このメルマガでも何度かネット広告の詐欺については言及してきているのですが、最近になってようやくYouTubeの不適切動画に大手クライアントの広告が掲載されてしまう問題に着火しました。
といっても、最後の最後まで粘ってから大手広告代理店が腹に据えかねて実力行使ということですので、あまり気持ちの良いものではありません。我が国のYouTube事情でも、明らかに低年齢層向けの商材動画からテレビ番組の無断流用その他、カテゴリーのミスマッチとか望ましくない動画への広告配信がGoogleの努力にもかかわらず横行してしまっている問題は確かにあります。
英政府や大手メディアがYouTube広告掲載を中止--グーグルはポリシー見直しへ
不適切なコンテンツや過激派によるコンテンツの横に広告が表示されたとして、英国の複数の広告顧客が、Google傘下のYouTube上での広告掲載を取りやめた。その顧客には、英政府や、新聞社のThe Guardianなど英大手企業が含まれる。
例えば、英政府のある広告は、米白人至上主義団体クー・クラックス・クラン(KKK)の元最高幹部であるDavid Duke氏の動画で使用されたと報じられている。
ここで問題となるのは、本件が「白人至上主義団体の動画に広告が掲載されたこと」であり、その広告収益の一部が白人至上主義団体に渡ったことであって、いわゆるアドフラウド問題と構造が似た感じで収まることにあります。Googleが不作為だというよりは、ある程度CGM的な広がりを見せて拡大してきたウェブ的文化がいままで放棄してきた「何が正しいものなのか」をついに突き付けられたということです。
単純にいえば、2ちゃんねる時代の削除依頼のようなもので、この問題が削除に値するのであればそれを申し出てください、ノックダウンツールぐらいまでは提供するので、という話であれば、プロバイダ責任法に守られてネットでのCGMは掲示板であれ動画サイトであれ、ある程度は自由にできたわけです。これが、現在では「そのような不作為は広告掲載先の動画の品質管理を行うべきプラットフォーム事業者にとって許されるものではない」ということになります。
敷衍して、出品者が反社会的勢力であることも考えられるオークションサイトや、著作物が違法にアップロードされることも横行する動画サイトでも、いままで以上にプラットフォーム側の責任が幅広く議論され、かつ、広告掲載基準を満たさないところに掲載されてしまったときのプラットフォームに対する制裁や賠償請求なども今後は横行することになるのかもしれません。
そこまでいかずとも、今回のように大手広告代理店が自社クライアントの広告が望ましくない動画に掲載された一件だけで全量引き上げにいきなりなるかというとそうでもなく、過去にやはり数えきれないぐらいの問題があったと関係筋は説明しています。それが事実であるならば、やはりGoogleは化け物のように大きくなったYouTubeの今後を確かなものにするためにも必要とされる作業量は確保してゴミ掃除をしなければならなくなります。それは、検索エンジンによる検索結果がゴミだらけになって最近アップデートされたのと同様に、できる限りのことはきちんとしています、だから許されますよねというネットらしい世界ではなく、掲載されてはならないものが掲載されたのだから改善がなければ制裁されるべきだという常識的なビジネスの文脈に戻ってきた、ということでもありましょう。
ネット広告の世界は、以前も触れたとおり「そのアクセスは本当に人の手によるものなのか(逆に言えば、それはbotによるアクセスであって誰も見ていないのではないか)」という問題意識に色濃く見え隠れする部分はあると思います。消費者に見られていない広告を掲載するのに金を払うクライアントはいません。それ以上に、有害とされるコンテンツに自社製品やサービスの広告が掲載されてしまったとしたら、あるいは過激派組織やエロコンテンツなどを支援していると間違われかねない広告の掲載があったとしたならば、それは頭をかいて終わり、とはならないのが実社会なんだろうということで。
やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」
Vol.185 YouTube広告問題に象徴されるネット広告の変わり目、空売りファンドの謎の蠢動、IT業界の正論では通用しない自動運転問題などを論じてみる回
2017年3月27日発行発行号 目次
【0. 序文】YouTube広告問題とアドフラウド
【1. インシデント1】「空売りファンド」は是か非か
【2. インシデント2】IT業界にとってポストPC時代を担う目玉商品は自動車になりそうです
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A
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