高城剛メルマガ「高城未来研究所「Future Report」」より

カメラ・オブスクラの誕生からミラーレスデジタルまでカメラの歴史を振り返る

高城未来研究所【Future Report】Vol.515(2021年4月30日発行)より

今週も、東京にいます。

好天が続いた今週は、毎日撮影日和。
都内でレンズ散策や秋葉原探訪しながら、仕事に私事にカメラを持って出かけました。

ここで、知っているようで知らないカメラの歴史につきまして、改めましてお話ししたいと思います。

いまから丁度1000年前の1021年。
アラブの科学者イブン・アル=ハイサムの書物「光学の書」に、レンズを用いて風景を投影する装置「カメラ・オブスクラ」が登場します。
これが世界初のカメラのアイデアですが、実はここに記載された基本構造は、いまも大きくは変わっていません。

その後、実用的なカメラが登場するまでかなりの時間を要し、やっと1836年になって、フランスで写真技術「ダゲレオタイプ」が登場します。
ダゲレオタイプのカメラは、銀メッキをした銅板を感光材料として使うため「銀板写真」とも呼ばれ、富裕層の肖像写真が好まれて撮られていました。
いまでも見る古い偉人たちの写真の大半は、ダゲレオタイプによるものです。
当時は、写真乾板を毎回変えねばなりませんでしたが、これを取り扱いやすいロールフィルムにしたのが、「コダック」です。

一方、カメラボディが大きかったことから、どうにか小型化しようと映画用フィルムを使って小さな箱に押し込めた企業がありました。
これが、「ライカ」です。
この時、「35mm版」という規格が生まれ、それが今日の「フルフレーム」といわれる概念の元になります。
いまからおよそ100年前の出来事です。

その後、世界大戦がはじまり、国家予算がカメラ業界に流れ込みます。
各国の軍部は、高性能なレンズを用いた潜望鏡や望遠鏡を求め、こうしてレンズ技術が著しく向上。海軍に提供した潜望鏡技術を誇るニコン(三菱グループ)や、陸軍に提供した火砲・銃の照準眼鏡光学技術のトプコンが、今日のキヤノンへと連なります。
その他、日本軍の光学兵器を開発および製造していた企業に、榎本光学精機(富士フイルム)や高千穂光学工業(オリンパス)などがありました。

戦後、ライカの作った35mm版に、軍事技術の粋を集めたレンズを搭載した日本製カメラが大躍進。
こうして、ニコンやキヤノン、富士フィルムやオリンパスが世界へと羽ばたきました。

やがて、デジタルの波がカメラ業界にも押し寄せます。
はじめは、コンパクトカメラからデジタル化され、90年代中盤になると一眼レフもデジタル化。
2000年代に入り、フィルムにこだわり続けていたプロも、続々とデジタルカメラを使うようになりました。

一方、このデジタル化の波は、カメラメーカーではない家電メーカーが、カメラ業界へ進出する足掛かりになりました。
それが、ソニーやパナソニックよる「ミラーレス」です。
「ミラーレス」とは、カメラメーカーの主力製品で鏡が内部にある一眼レフとは異なり、その名の通りミラーがありません。
そのため、高性能なのにもかかわらず、小型化に成功。
ただし、問題がありました。
家電メーカーは、デジタル技術に長けていますが、レンズ技術のノウハウを持ち合わせていません。
そこで、パナソニックはライカと提携し、ソニーはドイツの老舗レンズメーカーZeissと提携。
さらに、レンズノウハウ獲得のために、ミノルタのカメラ部門も買収しました。
いまでこそ、「α」はソニーのカメラとして知られますが、実はミノルタが開発した世界初のオートフォーカス機能を搭載したシステム一眼レフカメラ「α」シリーズを引き継いだ名前なのです。

当初ミラーレスカメラはセンサーサイズも小さく、とても業務用途には絶えませんでしたが、ソニーがライカ版35mm=フルサイズのミラーレスを発表。
わずか十年前のことですが、当時、プロはオモチャだとバカにして、誰も見向きもしませんでした。

そこで、僕はいち早くフルサイズのミラーレスに、35mm版を作ったライカのレンズをつけて、コンパクトなシステムで旅行写真の撮影をはじめたのですが、幸い、周囲に競合がいないことから活躍することができました。
こうして時代に乗って、僕以外にもフルサイズのミラーレスカメラに純正ではないレンズをつけて撮る人たちが続々登場。
徐々に、プロと言われる人たちもミラーレスに移りはじめます。

このように、フルサイズのミラーレスの歴史はスマートフォンより新しく、古いもの(レンズ)と新しいもの(センサー)がユーザーの手によってミックスされたことで、成功へとつながります。
あたらしいミラーレスには、メーカーが押し付けたシステムではなく、ユーザーが組み合わせを選べる「自由」があったのです。

さて現在、カメラボディは、ソニーかキヤノンのツートップに事実上集約。
続くのは、動画で踏ん張りを見せる新興パナソニックとフィルムメーカーからの脱却に成功した富士フィルムですが、すでに追い上げが難しい状況で、ボディの開発が遅れたニコンとオリンパスが、事実上の落第組みとなったように見受けられます。

ただし、市場全体は、縮小傾向にあります。
それは、スマートフォンの写真性能が、著しく向上したからに他なりません。
一体この後、カメラや市場は、どのように変わっていくのでしょうか?

次週に続きます。
 

高城未来研究所「Future Report」

Vol.515 2021年4月30日発行

■目次
1. 近況
2. 世界の俯瞰図
3. デュアルライフ、ハイパーノマドのススメ
4. 「病」との対話
5. 身体と意識
6. Q&Aコーナー
7. 連載のお知らせ

23高城未来研究所は、近未来を読み解く総合研究所です。実際に海外を飛び回って現場を見てまわる僕を中心に、世界情勢や経済だけではなく、移住や海外就職のプロフェッショナルなど、多岐にわたる多くの研究員が、企業と個人を顧客に未来を個別にコンサルティングをしていきます。毎週お届けする「FutureReport」は、この研究所の定期レポートで、今後世界はどのように変わっていくのか、そして、何に気をつけ、何をしなくてはいけないのか、をマスでは発言できない私見と俯瞰的視座をあわせてお届けします。

高城剛
1964年葛飾柴又生まれ。日大芸術学部在学中に「東京国際ビデオビエンナーレ」グランプリ受賞後、メディアを超えて横断的に活動。 著書に『ヤバいぜっ! デジタル日本』(集英社)、『「ひきこもり国家」日本』(宝島社)、『オーガニック革命』(集英社)、『私の名前は高城剛。住所不定、職業不明。』(マガジンハウス)などがある。 自身も数多くのメディアに登場し、NTT、パナソニック、プレイステーション、ヴァージン・アトランティックなどの広告に出演。 総務省情報通信審議会専門委員など公職歴任。 2008年より、拠点を欧州へ移し活動。 現在、コミュニケーション戦略と次世代テクノロジーを専門に、創造産業全般にわたって活躍。ファッションTVシニア・クリエイティブ・ディレクターも務めている。 最新刊は『時代を生きる力』(マガジンハウス)を発売。

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