川端裕人メルマガ・秘密基地からハッシン!より

川端裕人×オランウータン研究者久世濃子さん<ヒトに近くて遠い生き物、「オランウータン」を追いかけて>第3回

川端裕人のメルマガ『秘密基地からハッシン!』Vol.081より、オランウータン研究者・久世濃子さんとの対談「ヒトに近くて遠い生き物、「オランウータン」を追いかけて」の第3回を無料公開にてお届けします。


撮影:川端裕人〈スマトラオランウータンの母子〉

久世濃子(くぜ・のうこ)さん プロフィール

1976年東京都生まれ。国立科学博物館人類研究部日本学術振興会特別研究員。理学博士。日本オランウータン・リサーチセンター事務局長。1999年3月、東京農工大学農学部地域生態システム学科卒業。同年東京工業大学命理工学研究科に入学しオランウータンの行動や生態を研究。京都大学野生動物研究センターの研究員などを経て2013年〜国立科学博物館人類研究部に所属。

*著書
『セックスの人類学』*共著(2009年・春風社)
『オランウータンってどんな『ヒト』?』(2013年・あさがく選書)
『女も男もフィールドへ』*共著(2016年・古今書院)
『フィールドノート古今東西』*共著(2016年・古今書院)
『オランウータン: 森の哲人は子育ての達人』(2018年・東京大学出版会)
(参考記事)
研究室に行ってみた。国立科学博物館 オランウータン 久世濃子
 
 

『オランウータン: 森の哲人は子育ての達人』久世濃子(東京大学出版会)
https://amzn.to/2QJvREo
子育ての達人――オランウータン。アジアの熱帯雨林で暮らす「森の哲人」たちの究極の子育てを紹介。長い時間をかけて、とても大切に子どもを育て上げる母親たちの育児から、ひとりで生きていてもけっして孤立はしないユニークな社会がみえてくる。

前回の記事はこちら。
川端裕人×オランウータン研究者・久世濃子さん<ヒトに近くて遠い生き物、「オランウータン」を追いかけて >第1回
川端裕人×オランウータン研究者・久世濃子さん<ヒトに近くて遠い生き物、「オランウータン」を追いかけて >第2回

 
 

まだまだその一生には「謎」が多い

川端 この本を読むと、オランウータンの一生は、まだまだミステリアスだというのがよくわかります。

久世 そうそう、川端さんに「こんなにわからないことがあるんだ!」というコメントをいただいたんですけど、私としては「やっとここまで解明されました!」という感覚なんですよ(笑)。
 
——そもそもオランウータンの寿命ってどれくらいなんでしょう?

久世 少なくとも50年以上、だいたい60年前後が平均的な寿命と考えられています。

川端 オランウータンって、ずっと樹の上にいるじゃないですか。地面で生活している類人猿たちよりも、感染症にかかるリスクが少ないんじゃないかとか、久世さんも言ってましたよね。樹上で暮らしている分、免疫力が落ちてきても健康でいられる確率が高いんじゃないか、と。
 
久世 その違いは、実際あると思いますね。オランウータンの赤ちゃんは、他の類人猿と比べて死亡率が低いんですが、(樹上で生活しているので)感染症の原因になるような菌にふれる機会が少ないというのも理由の一つです。

川端 オランウータンが、年老いて命を落とすときって「樹から落ちて命を落とす」のと「登れなくなって感染症にかかる」のと、どっちがタイミングとしては先なんだろう、なんて考えたりするんですけど。
 
久世 年を取ったり、ケガをしたりして「樹に登れなくなってしまって地面にいる」ようなことは実際あります。そうしているうちに感染症にかかって……というケースはありますね。
 
 

オスはどこかに行ってしまう

久世 ミステリーに包まれているという点では、一番象徴的なのがオスの生態かもしれません。チンパンジーのオスは生まれた同じ場所で一生を過ごしますが、オスのオランウータンは、お母さんから独り立ちしたあと、だいたい10~15歳頃に住んでいた場所を離れていなくなってしまうんですよ。

そのあとどこに行ったかもわからない。ですから、群れの中で生活するチンパンジーやゴリラは野生の個体の一生を観察できた例が複数ありますが、オランウータンに関しては誰も見ていない。

川端 そうなんですよね。よくナショナル・ジオグラフィックみたいなメディアで一度取り上げられた個体が有名になって、何年か後にまた取材されて消息が伝えられる、というような場合がありますけど、あれはメスですよね。
 
久世 ありますね! オスのオランウータンはせっかく有名になっても、まったく違う場所に移動してしまうので、消息すらわからない。一方、メスのオランウータンは、オスにくらべて長距離移動をあまりしないんです。生まれた場所の近くでまた子どもを産んで育てて、そのまま一生を終えるという形が多い。ただ、寿命が長いので、死ぬまでの記録は、メスもまだ十分に取れていないのが現状ですね。
 
 

父子関係はDNAを解析しないとわからない

川端 そういえば、ダナムバレーでは、たくさん糞のサンプルを取られてましたけど、今は糞の中のDNAから血縁関係がわかるんですよね。

久世 そうなんです。母親と子の親子関係は観察していればわかる。でも、オランウータンの交尾を追いかけるのは至難の業なので、ある個体の父親を調べようと思ったらDNAを解析して調べるしかないんです。

ボルネオ島のある地域でチューリッヒ大の研究チームが、20年くらいオランウータンの調査をしているんですけど、父子関係に関する論文が全然発表されないのでなぜだろうと思っていたんです。そうしたら、人間がサンプルを集められているオスの数がかぎられているために結局、DNAがわかっても父親に該当するオスをつきとめられなかったようですね。つまり、まだサンプルがとれていないオスの中に父親がいるということ。
 
——DNAレベルで調べても「父親はなかなかわからない」という状況なんですね。

久世 インドネシアの中でサンプルが取れる地域も限られているし、それを国内で移動するのにすらすごく時間がかかる。州からは「国の許可が必要です」と言われて、国に行ったら「州の許可が必要です」と言われたりして……。

川端 そういうことってよくありますよね。でもそのうちに顔見知りになって許可してくれる、なんてことはないんですか?
 
久世 インドネシアではまだ難しいみたいですね。それこそ、何年も研究していて地元とつながりがある人でも難しいようです。
 
 

人間の子育て、オランウータンの子育て

川端 この本(『オランウータン: 森の哲人は子育ての達人』)に、オランウータンの乳児とお母さんを観察した話が出てくるじゃないですか。同時期に子育てをされてたと思うんですけど、研究内容が自身のライフスト-リーと重なって、味わい深かったんじゃないですか。

久世 オランウータンの母子って、朝から晩まで、二人っきりで過ごすんです。私が感じたのは「彼ら(オランウータン)にとっては、これが普通。でも、私たちにとっては異常だな」ということでしたね。赤ちゃんのふるまいや性質が全然違うので。

人間の赤ちゃんって、お母さんが抱っこしたりもするけど、一人で寝かせることもできますよね。でもオランウータンはそうじゃない。オランウータンの赤ちゃんって、いつもお母さんにぶら下がっているのを見たことがあると思うんですけど、あれは習性で。例えば動物園や保護施設で人間に育てられているオランウータンの赤ちゃんも、ぬいぐるみか何かをつかませないと、おとなしくしていられないんです。
 
——いわば赤ちゃんの方がお母さんを抱っこしている?

久世 そうそう。お母さんが赤ちゃんを抱っこしているんじゃなくて、赤ちゃんがお母さんを抱っこしている(笑)。それで、赤ちゃんは、お腹が空いたら勝手におっぱいを飲む。お母さんの行動の邪魔をしないというか。だから、オランウータンのお母さんの方は、生まれる前と生まれた後で、生活がさほど変わらないんですよね。

川端 子どもを遊ばせている間、それをお母さんオランウータンが「じっと見ている」というエピソードもありましたよね。
 
久世 そうですね。オランウータンのお母さんは「子どもと遊ぶこと」はほとんどなく、遊び相手は必ず同じ子どもなんです。

お母さんは、子ども同士で遊ばせる時間を作るために頑張る。遊んでいる間、お母さん同士はコンタクトするわけではなく何もせずにボーッとしているんです。「まだ終わらないのかしら?」という感じで。

これもチューリッヒ大の研究なんですけど「ときにはお母さんオランウータンは自分の食べる量を減らしてでも、子どもに遊ばせる時間を作っている」と。どうやって(そうした子育て術を)学んでいるのか、自分もそういう経験をしているからなのか……。

川端 単独性のオランウータンでも、そういう遊ぶ時間を確保しないといけないということですよね。あと、遊びがなぜか「レスリング」ばっかりなんですよね。
 
久世 そうなんです! 樹上での取っ組み合いばっかりで、すごく単調なんですよ。

川端 樹上でずっとやっていて落ちないんでしょうか?
 
久世 たまに落ちます。ケガをすることもあるかもしれません。でも、落ちることはまれで、それほどはないです。

(第4回につづく)

久世濃子さんメディア出演情報
2/6(水)Eテレ 10:00〜10:45
(木曜深夜0:30〜1:15に再放送)
「吉直樹のヘウレーカ!「群れない生き方 わかります?」
 
 

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川端裕人メールマガジン『秘密基地からハッシン!

小説家・川端裕人のメールマガジン『秘密基地からハッシン!』Vol.081<雲めで/Breaking News/デンドー書店『ゼロクーポンを買い戻せ』/ニッポンをお休み!息子とふたりでフォークランド その3/オランウータン研究者・久世濃子さんとの対談 第3回/再読会/復刻プロジェクト(1)「みっともないけど本物のペンギン」>ほか

41 目次
01:雲めで:夜の雲
02:Breaking News
03:デンドー書店:金融小説/『ゼロクーポンを買い戻せ』
04:ニッポンをお休み!番外編:息子とふたりでフォークランド その3
05:特別対談:ヒトに近くて遠い生き物、「オランウータン」を追いかけて~オランウータン研究者・久世濃子さんとの対談 第3回
06:著書のご案内・イベント告知など
07: 『動物園にできること』を読みなおす:「「それから」のぼくらの動物園」その3
08:復刻プロジェクト!:『星と半月の海』その1「みっともないけど本物のペンギン」

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川端裕人
1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。普段は小説書き。生き物好きで、宇宙好きで、サイエンス好き。東京大学・教養学科卒業後、日本テレビに勤務して8年で退社。コロンビア大学ジャーナリズムスクールに籍を置いたりしつつ、文筆活動を本格化する。デビュー小説『夏のロケット』(文春文庫)は元祖民間ロケット開発物語として、ノンフィクション『動物園にできること』(文春文庫)は動物園入門書として、今も読まれている。目下、1年の3分の1は、旅の空。主な作品に、少年たちの川をめぐる物語『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、アニメ化された『銀河のワールドカップ』(集英社文庫)、動物小説集『星と半月の海』(講談社)など。最新刊は、天気を先行きを見る"空の一族"を描いた伝奇的科学ファンタジー『雲の王』(集英社文庫)『天空の約束』(集英社)のシリーズ。

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