高城剛メルマガ「高城未来研究所「Future Report」」より

再びサイケデリックでスイングしはじめるロンドン

高城未来研究所【Future Report】Vol.708(1月10日)より

今週はロンドンにいます。

中心地を歩くと、過去20年同じ場所にあったリテールが次々と撤退しているのに驚きます。
昨年「ザ・ボディショップ」や「テッド・ベーカー」が経営破綻し、なじみの薬局だった「ブーツ」が次々と店舗を閉め、現在英国全体で1日40件から50件程度のリテールショップが次々と閉鎖されています。
これはロンドンに限らず、パンデミック以降世界中の都市で顕著ですが、あらゆるリテールがオンラインに向かうだけでなく、補助金の恩恵が受けられなくなって景気後退とともにかつて優勢を誇っていたブランドが、一瞬のうちに崩れ去るリスクを孕んでいることを教えています。
市街中心地を歩く大半の人たちは観光客とワーカー移民だけになり、かつてのロンドンと街の雰囲気が大きく変わっているのが現在です。

かつて4%近い経済成長を誇った1960年代後半の英国の首都ロンドンは、ファッション、音楽、芸術が一斉に花開いた時代で、「スウィンギング・シックスティーズ(Swinging Sixties)」と呼ばれ、今も当時の片鱗が残るカーナビーストリートなどを中心に、新しい若者文化発信国として世界的に注目を集めていました。
そこに、LSDなど幻覚剤を取り巻くサイケデリック・カルチャーがアメリカ西海岸から徐々にイギリスにも伝わり、音楽やファッションの流行、ライフスタイルの変容を後押しします。

1966年末にロンドンのトッテナム・コート・ロード近くで誕生した「U.F.O.クラブ」で、週末ごとにオルタナティブ・ミュージックとサイケデリック・ライトショーを融合させたパーティーが夜な夜な開催され、ここに出演していたのが、ピンク・フロイド、ソフト・マシーンなど後に世界的な評価を受けるサイケデリック・ロックバンドです。

何よりこの時代のイギリスを代表し、最もサイケデリックムーブメントを体現したバンドがビートルズです。

ビートルズは1960年代後半に明確にサイケデリック・ムーブメントの影響を多大に受け、特にLSDをはじめとするサイケデリック体験やインド思想・神秘主義への傾倒が、彼らのサウンドや歌詞、アートワーク、映像表現などに大きな変化をもたらしました。
1966年のアルバム『リボルバー』収録の「Tomorrow Never Knows」は、テープ・ループや逆回転録音、サウンド・エフェクトを駆使して作られ、ダブルトラッキング、ヴァリエスピード録音、エコーやリバーブなどの技術を積極的に導入し、サイケデリックな幻想的・空想的な音響世界を生み出します。

ジョージ・ハリスンが北インドの弦楽器シタールに傾倒し、アルバム『ラバー・ソウル』に収録された「Norwegian Wood(This Bird Has Flown)」や『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』 の「Within You Without You」ではインド楽器やインド的な音階を全面にフィーチャーしました。
また、「Tomorrow Never Knows」の歌詞は、ティモシー・リアリーの著書などに影響を受け、「死と再生」や「意識の変容」といったテーマに取り組みました。
そして極め付けは、大ヒットとなる「Lucy in the Sky with Diamonds」です。
楽曲の頭文字が“LSD”であること、夢のように彩られた歌詞のイメージから変容意識を暗示し、当時の若者たちに共感を得、世界的に大ヒットとなりました。

ジョンとジョージは、ドラッグによる「意識の拡大」が楽曲制作に影響を与えたと公言しており、音楽や歌詞において実験的なアイデアが爆発的に生まれるきっかけになったと話しています。
さらに、サイケデリック体験から、マハリシ・マヘーシュ・ヨーギーのもとでトランセンデンタル・メディテーションを学ぶなど、精神世界への探求も本格的に進めるようになります。
ビートルズのメンバー全員で訪れたインドへの滞在(リシケシュでの修行)を経て、スピリチュアル探究の姿勢はその後の作品にも色濃く反映されました。

そして、現在。イギリスのインペリアル・カレッジ・ロンドン(Imperial College London)では、サイケデリックスに関する先進的な研究が活発に進められています。
2019年にインペリアル・カレッジ・ロンドン内で正式に発足した「Centre for Psychedelic Research(サイケデリックス研究センター)」は、当時ヨーロッパでは初の本格的なサイケデリックス専門研究機関として注目を集めました。
脳のイメージング技術(fMRIなど)を駆使し、LSDやシロシビンが脳の機能・構造に与える影響を研究。
こうしたサイケデリック幻覚性物質が、うつ病や依存症などの精神疾患に対して有効な治療手段となり得るかを実証するための臨床研究や脳科学的研究が行われています。

21世紀に入り、不況のなか再びサイケデリックでスイングしはじめたロンドン。
英国発の「セカンド・サマー・オブ・ラブ」以降、およそ35年ぶりの大きなムーブメントが始まるのではないかと考える今週です。
それにしても、日中マイナス1度までしか上がらないロンドンは、景気後退もさることながらとても寒いです・・・。
 

高城未来研究所「Future Report」

Vol.708 1月10日発行

■目次
1. 近況
2. 世界の俯瞰図
3. デュアルライフ、ハイパーノマドのススメ
4. 「病」との対話
5. 大ビジュアルコミュニケーション時代を生き抜く方法
6. Q&Aコーナー
7. 連載のお知らせ

23高城未来研究所は、近未来を読み解く総合研究所です。実際に海外を飛び回って現場を見てまわる僕を中心に、世界情勢や経済だけではなく、移住や海外就職のプロフェッショナルなど、多岐にわたる多くの研究員が、企業と個人を顧客に未来を個別にコンサルティングをしていきます。毎週お届けする「FutureReport」は、この研究所の定期レポートで、今後世界はどのように変わっていくのか、そして、何に気をつけ、何をしなくてはいけないのか、をマスでは発言できない私見と俯瞰的視座をあわせてお届けします。

高城剛
1964年葛飾柴又生まれ。日大芸術学部在学中に「東京国際ビデオビエンナーレ」グランプリ受賞後、メディアを超えて横断的に活動。 著書に『ヤバいぜっ! デジタル日本』(集英社)、『「ひきこもり国家」日本』(宝島社)、『オーガニック革命』(集英社)、『私の名前は高城剛。住所不定、職業不明。』(マガジンハウス)などがある。 自身も数多くのメディアに登場し、NTT、パナソニック、プレイステーション、ヴァージン・アトランティックなどの広告に出演。 総務省情報通信審議会専門委員など公職歴任。 2008年より、拠点を欧州へ移し活動。 現在、コミュニケーション戦略と次世代テクノロジーを専門に、創造産業全般にわたって活躍。ファッションTVシニア・クリエイティブ・ディレクターも務めている。 最新刊は『時代を生きる力』(マガジンハウス)を発売。

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