高城剛メルマガ「高城未来研究所「Future Report」」より

大観光時代の終焉

高城未来研究所【Future Report】Vol.628(6月30日)より

今週は、アテネにいます。

リーマンショックからはじまった世界的金融危機により、事実上、国家財政破綻したギリシャは、通貨ユーロ全体の足をひっぱりながらも、EU政府の財政支援により徐々に復活。
2018年には、EUからの金融支援も終了し、少しづつ健全財政を取り戻すようになりますが、この中心的政策が観光業でした。

数字を見ると、2010年に年間観光客数1500万人ほどでしたが、その後、急成長して2018年には倍以上の3200万人を突破。
ギリシャ経済全体の成長率2%に対して観光分野は6.9%の伸びを見せ、収入総額はGDPの20.6%まで高まって、観光関連雇用は全就業者の4分の1を占めるまでになりました。

こうして数字だけ見ると素晴らしい業績のように見えますが、実はこの間、不動産から土産物、そして企業の株式まで、あらゆるものの叩き売りが行われていました。
通貨はユーロでも、依然としてギリシャ人の平均給与は月900ユーロ程度で、ドイツの2.5分の1程度しかなく、他国から見るとあらゆるものが割安です。

当然、物価差によるオーバーツーリズムも深刻です。
特にエーゲ海の離島に人が殺到し、最大の人気を誇るサントリーニ島では、宿泊客が2012年330万人が2019年には700万人近くまで増大。
クルーズ客は1日で1万8000人に達し、島内の古いシステムに縛らたタクシーの台数が増えないことから、せっかく訪れても移動がままなりません。
この様相は、いまから十年近く前に取材した自著「人生を変える南の島々。<ヨーロッパ編>」でもいち早くお伝えしました(https://www.amazon.co.jp/dp/B01A3JQV0U)。

今週は、まだ夏の旅行シーズンのピーク前ですが、すでにアテネ最大の観光地パルテノン神殿に事実上の入場規制がかかっています。
午前中に行くと炎天下のなかで2時間以上待ちの長蛇の列で、翌日9時開館前を睨んで朝7時から並びはじめても、もう満杯。
これから本格的なサマーシーズンが訪れることを考えると(8月15日の聖母被昇天祭がピーク)、せっかくアテネに訪れても観光地に入れないゲストが相当数になると考えられます。
しかも、中国政府の入出国規制が完全解禁されていないことから、中国人は以前に比べて圧倒的に少数です。また、経済成長にあわせてインド人観光客は急増中。
今後、以前と同様に中国人が大挙して観光地を訪れ、いまや中国を抜いて世界一の人口になったインド人が観光地を次々と訪れはじめると、世界的な大問題に発展するでしょう。

この背景には、LCCやAirbnbだけでなく、SNSの「映え文化」も問題として上がっています。
アテネの神殿や欧州で人気の観光地である各地の大聖堂の中で、音楽を鳴らしながら踊る人たちを撮影し、それを見た人たちが同じように音楽を鳴らしながら踊って撮影するような「悪いソーシャル・ループ」が巻き起こり、現在、大きな社会問題になっています。
巡礼者が訪れる場所で大音量で音楽を流して撮影する迷惑行為が頻発していることから、場所によっては「TikTok禁止」「Instagram禁止」と書かれた看板が目立つようになってきました。

また、ギリシャ料理の要であるオリーブオイル不足も深刻です。
世界でもっとも消費量が多いギリシャで、コロナ禍による金融緩和の反動でインフレが加速し、気候変動や高値で買う観光客の買い占めなどから、オリーブオイル不足が起きています。
原価がこの二年で二倍以上になっており、レストランに出向いても、以前は机上にボトルで提供されていたのが小皿にとりわけられて供給されるようになっており、ギリシャ名物のオリーブオイルが存分に楽しめません。

いま、世界中に広がるポストパンデミックな現実。
グローバリゼーションやシェア、そして大観光時代の終焉。

もはや、日本も他ではありません。
 

高城未来研究所「Future Report」

Vol.628 6月30日発行

■目次
1. 近況
2. 世界の俯瞰図
3. デュアルライフ、ハイパーノマドのススメ
4. 「病」との対話
5. 身体と意識
6. Q&Aコーナー
7. 連載のお知らせ

23高城未来研究所は、近未来を読み解く総合研究所です。実際に海外を飛び回って現場を見てまわる僕を中心に、世界情勢や経済だけではなく、移住や海外就職のプロフェッショナルなど、多岐にわたる多くの研究員が、企業と個人を顧客に未来を個別にコンサルティングをしていきます。毎週お届けする「FutureReport」は、この研究所の定期レポートで、今後世界はどのように変わっていくのか、そして、何に気をつけ、何をしなくてはいけないのか、をマスでは発言できない私見と俯瞰的視座をあわせてお届けします。

高城剛
1964年葛飾柴又生まれ。日大芸術学部在学中に「東京国際ビデオビエンナーレ」グランプリ受賞後、メディアを超えて横断的に活動。 著書に『ヤバいぜっ! デジタル日本』(集英社)、『「ひきこもり国家」日本』(宝島社)、『オーガニック革命』(集英社)、『私の名前は高城剛。住所不定、職業不明。』(マガジンハウス)などがある。 自身も数多くのメディアに登場し、NTT、パナソニック、プレイステーション、ヴァージン・アトランティックなどの広告に出演。 総務省情報通信審議会専門委員など公職歴任。 2008年より、拠点を欧州へ移し活動。 現在、コミュニケーション戦略と次世代テクノロジーを専門に、創造産業全般にわたって活躍。ファッションTVシニア・クリエイティブ・ディレクターも務めている。 最新刊は『時代を生きる力』(マガジンハウス)を発売。

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