高城剛メルマガ「高城未来研究所「Future Report」」より

「対面力」こそAIにできない最後の人の役割

高城未来研究所【Future Report】Vol.712(2月7日)より

今週は、サンノゼにいます。

シリコンバレーと呼ばれるこの地域で、個別化医療に特化した世界最大級の年次会議である「Precision Medicine World Conference(PMWC)」が開催され、医療およびバイオテクノロジー分野の専門家、研究者、医療従事者、イノベーターが一堂に会し、精密医療の最新の進展や実践的な知識が日々討議されています。

基調講演を務めた1人がNVIDIAのジェンスン・ファンであることからもわかるように、いまや医療とGPUは切り離せない関係になっているのは明らかで、また、DNAシーケンシングなどの最新技術、がんをはじめとするcfDNAなどの臨床応用、研究、規制セクターなどに関連するあらゆる側面について、最新の知見を僕なりにアップデートしています。
パンデミック前の医療と現在の医療では、ガラケーとスマホほどの差があると感じていまして、どうにか世界最先端の予防含む医療システムを、日本人用に落とし込む術はないかと、同行した医療関係者と悪戦苦闘しながら思案する日々を送っています。

さて、この会議の合間を縫って、日々シリコンバレーのAI企業を中心にあちこちまわっていますが、こちらも医療同様、AI技術革新のスピードは驚くほどです。

僕は映像制作をはじめて40年ほど経ちますが、当初はフィルム撮影が主流で、丁度デジタルに移行する時期でした。
当時20代だった僕は、誰よりも早くノンリニア編集をはじめ(当初は専用業務機)、あわせてマックを導入し、数多くの仕事をこなしていました。
そしていま、フィルムからデジタルに移行しはじめた40年前と同様の「大きなチェンジ」がAIによって起きようとしています。

音楽制作を振り返れば、40年前までは制作時間の8割を楽器の演奏にあてていました。
20年前には、制作時間の8割をDAWの作業にあてていました。
翻って現在、制作時間の8割をAIの作業にあてています。
また制作時間は40年前なら1曲を作って完パケるのに一週間程度。
20年前なら、1曲を作って完パケるのに2〜3日程度。
いまは、1曲を作って完パケるのに2〜3時間です。

また、民主化も進み、40年前には楽器を弾ける職人芸が必要でしたが、サンプリングが当たり前になり、20年前には楽器を弾けなくてもコンピュータ上で楽曲ができるようになりました。
そして現在、AIが幾度となくトライ&エラーして提供してくれますので、その必要もなくなりました。

こうなると、より一層のクリエイターやエンジニアのデフレ化が進み、制作や作業でお金を稼ぐという数年前までのモデルが通用しなくなります。
結果的に「伝え方」を考え直す以外の道以外見えません。
実はこれ、医療の未来も同じです。

過去十年、かつてマスメディアが独占していた伝える力が徐々に落ち、伝播力の民主化が起きたため、大きく変わりました。
また、お分かりだと思いますが、オールドスクールの経営者は、人前に出て来ません。
一方、現代の経営者は自ら壇上に立って、プレゼンします。
現在、あらゆる人は穴熊に入るか人前に出るかの二股に差し掛かっており、ここが大きく未来が分かれるAI時代の分岐点だと考えます。
これはマスに出ることを意味しません。

なにしろ作ること自体の大半はAIにとってかわりますが、伝えることはAIにはできません。
コーヒーのロースティングもドリップもAIが美味しい一杯を淹れられますが、それを誰が人前に届けるのかによって、味わいが異なるのも事実です。

AIにできない最後の人の役割である「対面力」。
そして、その鍵となる「相手を慮る気持ち」。
このようなAI時代の「ラスト1フィート」が、次の十年を左右するのだろうと、シリコンバレーの最先端AI企業をまわりながら実感する今週です。

しかし、街は無人化してますね。
数年前と明らかに様相が異なり、夜は物騒です、、、。
 

高城未来研究所「Future Report」

Vol.712 2月7日発行

■目次
1. 近況
2. 世界の俯瞰図
3. デュアルライフ、ハイパーノマドのススメ
4. 「病」との対話
5. 大ビジュアルコミュニケーション時代を生き抜く方法
6. Q&Aコーナー
7. 連載のお知らせ

23高城未来研究所は、近未来を読み解く総合研究所です。実際に海外を飛び回って現場を見てまわる僕を中心に、世界情勢や経済だけではなく、移住や海外就職のプロフェッショナルなど、多岐にわたる多くの研究員が、企業と個人を顧客に未来を個別にコンサルティングをしていきます。毎週お届けする「FutureReport」は、この研究所の定期レポートで、今後世界はどのように変わっていくのか、そして、何に気をつけ、何をしなくてはいけないのか、をマスでは発言できない私見と俯瞰的視座をあわせてお届けします。

高城剛
1964年葛飾柴又生まれ。日大芸術学部在学中に「東京国際ビデオビエンナーレ」グランプリ受賞後、メディアを超えて横断的に活動。 著書に『ヤバいぜっ! デジタル日本』(集英社)、『「ひきこもり国家」日本』(宝島社)、『オーガニック革命』(集英社)、『私の名前は高城剛。住所不定、職業不明。』(マガジンハウス)などがある。 自身も数多くのメディアに登場し、NTT、パナソニック、プレイステーション、ヴァージン・アトランティックなどの広告に出演。 総務省情報通信審議会専門委員など公職歴任。 2008年より、拠点を欧州へ移し活動。 現在、コミュニケーション戦略と次世代テクノロジーを専門に、創造産業全般にわたって活躍。ファッションTVシニア・クリエイティブ・ディレクターも務めている。 最新刊は『時代を生きる力』(マガジンハウス)を発売。

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