高城剛メルマガ「高城未来研究所「Future Report」」より

世界情勢の大きな変わり目を感じる今年の終わり

高城未来研究所【Future Report】Vol.602(12月30日)より

今週は、タイの最北部チエンラーイ→チェンマイ→バンコク→東京→那覇→東京→ダラスと移動しています。

師走は、一般的に普段は穏やかな僧侶=師も走るほど忙しい時期だと思われていますが、この漢字は当て字にすぎません。
平安時代の古辞書の多忙な時期は「しはす」と呼ばれ、この季節は神職が神社の参詣者の案内をしたり、祈祷を行ったりするのに忙しくなることから、後年「師走」の文字が当てられました。
確かに僕もこの一ヶ月の総フライトマイルは、地球1周分を超えるほど走り回っています。

さて、久しぶりにタイ最北端の主要都市チエンラーイに訪れました。
はじめて訪れたのは、いまからおよそ35年前。
当時、この先の北部タイ、ラオス、ミャンマーの国境がルアック川とメコン川の合流点で接する地域は「ゴールデントライアングル」(CIA命名)と呼ばれ、世界有数のヘロイン生産地として名を馳せていました。

それもそのはず、この地を米国が「反共の砦」として、事実上お目溢ししていたからです。

第二次世界大戦後、共産党による中華人民共和国の成立により、国を追われた中華民国の国民党軍の多くは台湾に流れ込みましたが、国民党軍第27集団軍隷下の「第93軍」はこの地を制圧し、少数民族シャン族解放組織を作って「半独立国」を形成。
この兵士とシャン族女性の間に生まれたのが、のちに「アヘン王」と呼ばれるクン・サ(張奇夫)です。

クン・サは、アヘン栽培で手中にした資金を使って「アヘン・アーミー」を組織し、CIAから武器の供給と軍事訓練を受けながら、中国政府の支援を受けたビルマ共産党と争いつつ勢力を拡大します。
1980年代に入ると、シャン族・モン族の独立運動を大義名分とする兵力は、2万5000人まで膨れ上がりました。

当時、20代だった僕は、若気の至りもあって日本の月刊誌の仕事で「ゴールデントライアングル」に潜入。
クン・サから直接話しを聞く機会に恵まれました。
話しは「ゴールデントライアングル」に限らず、近代台湾の成立からCIAが取り仕切る世界の麻薬事情の裏側まで、一昼夜に及びました。

しかし、東西の壁が壊れ、冷戦が終結。
これにより日本同様「反共の砦」の必要性が薄れたことから、米国は一転、この地の麻薬ビジネスの取り締まりに力を入れるようになります。
クン・サには米政府から200万ドルの懸賞金がかけられ国際手配。
最終的には投降し、ヤンゴンで死去しました。

今週、かつて「ゴールデントライアングル」に住んでいた人たちにお話を聞く機会がありまして、皆さん、あたり一面に咲いていたケシの花を「あれほど綺麗な花は、世界のどこにもない」と口々に話すことから、同じ記憶を持っていた僕も珍しく当時に思いを馳せました。

この30年、世界は大きく変わりました。
第二次世界大戦後、もっとも大きな世界の節目となった冷戦終結。
このサイクルがいよいよ一回りしつつあり、僕の旅路も大きく二周目に入った感があります。

いま、一年が終わるだけでなく、ひとつのサイクルが終わろうとしているのではないか、とどこかで感じる今週です。

どうか皆様、良い次のサイクルを!
 

高城未来研究所「Future Report」

Vol.602 12月30日発行

■目次
1. 近況
2. 世界の俯瞰図
3. デュアルライフ、ハイパーノマドのススメ
4. 「病」との対話
5. 身体と意識
6. Q&Aコーナー
7. 連載のお知らせ

23高城未来研究所は、近未来を読み解く総合研究所です。実際に海外を飛び回って現場を見てまわる僕を中心に、世界情勢や経済だけではなく、移住や海外就職のプロフェッショナルなど、多岐にわたる多くの研究員が、企業と個人を顧客に未来を個別にコンサルティングをしていきます。毎週お届けする「FutureReport」は、この研究所の定期レポートで、今後世界はどのように変わっていくのか、そして、何に気をつけ、何をしなくてはいけないのか、をマスでは発言できない私見と俯瞰的視座をあわせてお届けします。

高城剛
1964年葛飾柴又生まれ。日大芸術学部在学中に「東京国際ビデオビエンナーレ」グランプリ受賞後、メディアを超えて横断的に活動。 著書に『ヤバいぜっ! デジタル日本』(集英社)、『「ひきこもり国家」日本』(宝島社)、『オーガニック革命』(集英社)、『私の名前は高城剛。住所不定、職業不明。』(マガジンハウス)などがある。 自身も数多くのメディアに登場し、NTT、パナソニック、プレイステーション、ヴァージン・アトランティックなどの広告に出演。 総務省情報通信審議会専門委員など公職歴任。 2008年より、拠点を欧州へ移し活動。 現在、コミュニケーション戦略と次世代テクノロジーを専門に、創造産業全般にわたって活躍。ファッションTVシニア・クリエイティブ・ディレクターも務めている。 最新刊は『時代を生きる力』(マガジンハウス)を発売。

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