高城剛メルマガ「高城未来研究所「Future Report」」より

人生は長い旅路

高城未来研究所【Future Report】Vol.688(8月23日)より

今週は東京にいます。

去る8月18日に60歳になりました。
冷静に考えてもいままでかなり無茶苦茶な日々を送ってきたと思いますが、この歳まで大きな事故も逮捕されることもなく生きてこられたのは、なぜだろうかと、ふと考えることがあります。

こうして毎週お付き合いくださる多くの方々のご支援も多々あると存じますが、同時に60年も生きていると、世の中、どうにもならない場面に出くわします。
その時、どんなに周囲の支援があっても、また自分なりに目一杯抵抗しても思い通りにはならず、しかし、運命を受け入れるように「潮目」が変わるまで待っていると、必ず光の道が現れるのは実に不思議な経験です。
同時に、似たような境遇の人たちが「潮目」が変わるのを待てず、もしくは試練を受け入れられずに抵抗しながら潮に巻き込まれるか、流されてしまう場面を幾度となく見てきました。

人生は長い旅路で、その道のりは決して平坦ではなく、先が見えない上に地図がない山道を何度も大きく迂回しながら螺旋状に登っていくようなものです。
再び目の前に同じような光景が見えたとしても、そこは以前より少しだけ高度が上がった違う場所で、しかし、全貌や山頂が見えるまでには至りません。
日は暮れてくるし、食料も尽き、頂上までの距離どころか、自分の現在地もわかりません。
いや、頂上そのものがあるのか、どうかもわからないのです。

そんな時、自分を信じて前へ前へ進めるのか。

これを孔子は「道」と呼び、この「道」に従えるかどうかが、幾度となくやってくる人生の分岐点なのだろうと、いまだからこそ実感します。

60歳という年齢を孔子は「耳順」と称し、近年では「六十歳にして、人の言うことに逆らわず素直に聴けるようになる」と解釈されてきました。
しかし、この「耳順」の真の意味は、単に他者の意見に従順になることではなく、自分自身の内なる声に耳を傾け、深い理解を得ることにあると考えます。
人生という旅の本質は、外的な成功や物質的な豊かさを追求するのでなく、内的探求の旅にあり、自身の内なる声だけが唯一の羅針盤です。
生まれながらに決められている「どこか」へ到達するためには、それを手に入れられるかどうかにかかっていると言っても過言ではありません。

しかし、そう簡単に自分の内なる声を聞くことはできないものです。

40歳を迎えた時にも痛感しましたが、「不惑」になると自分の意思や価値観が確立されると言われでも、実際はなかなか実感できません。
僕自身の経験からも、また周囲を見渡しても「お金」や様々な「欲望」、そして「他者の情報」に囚われてしまい、自ら内的探求を妨げ、正しい未来への「道」を見失います。
その上、人によっては「俺」を自分勝手に高値付けし、自己中心的な欲求を増幅させ、真の自己理解や他者への共感を大きく妨げてしまうのです。

そこで、迷いを断つためにも、40歳になったら自分の時間や仕事の40%を誰かのためになることに使うと決意することを「不惑」と考え、実際にそのようにしてきました。
そして60歳になったいま、自分の時間や仕事の60%を、誰かのためになる勉強や行動に移し、その道標としてさらなる「内なる声」に耳を傾けるようになりました。
この結果、顕在意識の数千倍大きいと言われる潜在意識をそれなりに活用できるようになってきたように感じています。

人には、誰しも生まれながらに正しい「道」を判断する能力「良知」があると言われます。
「良知」とは、人間が生まれながらにして持つ道徳的な直観、つまり善悪を直感的に判断できる生得的な知恵や本能であり、これは外部からの情報や学習を必要としません。
すべての人間が内的に備えているとされ、時には「理」とも呼ばれます。

また、古くから「知行合一」と言われ、正しい情報や知識は、それ自体が行動に直結し、知識を持ちながら行動しないのは真の知識ではないと考えられてきました。
60年の経験からお話ししても、道徳的な行動を伴わない情報や知識は不完全であり、正しい情報や知識は自然と道徳的な行動につながるものだと確信します。

つまるところ、自分の内なる声を聞き、そしてそれに従って毎日行動すること。

二十年前は日本にはない巨大クラブやフェス、レイブなど世界中を彷徨ってましたが(時には出演してましたが)、いまは日本で得ることができない知見と対話を求め、世界の医学会を巡るようになりました。
山は登ると気温の関係から途中で植物や環境が大きく変わりますが、まさに僕が今目の前に見える風景も、そのように大きく変化してきました。

果たして、この先にある風景、そして旅路はどのように変わっていくのでしょうか?

Life is a journey, not a destination.

まだまだ山頂は見えないのですが、どうかこれからも長きに渡って懲りずにお付き合いいただけましたら幸いです。
共に死なない程度に迷って、助け合いながら。
 

高城未来研究所「Future Report」

Vol.688 8月23日発行

■目次
1. 近況
2. 世界の俯瞰図
3. デュアルライフ、ハイパーノマドのススメ
4. 「病」との対話
5. 大ビジュアルコミュニケーション時代を生き抜く方法
6. Q&Aコーナー
7. 連載のお知らせ

23高城未来研究所は、近未来を読み解く総合研究所です。実際に海外を飛び回って現場を見てまわる僕を中心に、世界情勢や経済だけではなく、移住や海外就職のプロフェッショナルなど、多岐にわたる多くの研究員が、企業と個人を顧客に未来を個別にコンサルティングをしていきます。毎週お届けする「FutureReport」は、この研究所の定期レポートで、今後世界はどのように変わっていくのか、そして、何に気をつけ、何をしなくてはいけないのか、をマスでは発言できない私見と俯瞰的視座をあわせてお届けします。

高城剛
1964年葛飾柴又生まれ。日大芸術学部在学中に「東京国際ビデオビエンナーレ」グランプリ受賞後、メディアを超えて横断的に活動。 著書に『ヤバいぜっ! デジタル日本』(集英社)、『「ひきこもり国家」日本』(宝島社)、『オーガニック革命』(集英社)、『私の名前は高城剛。住所不定、職業不明。』(マガジンハウス)などがある。 自身も数多くのメディアに登場し、NTT、パナソニック、プレイステーション、ヴァージン・アトランティックなどの広告に出演。 総務省情報通信審議会専門委員など公職歴任。 2008年より、拠点を欧州へ移し活動。 現在、コミュニケーション戦略と次世代テクノロジーを専門に、創造産業全般にわたって活躍。ファッションTVシニア・クリエイティブ・ディレクターも務めている。 最新刊は『時代を生きる力』(マガジンハウス)を発売。

その他の記事

12月の夏日を単に「暖冬」と断じてしまうことへの危機感(高城剛)
公職選挙法違反――選挙期間中にやってはいけない行為とは(津田大介)
20世紀の日米関係がいまも残る基地の街(高城剛)
働き方と過ごし方。人生の“幸福の総量”とは(本田雅一)
失敗した「コンパクトシティ」富山の現実(高城剛)
閉鎖性こそがグローバル時代の強みにもなる可能性(高城剛)
ふたつの暦を持って暮らしてみる(高城剛)
東大生でもわかる「整形が一般的にならない理由」(岩崎夏海)
先行投資か無謀な挑戦か ネット動画事業に関する是非と簡単な考察(やまもといちろう)
石田衣良がおすすめする一冊 『繁栄―明日を切り拓くための人類10万年史』(石田衣良)
ドラッカーはなぜ『イノベーションと企業家精神』を書いたか(岩崎夏海)
高橋伴明、映画と性を語る ~『赤い玉、』公開記念ロングインタビュー(切通理作)
アーユルヴェーダを築いた修行者たちを偲ぶ(高城剛)
コロナ禍以前には戻らない生活様式と文化(高城剛)
細野豪志さんとJC証券が不思議なことになっている件で(やまもといちろう)
高城剛のメールマガジン
「高城未来研究所「Future Report」」

[料金(税込)] 880円(税込)/ 月
[発行周期] 月4回配信(第1~4金曜日配信予定。12月,1月は3回になる可能性あり)

ページのトップへ