やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

災害級の悪天候が予想される衆院選投開票日は大丈夫なんでしょうか


 選挙戦もいよいよ最終盤に差し掛かり、ゴールに向けて直線一気、各陣営がケツにムチ入れて頑張っているところであります。いや、大変でやんすね。

 んで、2月8日の衆院選投開票日に、全国的な大荒れの天気が予想されています。みんな割と気軽に「そんなヤバい天気なんだから期日前投票しろや」と言われるわけですが、寒さや選挙への有権者の熱量低下などもあって、各所で前回よりも期日前投票の割合が少ないぞということで顔を見合わせております。特に今回は、日本海側を中心とした豪雪地帯だけでなく、東京23区を含む太平洋側や九州でも積雪の可能性があり、気象庁は広い範囲で警報級の大雪への警戒を呼びかけています。すでに1月20日以降の大雪関連で、北海道から島根にかけて38人もの方が亡くなっている状況です。個人的に、これ割とヤバいし能登半島地震なみの災害対策が必要なレベルになるんじゃないかと怖れてるんですよね。

 もちろん、陣営からすればいろんな利害得失は絡んできます。ぶっちゃけ、今回は無党派で自民党の支持が厚そうだから投票率が上がれば与党有利だとか、下がれば野党に追い風だとか、そういう政局的な損得勘定はいくらでも出てきます。人間だもの。しかし、そういった話とは別の次元で、ホワイトアウトが予想されるような地域で有権者が投票所に足を運ぶこと自体が、命に関わるリスクになるのではないかということを、まず考えるべきではないでしょうか。投票所に行く途中でホワイトアウトし遭難したぞとか、雪害で事故に遭い面倒が起きるとか、そもそも投票所に辿り着けなかったので投票できなかったとか、そういう民主主義の大義でもある「民意」をきちんと反映できたんかこの選挙は? というイチャモンがついてインフラである投票制度に疑問符が付くようなことはなるだけやめようぜというのが本音です。

 総務省によれば、今回の衆院選では投票終了時間を繰り上げる投票所が全体の42%にのぼり、前回から3ポイント増えています。人口減少に見舞われているところは投票所の維持も大変だというのがありますし、即日開票を考えると早めに集票センターに投票箱を送りたいという考えもあるでしょう。当然、東北地方などでは雪の影響で繰り上げが増加傾向にあるといいます。岐阜県の山間部では午後4時に締め切る投票所もあると報じられています。しかし、今回は朝から終日にわたって悪天候が続く見通しです。繰り上げどころか、そもそも丸一日投票所にたどり着けないという事態が、現実に起こりうるのです。

 こうした場合に備え、公職選挙法第57条第1項は「天災その他避けることのできない事故により投票を行うことができないときは」、選挙管理委員会が改めて期日を定めて投票を行わせなければならないと規定しています。いわゆる『繰延投票』の制度です。実際に過去にも、1965年や1974年の参院選で集中豪雨により一部地域で繰延投票が実施されたほか、2010年のおいらせ町長選ではチリ地震による大津波警報で沿岸部の投票所が閉鎖され、1週間後に改めて投票が行われました。きっちり前例もあるんですよ。2014年の豊見城市長選でも台風の影響で繰延投票となっています。阪神・淡路大震災や東日本大震災の際には臨時特例法によって、被災地の選挙そのものが数か月単位で延期されました。制度も前例もあるのです。

 青臭いことを書きますが、民主主義において、投票したい人に等しく機会が与えられることは大原則です。高齢者の多い山間部で、ホワイトアウトの最中に投票所まで行くこと自体が生命のリスクになるという状況は、「投票の機会が等しく保障されている」とはとても言えません。どの党に有利だとか不利だとかいう話ではなく、有権者のために、投開票日を翌日にずらすことを真剣に検討してほしいと思います。

 もちろん、繰延投票は通常、特定の投票区単位で行われるものであり、全国一律の延期は前例がありません。しかし今回の気象予報が示しているのは、日本海側に限らず全国規模で交通障害が起きうるという見通しです。そもそも解散から投開票日まで戦後最短の16日間という超短期決戦のなかで、自治体のロジスティクスには限界が来ています。ポスター掲示板の設置が間に合わない自治体が出ていますし、投票所入場券の印刷・発送が遅れて期日前投票の開始に届かなかった例も多発しました。さらに、最高裁判所裁判官国民審査の用紙は制度上、投票日の7日前からしか期日前投票に使えないため、1月28日から31日までに期日前投票をした人は国民審査だけ別日に改めて投票所に行く必要があるという、およそ有権者に優しいとは言えない状態になっています。まあ、解散って総理が言うならそうなるんだと言われればそれまでではあるんですけれども。急場の選挙であることは理解しますが、これらはいずれも民主主義のインフラを支える根幹部分の問題です。

 そして、天候や選挙事務だけでなく、公職選挙法そのものが現実に追いついていない問題にも、そろそろ本腰を入れて向き合うべきではないでしょうか。たとえば、ポスター掲示板は候補者が乱立すれば巨大化し、自治体は設置場所の確保と費用負担に苦しんでいます。本当に地域の選挙のコストとして機能してるのかってちゃんと考えるべきじゃねえのと思うわけですsよ。今回の豪雪で掲示板の設置自体ができない地域すら出ました。積雪に埋もれちゃって掲示板建てたけど見えないとかさ。そもそもこの仕組みは、情報がテレビと新聞と街頭演説にほぼ限られていた時代のものです。SNSや動画サイトが選挙運動の主戦場になっている現状で、本当に従来の形のまま維持する必要があるのかは議論の余地があります。

 一方で、オンライン上の選挙運動にはルールの空白が目立ちます。事前運動の規制はインターネット上でどこまで実効性があるのか、動画プラットフォームやSNS上の政治広告の透明性は誰がどう担保するのか。さらに深刻なのは、選挙に関するフェイク情報や偽動画が拡散され、それがプラットフォームにとっての広告収益になっているという構造的な問題です。海外からの情報発信による選挙介入のリスクも現実のものとなっています。

 公職選挙法の枠内だけでは対応しきれない問題が山積しているのですから、情報プラットフォーム法(情プラ法)をはじめとする関連法制も含めて、選挙の公正さをどう守るのかという包括的な議論が必要です。偽情報で金を稼げる仕組みが野放しになっている状態で「公正な選挙」もないでしょう。掲示板の在り方からオンライン広告の規制、偽情報対策、海外からの選挙介入への備えまで、公職選挙法と関連法制の抜本的な見直しを、選挙が終わったらすぐにでも始めてほしいと思います。

 いますぐにだ。
 

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Vol.502 天候も開票結果も大荒れとなりそうな衆院選について語りつつ、エプスタイン文書のヤバい話や米国版TikTok買収劇の気になる話などに触れる回
2026年2月6日発行号 目次
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【0. 序文】災害級の悪天候が予想される衆院選投開票日は大丈夫なんでしょうか
【1. インシデント1】突然公開された「拡大」エプスタイン文書、話半分としても割とヤバめ
【2. インシデント2】米国版TikTokを巡って一部で陰謀論が盛り上がっているみたいですが
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A
【4. インシデント3】さようなら馬鹿を煽るリベラル 高市早苗に煽り負けて瓦解に追い込まれる左派・リベラル勢力へのレクイエム

 
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やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

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