高城剛メルマガ「高城未来研究所「Future Report」」より

あたらしいライフスタイルのひとつとして急浮上する「スロマド」

高城未来研究所【Future Report】Vol.727(5月23日)より

今週は、バルセロナにいます。

この夏、ノマドアカデミーバルセロナ校にご参加なさる方々のご意向を受けまして、一足早くバルセロナに入り、皆さんのデータを基にビザ・スペシャリストや現地事務局と対面打ち合わせをはじめています。

日本で手がけている飲食店をスペインでも展開したい、リタイアメント地の可能性を探りたい、バルセロナを起点に数年欧州中をまわりたい、子供の教育のために家族で一年以内に移住したい、と各人によって異なるご要望を頂戴しておりますが、やはりデジタルノマドビザをご希望の方が多くいらっしゃいます。

コンピュータ一台とインターネット接続があれば、世界中どこでも仕事ができる。
かつては夢物語だったこの働き方が、今や世界中で急速に広がりを見せており、コロナ禍を経てリモートワークが一般化し、場所に縛られないデジタルノマドという生き方や働き方は、いまや単なるトレンドを超え、新たな労働形態や生活スタイルとして定着しつつあります。

最新の統計によりますと、世界のデジタルノマド人口は約4000万人に達し、その経済効果は年間7870億ドル(約121兆円)と推計されています。
現在、米国だけでも1810万人が「場所にとらわれない働き方」を実践し、この数字はアメリカの労働人口の約11%を占めるほどに急増しています。

また、傾向としてはひとつの都市に長く滞在するノマドが増えており、彼らは「スローノマド」「スロマド」(Slowmad=Slow+Nomad、slow-mading)などと呼ばれ、従来のデジタルノマド概念を再定義する存在だと見られるようになりました。

「スロマド」の特徴は、ある程度長期間ひとつの地に滞在し(6ヶ月から18ヶ月)、持続可能な環境を考え、地域コミュニティとも真摯に関わります。
バルセロナでもスロマドコミュニティが地元住民と共同で持続可能な居住エリアを開発するケースもはじまっており、タイのチェンマイでは、スロマド向けコワーキングスペースが月間収益の45%を地域産品の販売で得るなど、新たなビジネスモデルも誕生しています。
バリ島の事例では、スロマドが地元農家と連携したオーガニックコーヒーのブランディングに成功し、輸出額を47%増加させました。 

2025年現在、デジタルノマド人口約4000万人のうち約12%がこのスロマドを実践しており、その数は年間20%のペースで増加中で、持続可能性と地域社会との共生を重視するこの新しいライフスタイルに注目が集まります。

また、スロマド家族の67%が「移動型教育」を実践し、ブロックチェーン技術を活用した学習記録プラットフォームの需要も急増中。
仕事だけに限らず、いままでにないライフスタイルを多くの人たちが模索しているのが伺えます。

元来「ノマド」は遊牧民を意味し、古来の遊牧民が季節や資源に応じて移動したように、現代のデジタルノマドは気候、生活コスト、文化体験、教育、リスク分散など様々な要素を考慮して移動先を選んできました。

しかし、ポスト・パンデミック以降の「ノマド」は、AIなどを駆使した「デジタルノマド」、そして地域コミュニティを活性化している「スロマド」へと進化中です。

あたらしいライフスタイルのひとつとして急浮上する「スロマド」。
次の十年、いままで考えもしないほどに「居住する意味」は多様化するだろうな、とバルセロナで考える今週です。

もうじき素晴らしい季節が地中海に訪れます。
多くの読者の方々と最高の季節にお目にかかれるのを、楽しみにしております!
 

高城未来研究所「Future Report」

Vol.727 5月23日発行

■目次
1. 近況
2. 世界の俯瞰図
3. デュアルライフ、ハイパーノマドのススメ
4. 「病」との対話
5. 大ビジュアルコミュニケーション時代を生き抜く方法
6. Q&Aコーナー
7. 連載のお知らせ

23高城未来研究所は、近未来を読み解く総合研究所です。実際に海外を飛び回って現場を見てまわる僕を中心に、世界情勢や経済だけではなく、移住や海外就職のプロフェッショナルなど、多岐にわたる多くの研究員が、企業と個人を顧客に未来を個別にコンサルティングをしていきます。毎週お届けする「FutureReport」は、この研究所の定期レポートで、今後世界はどのように変わっていくのか、そして、何に気をつけ、何をしなくてはいけないのか、をマスでは発言できない私見と俯瞰的視座をあわせてお届けします。

高城剛
1964年葛飾柴又生まれ。日大芸術学部在学中に「東京国際ビデオビエンナーレ」グランプリ受賞後、メディアを超えて横断的に活動。 著書に『ヤバいぜっ! デジタル日本』(集英社)、『「ひきこもり国家」日本』(宝島社)、『オーガニック革命』(集英社)、『私の名前は高城剛。住所不定、職業不明。』(マガジンハウス)などがある。 自身も数多くのメディアに登場し、NTT、パナソニック、プレイステーション、ヴァージン・アトランティックなどの広告に出演。 総務省情報通信審議会専門委員など公職歴任。 2008年より、拠点を欧州へ移し活動。 現在、コミュニケーション戦略と次世代テクノロジーを専門に、創造産業全般にわたって活躍。ファッションTVシニア・クリエイティブ・ディレクターも務めている。 最新刊は『時代を生きる力』(マガジンハウス)を発売。

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