高城剛メルマガ「高城未来研究所「Future Report」」より

これからの数年間は本格的な動乱期に入る前の最後の準備期間

高城未来研究所【Future Report】Vol.721(4月11日)より

今週は東京にいます。

日々、巷では「トランプショックだ!」と大騒ぎし、お目にかかった方々からも随分とご質問を頂戴しています。

何度か本メールマガジンでもお伝えしていますように、現在起きていることは、自由貿易から保護主義への転換、いわゆる「新モンロー主義」へと向かっている過程にすぎません。

このお話は何年も前からお伝えしてきましたが、その源流は米国で起きた「シェール革命」にあります。

リーマンショックが起きた2008年、水圧破砕(フラッキング)と水平掘削技術の進歩により、それまで採掘が困難だったシェール層から効率的に石油と天然ガスを抽出することが可能になりました。
この技術革新により、米国はシェールオイルの生産量を急速に拡大し、2008年の日量約50万バレルから2023年には約840万バレルへと増加、米国総石油生産量の約65%を占めるまでになりました。
この結果、米国は2018年にロシアとサウジアラビアを抜き、世界最大の石油産出国となったのです。

これにより米国は、貿易的にも軍事的にも長年赤字の原因となっていた中東地域を守る必要性が薄れ、保護主義政策を進めるための大きな条件が整いました。

同時期に、リーマンショック後の景気回復を目的とした量的緩和(QE)政策の影響で米国内では人手不足が深刻化しました。
特に建設、医療、農業などの分野で労働力が不足し、移民の受け入れ拡大が進められましたが、一方で工場の海外移転により国内雇用が減少し、移民受け入れが国内の雇用をさらに圧迫するというジレンマが生じました。

そのため2010年代後半から、米国では移民を制限・送還し、外国製品に高い関税を課して国内製造業を再興することで雇用創出を目指す、新たな「モンロー主義」の復活が提案され始めました。

しかし、2020年にパンデミックが世界を席巻したことで、この方針は一時的に棚上げされます。そして現在、パンデミック後の経済回復を狙ったさらなる金融緩和策により高インフレが定着したことで、米国はついに「新モンロー主義」への舵を大きく切ったのです。
ちなみに、旧モンロー主義が孤立主義だったのに対し、新モンロー主義は国家利益最優先主義という特徴があります。

また、中長期的に製造業の再興は安全保障の面でも重要です。
ロシアがウクライナ侵攻で長期戦を継続できるのは、国内の製造業で軍需物資の多くをまかなえる体制を築いているからに他なりません。
世界情勢を冷静に分析すると、今後自由貿易は制限され、自国で生産能力を持たない国は特にエネルギーや食料において困難に直面するでしょう。

さらに関税政策の次には、安全保障や国防強化に焦点が当たり、米国の視線が徐々に戦争に向いていく可能性があります。なぜなら、これまでのグローバリゼーションは米国の軍事力によって支えられてきたからです。この前提条件が変化するとき、大きな世界的転換が起こる可能性があります。
もし、シナリオ通りなら、米国の金融資産を保有する外国人への課税もはじまります(30%の外国源泉徴収税)。

なお、トランプが発表した相手国が米国に課す関税率について、ホワイトハウスは複雑な算出式を提示しましたが、現在、ChatGPTなどのAIに関税政策の策定方法を尋ねると、同じ回答が返されます。
これは、政策決定におけるAIの影響力が急速に拡大していることを示しています。

いずれにしても、本当に大変な状況が訪れるのは3~4年後だと予測します。
およそ100年前の1929年に世界恐慌が始まった際も、深刻な経済的影響が広く社会に及んだのは約3~4年後の1932年から1933年頃でした。
この時に成立した「スムート・ホーリー関税法」は、約2万品目の輸入品の関税率を記録的に引き上げ、報復的な貿易制限によってアメリカの貿易量を半減させる結果となりました。

また、1929年の世界恐慌、1987年のブラックマンデー、2008年のリーマンショックなど、過去の金融危機直前には必ず株価が乱高下し、急騰と急落を繰り返した後に大暴落しています。

自著でも触れていますように、歴史には周期的なサイクルがあります。
これからの数年間は本格的な動乱期に入る前の最後の準備期間です。
どなた様も、しっかりとシートベルトを締めてご準備くださいませ。

人生(と心のあり方)を、株価の上下と連動させてはいけませんよ!
 

高城未来研究所「Future Report」

Vol.721 4月11日発行

■目次
1. 近況
2. 世界の俯瞰図
3. デュアルライフ、ハイパーノマドのススメ
4. 「病」との対話
5. 大ビジュアルコミュニケーション時代を生き抜く方法
6. Q&Aコーナー
7. 連載のお知らせ

23高城未来研究所は、近未来を読み解く総合研究所です。実際に海外を飛び回って現場を見てまわる僕を中心に、世界情勢や経済だけではなく、移住や海外就職のプロフェッショナルなど、多岐にわたる多くの研究員が、企業と個人を顧客に未来を個別にコンサルティングをしていきます。毎週お届けする「FutureReport」は、この研究所の定期レポートで、今後世界はどのように変わっていくのか、そして、何に気をつけ、何をしなくてはいけないのか、をマスでは発言できない私見と俯瞰的視座をあわせてお届けします。

高城剛
1964年葛飾柴又生まれ。日大芸術学部在学中に「東京国際ビデオビエンナーレ」グランプリ受賞後、メディアを超えて横断的に活動。 著書に『ヤバいぜっ! デジタル日本』(集英社)、『「ひきこもり国家」日本』(宝島社)、『オーガニック革命』(集英社)、『私の名前は高城剛。住所不定、職業不明。』(マガジンハウス)などがある。 自身も数多くのメディアに登場し、NTT、パナソニック、プレイステーション、ヴァージン・アトランティックなどの広告に出演。 総務省情報通信審議会専門委員など公職歴任。 2008年より、拠点を欧州へ移し活動。 現在、コミュニケーション戦略と次世代テクノロジーを専門に、創造産業全般にわたって活躍。ファッションTVシニア・クリエイティブ・ディレクターも務めている。 最新刊は『時代を生きる力』(マガジンハウス)を発売。

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