やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

ビッグな『トランプ関税』時代の到来でシートベルト着用サインが点灯


 まあ大変なことですよね、というのは相場を見ておられる皆さんは当然のごとくお感じではないかと思いますけれども、日本はかなりアメリカ経済とペッグして相場も連動しておりますのでトランプ政権就任来14%ほどアメリカ市場から資金が流出すると同じように14%ぐらい日本の証券市場から資金が出て行ってしまうわけであります。

 また、日本はオーストラリア同様アメリカとの関係性も考えて関税を掛けられても報復関税に打って出ることは政治的にも現状の経済的にもむつかしい情勢にあることから、結果的に、再交渉を行ってどういう結果であれ妥結するまでは冷静な対処を「強いられる」環境にあることは間違いありません。目下、石破茂政権も官邸も関係省庁も大騒ぎになっているところで、落ち着くことはGW明けぐらいまでないんだろうなという勢いで困難な状況をどうサバイブするんかという道筋をつけて、骨太の方針と6月サミットに向けた諸方針の策定にコマを進めざるを得ない状態です。

 関係先もみんな「打つ手がないよね」と、事態の深刻さに比して政策出動の手が停まっているのは、本当に単純に人災だからであって、前回のトランプ政権(トランプワン)のころも確かに関税を吹っ掛ける→報復関税が起きるが半年の間に6回繰り返されるたび株価は下落し、景気後退に直面してきた経緯があります。その間、これといった経済的に凄いことも生産性が上がる何かもなく、ただただ相場が関税と報復関税が打ち出されるたびに下がり、一定の期間は回復し、というギザギザを繰り返してきました。

 ただ、前回トランプワンと比べて今回の何がまずいのかと言えば、これはもう対中国の戦略的アプローチと並行して日本経済も以前ほど楽ではない、アメリカも国内景気が芳しいとは言えない状態でコレが発生したことに尽きます。特に、日本では新NISAも立ち上がり、国策として国民に対して貯蓄から投資への流れを強化させて多くの国民が仕込んだ新NISAの平均仕込み額は日経平均でだいたい33,500円であり、また、トランプ関税は世界的な景気低迷を引き起こす観点から、国債投資のゴールデンルールと信じられていたオルカンも火の手が上がってオケラになることが運命づけられている点です。いずれ回復するものだ、世界経済はトランプさんの心変わりと共に再び力強い成長を果たしていくんだと信じることができるのか、という、バブル時代の土地神話と同じくオルカン神話とマネーサプライ・世界的インフレも含めたスタグフレーションの波をどう考えるかに尽きると思います。

 長期投資をやっている側からすれば、いずれトランプ政権も有権者からの総すかんで政策転換したトランプワンと同じ経路をたどるし、中間選挙が来年あるなかで我慢しても二年だぞという向きもあります。私もどっちかというと「まあそうなのかな」と思うところですが、そこはやはり台湾海峡や朝鮮半島の情勢流動化や、ロシアによるウクライナ侵攻後に中露と北朝鮮がある程度協調して東アジアで策謀を始めるのだみたいな話でもあろうものなら突然アメリカから見放されかねない孤独なアジアのミドルパワーとして辛い立場になるのもまた日本です。韓国では尹さんが弾劾成立しちゃっておそらく日韓関係もそこまで芳しいものになるとは思えないし。

 あまりにも不確実性が強くなりすぎて、政策的に思い切った話をしようにも日本にできる打ち手は限られ、国民は国民で投資損に直面したらパニックにはならないまでも市場への不信感は強くなる一方というのは間違いないところでしょう。ここでお締めと信じて買い上がれる人たちだけが救われるとも言い切れない状況の中で、より堅実で確実な投資先なんてものは無い。いまの不動産価格だって中国を含めた外国人のマネー流入が途絶えて逆噴射をすれば買い手がつかないぐらいダブつく可能性だってあって、そうなれば、安全と思ったはずの東京都区内不動産だって盤石とは言い難いわけです。高インフレ率もあり得るスタグフレーションの恐ろしさは、結局資金逃避先はディフェンシブな国際優良銘柄以外に誰も思いつかないところに困難があります。

 安易に「恐慌になる恐れがある」「恐慌は戦争を引き起こす」と占い師のようなネタを振りまくのは戒められるべきですが、ただ、本格的な景気後退がアメリカからも中国からも引き起こされて、本格的な世界のスタグフレーションの波が日本にもくるのだとなれば、明らかに社会不安は広がっていくことでしょう。よく考えたら国民民主党やれいわ新選組、N国党、参政党のようなインディー政治団体に支持が集まるのも、既存の政治が駄目だというだけでなく、いまの政治の延長線上に幸せな未来を描きづらいというかなり国民目線からしても「当然そう思うわな」と感じられるような状況になっているからに他なりません。

 もちろん、いきすぎたマネタイズ至上主義がトップ14%ぐらいのトップオフがあったぐらいでは世界経済は揺るがない、トランプ関税はまったく理解不能だけど、起きる事態はそこまで滅茶苦茶にはならない、という考え方もあります。ただこれは、ある程度余裕のある人の考え方なのであって、いま苦しい人は雨風をしのげないからどうにかしろとなるのも当然です。

 正直「こりゃ大変だなあ」と思うわけなんですが… いつになく、えらい人たちが総じてできることがなく呆然としているのは気になるんですよね。半年前まで、割と意気軒昂に日本経済は盤石だって仰っていたような気がするし、まあ私もいまでもそうは思っておりますが。
 

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」

Vol.473 トランプ関税がもたらす不確実性について大いに頭を悩ませる回
2025年4月6日発行号 目次
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【0. 序文】ビッグな『トランプ関税』時代の到来でシートベルト着用サインが点灯
【1. インシデント1】トランプ関税から見るトランプ政権の方向性でかなり議論が出ている
【2. インシデント2】イーロン・マスクさん、今度はxAIでXを買収だそうです
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A
【4. インシデント3】外国人の国民健康保険料はかなりの割合が納められていない件で

 
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やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

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