き物、「オランウータン」を追いかけて >第1回
オランウータンは人々にとってどういう存在だったか
久世 ただ、ここ数十年を通してすでにサラワクに野生動物がいなくなってしまったというようなこともあって……。
それは環境破壊に加えて、宗教的な事情もあるんです。もともとサバ州はイスラム教徒が多くて、サラワク州はキリスト教徒の人が多いんですけど。キリスト教って、イスラム教に比べると食べ物に関して厳しい戒律がない。
イスラム教では食べられる動物が戒律で制限されているから、おのずと食用目的で野生動物が狩られることも少ないんですね。だから、野生オランウータンが多く残っているのはイスラム教徒が多い地域なんです。
——オランウータンが食用で狩られてしまうケースがあるということですか?
久世 いえ、実際には食べないと思うんですが、狩りをするときに他の動物と一緒に“獲られて”しまうことがあるんですね。一方で、昔は昔で、呪術的な用途でオランウータンをつかまえて、「首狩り族」がその首を人の首のかわりにして村の儀式に使うようなこともあったと聞いています。
だからと言うべきか、サラワクの人たちの、オランウータンに対する認識は実に細やかなんです。「顔の大きいオス」「顔の小さいオス」(オスのオランウータンは集団の中で優位になると顔の両側にひだが大きく張り出してくる)を区別して別の名前をつけていたり。
川端 確かに顔にフランジ(=顔の両側のひだ)があるとないとでは、ちょっと同じ生き物に見えないですものね。
久世 オランウータンの存在そのものが、その地域に古くから根づいているというか。他の霊長類と比べてもやっぱり体も大きいし、見た目も人に似ているので、ワールドワイドに見てもより人に近い生き物ですよね。だから人間の感覚として、霊長類の中でも特別視されてきたところもあったんじゃないかと思います。
霊長類が生息している地域(アジア、アフリカ、南米)では大抵「彼らは人の兄弟である」「彼らは人間の祖先で、森に帰った」などのいい伝えがあって、その地域で一番大きい霊長類、ヒトに近い霊長類が特に重要視される傾向があります。
川端 いつだったかマダガスカルに行った時に、キツネザルが夜になると自分たち同士で喋っているのに昼間は喋らないみたいなことを行っていて、えーっと思ったことがあります。キツネザルって、オランウータンどころか普通のサルよりも人にぜんぜん似ていないと思うんですけど、それでも、人に近いというふうに思う感覚があるみたいなんですよね。ましてや、類人猿ともなれば、ですね。
野生の森でオランウータンを見ることの希少さ
——このメルマガでも過去に何度か取り上げさせていただいてますが、2010年にオランウータンの調査(ボルネオ島・ダナムバレー)に行ったときのことについて改めてお伺いしたいんですが。
久世 ええと、私たち研究者は小屋に宿泊しながら、日中は森の中で観察をするんです。もうとにかく一日中ずっと観察する……という感じです。川端さんは、そこではなくちゃんとしたリゾートホテルに泊まられてました。
川端 やっぱり現地にお金を落とさないといけないから(笑)。
久世 オランウータンを見たいやツーリストやテレビの撮影隊が普通に泊まれる場所があるんです。今は宿泊費も結構値上がってしまっているんですが。
川端 そうなんですよ。あまり知られていませんが、一般の人もオランウータンを見ることができるんです。優秀なガイドがいるので、少なくともあのエリア(ダナムバレーの森)に何日か滞在すれば、野生のオランウータンを見ることができる確率は非常に高い。
久世 そう、あそこ(ボルネオ島のダナムバレー)が2018年現在、世界で一番確実に野生のオランウータンが見れる場所なんです。そして「伐採されてない森に住むオランウータン」を見られるという点では、唯一の場所です。森の奥に入っていくと、人間に餌付けされていない、貴重な野生のオランウータンに会える確率が高い。
川端 そういう意味では、あそこ(ダナムバレー)はめちゃくちゃ貴重な場所ですよね。そういえば、2010年の滞在では、丘の中腹からオランウータンの様子がはっきり見れたことがありましたよね?
久世 ああ、そうでしたね!
——何か貴重なものが見れた?
久世 ええと、わかるように説明しますと、まず、オランウータンって大抵樹の上にいるので、動く様子を見たいと思っても必然的に「見上げる」形になるんですね。
でも、そのときは私たちが山の斜面にいるときに、目線と同じくらいの高さの樹上に、オランウータンが木の枝で寝床を作っているところにちょうど出くわしたんですよね。つまり、彼らの動作を「横」からつぶさに眺めることができた。
川端 そのときのことは新刊(『オランウータン: 森の哲人は子育ての達人』にも書かれていましたよね。あのときは、ギリギリのせめぎ合いがありましたよね。「これ以上滞在すると、暗くなるし宿泊場所に戻れなくなる」「でも、あと何分だけなら」という(笑)。
久世 オランウータンが肩に枝をかけて、不思議な行動を見せてくれたんですけど。ああいう機会は、本当に最初で最後だと思います。あのとき(*)は、かなり充実した観察ができましたね。
*当時の報告と画像・動画が下記で見られます。
(第3回につづく)
ーーーーー
*久世濃子さんが事務局長を務める「日本オランウータン・リサーチセンター」では、現在「JAPAN GIVING」にてプロジェクト支援者を募集中です!
挑戦!オランウータンの父親さがし(JAPAN GIVING)〜2019/01/31
https://japangiving.jp/campaigns/33925
<紹介文引用>
私たちは東南アジアのボルネオ島にあるダナムバレイ森林保護区で、大型類人猿「オランウータン」の生態を研究しています。
オランウータンは絶滅危機にある類人猿でありながら、野生での研究が難しいため、世界的に見ても研究者が少ない現状があります。
熱帯雨林の高い木の上をどんどん移動していくオランウータン。そんなオランウータンを見失わずに追跡して研究をする為には助手の存在が絶対に欠かせません。
2018年から日本人若手研究者がダナムバレイに加わり「オランウータンの父親さがし」を始めましたが、助手の給与となる資金が足りないという問題に直面しています。
そこで、本キャンペーンで寄付を募ることにしました。
ーーーーー
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川端裕人メールマガジン『秘密基地からハッシン!」
小説家・川端裕人のメールマガジン『秘密基地からハッシン!』Vol.077<オランウータンを追いかけて~久世濃子さんとの対談 第2回/Twitterとクソリプ問題/Breaking News/『鳥の棲む氷の国』/ニッポンをお休み!フィッシングNZ/20年後のブロンクス終章その2>
目次
01: Breaking News
02:不定期連載:ドードーのしっぽ 特別編:『鳥の棲む氷の国』について
03:特別対談:ヒトに近くて遠い生き物、「オランウータン」を追いかけて~オラ
ンウータン研究者・久世濃子さんとの対談 第2回
04:モノガタリ:Twitterとクソリプ問題
05:ニッポンをお休み!第十二回:フィッシングNZ
06:20年後のブロンクスから:終章 2018年末の日本から その2
空の器/最低ラインの充足/やりがい搾取で成り立っている
07:著書のご案内・イベント告知など
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