高城剛メルマガ「高城未来研究所「Future Report」」より

2021年のベストガジェットから考える新たなステージ

高城未来研究所【Future Report】Vol.550(2021年12月31日発行)より

今週も東京にいます。

毎年吉例、年末にこの一年間で購入したベストガジェットを公開しておりますが、今年はガジェットとはちょっと言い難い「Appleシリコン」を圧倒的第一位にしたいと思っています。

目に見えるデザイン部分の変更があまり見られないことから、「ガジェット」としての魅力が伝わりづらいのでしょうが、「Appleシリコン」の登場は、今後十年間のデジタル関連業界全般の行方を占うと言っても過言ではありません。

モトローラ68000系からはじまるAppleのCPUの歴史は、IBMのPowerPC、インテル(x86)と供給元を変え、都度OSをあわせてアップデートするのが常でした。
しかし、自社設計の「Appleシリコン」は、いままでとは逆にチップをOS設計にあわせるよう開発したことから、速度やバッテリー性能が大幅に向上。寄せ集めのパーツで作られたWindowsとは完全に別のコンピュータを作り上げた、コンピュータ史上初のパーソナル・ターンキーシステムとなりました。

この流れは、70年代から連綿と繋がってきた「あらゆる分業」が、新たなステージに入ったことを意味すると考えます。
いままで、他社で設計された部品を購入していたのを自社で設計し、生産だけ外部に委託する、グローバリゼーションが次のステージに上がったことをAppleがほのめかしています。

つまりは、インテルのようなCPUメーカーの凋落は言うに及ばず、Nvidiaのような好調だと言われるGPUメーカーに暗雲が忍び寄り、さらには当たり前だった分業が、「知的所有者」とその他に二分される「完全な知識世界」に突入しました。

こうなると単なる工場の価値は下がり、結果、日本はおろか「世界の工場」と言われた中国の価値が著しく降下。
インテルやサムソンさえAppleシリコンの受託に躍起になっていることから、いままで供給元だったインテルが、単なる下請けのなかの一社に成り下がります。
いわば、米中ではなく米国で内戦がはじまっているのです。

Appleは18ヶ月おきにAppleシリコンの新製品を投入すると目されていますので、2022年後半に4nmプロセスの「M2」プロセッサを、そして2023年に「M2 Pro/M2 Max」プロセッサを投入した新製品を市場にリリースすると予測されますが、この速度にインテルが付いて来られるとは思えません。
すでに台湾のファウンドリTSMCが、2022年第4四半期から3nmプロセスの半導体生産を開始することが判明しており、これがiPhone 15に搭載予定の「A17」と次々世代MacBookに搭載される「M3」になるはずです。
アプリケーションの開発が追いつけば、Appleシリコンはバスを介さないニューラルエンジンとGPUを内包していますので、「M3」は「M1」の5倍程度高速化されると予測されます。
ここでFPGA(たぶんAfterburner Pro)を搭載できたら、画像処理は20倍速を超えるでしょう。

このような早いプロセッサがもたらす世界は、目下のところ高精細動画とVRです。
iPhone 13から搭載されたProRes収録やシネマティックモードでもわかるところですが、おそらく2020年代後半に発表されるiPhoneは、センサーとレンズサイズ関係なく、フルフレームと同じ被写界深度を擬似的かつ遜色なく提供することが予測されます。
現在、Appleはレンズ・シミュレートを徹底研究していると推察され、光学的な物理法則をプロセッサ・パワーで凌駕するのも時間の問題です。

また、GPUを中心に、すでにハード依存がゲーム性の可能性を高める常識になっていますが、今後、ゴーグルをかけないVR、さらには「メタバース」の次の世界が、6G回線と共に訪れます。

それは、自宅にいながら訪れることができるディズニーランド。
おそらく背徳的な世界になる「メタ空間」の次の世界がここに広がります。
まずは、「Toy Story」のなかに入れる世界からはじまるでしょう。
その世界を前提にすれば、NvidiaはARMを買収しようとするし、FacebookもMetaになるのも頷けます。
ゲームからオンライン観光、そしてその次に待ち構える身体性との融合へ。
Appleシリコンを体内に埋め込む「信者」が出るまで、15年はかかりません。
2030年代なんて、もうすぐです!

末筆ながら本年も皆様にご愛読いただきまして、誠にありがとうございました。
あらためまして御礼申し上げます。
まだまだ寒い日が続きますが、 どうかお体ご自愛下さいませ。
帰省の際も、ビタミンD3をお忘れなく。

良いお年を!
 

高城未来研究所「Future Report」

Vol.550 2021年12月31日発行

■目次
1. 近況
2. 世界の俯瞰図
3. デュアルライフ、ハイパーノマドのススメ
4. 「病」との対話
5. 身体と意識
6. Q&Aコーナー
7. 連載のお知らせ

23高城未来研究所は、近未来を読み解く総合研究所です。実際に海外を飛び回って現場を見てまわる僕を中心に、世界情勢や経済だけではなく、移住や海外就職のプロフェッショナルなど、多岐にわたる多くの研究員が、企業と個人を顧客に未来を個別にコンサルティングをしていきます。毎週お届けする「FutureReport」は、この研究所の定期レポートで、今後世界はどのように変わっていくのか、そして、何に気をつけ、何をしなくてはいけないのか、をマスでは発言できない私見と俯瞰的視座をあわせてお届けします。

高城剛
1964年葛飾柴又生まれ。日大芸術学部在学中に「東京国際ビデオビエンナーレ」グランプリ受賞後、メディアを超えて横断的に活動。 著書に『ヤバいぜっ! デジタル日本』(集英社)、『「ひきこもり国家」日本』(宝島社)、『オーガニック革命』(集英社)、『私の名前は高城剛。住所不定、職業不明。』(マガジンハウス)などがある。 自身も数多くのメディアに登場し、NTT、パナソニック、プレイステーション、ヴァージン・アトランティックなどの広告に出演。 総務省情報通信審議会専門委員など公職歴任。 2008年より、拠点を欧州へ移し活動。 現在、コミュニケーション戦略と次世代テクノロジーを専門に、創造産業全般にわたって活躍。ファッションTVシニア・クリエイティブ・ディレクターも務めている。 最新刊は『時代を生きる力』(マガジンハウス)を発売。

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