やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

「消防団員がうどん食べてたらクレームが来て謝罪」から見る事なかれ倫理観問題



 そもそもクレームを入れるおかしい人たちというのは一定の割合いて、それ自体はおかしいことでも珍しいことでもないのです。また、第三者的にはどうでもいいことでも当事者には譲れない問題というのは多数あるので、司法制度も仲裁の仕組みも世の中が公平にしっかりとあってうまく回っている、というのは捨て置けない部分なんですよね。

 で、冒頭から何でそのような話をするのかというと、ボランティアの消防団員がポンプ車を置いてうどんをみんなで食べてたらクレームが入って、組織が謝罪に追い込まれるという話が物議を醸しているという事件がありまして。

「消防車で団員が食事に」で謝罪 ネット「ご苦労様で済む話」

 果たして、これが「市民に申し訳ない」と市消防本部が言うべきことなのか、という点です。恐らくは、その光景を目撃した人のほとんどが「ふーん」とか「お、食事か。お疲れ様」ぐらいのことしか思わないはずなのですが、ごく一握りの人が「こんなところで消防団員が仕事ほったらかしにして食事とはけしからん」と怒ったのだろうと思います。

 実のところ、メディアでも公的な仕事でも一定の割合で変なクレームを入れてくる人というのはいて、それが「世の中こうであるべき」という思い込みであったり、悪意のある情報をうのみにしたり、基本的には目についたものに文句を言うことを性分としている暇な人が中心であることが良く分かります。私自身もたまにウェブで中傷してくる人の発信者情報の開示請求をしたり、取引先に相談されてネットトラブルを起こしている人を特定するお手伝いをすることがありますが、蓋を開けてみると元関係者だったとか、ネットでしか情報を入手していない人だったとかいろいろあります。共通しているのは、あんまりうだつが上がらないという部分で、まあ要するに暇でネットをしたり、一日中どこかをうろうろしていたりするというあたりでしょうか。

 そういう人たちがネットに多い以上は、生まれ持った価値観を片手に右と左に分かれて延々と論争をしているのは仕方のないことだと思います。言論の自由はありますし、ネットというのはそういうことができる世界である前提ですから、それはそれで良いのです。しかしながら、ネット上のまともでない人たちや、世間に対して常に憤慨している人たちのアクションでとばっちりを受けることがあるのが、消防団などの公的機関や組織でしょう。文字通り、市民からの通報で自粛に追い込まれる事案は過去から多発していますが、例えば警察官が具体的に犯罪を犯したとか、消防団員が空き巣をしたといった事例でもない限りは、一般的な市民生活と同等のことを行う権利を有しているはずです。

 また、日本の組織はある種「問題を起こさないようにしなければならない」というプレッシャーを強く感じさせる仕組みがあります。勤め人がうっかりネットで炎上して職を失うとか、就活生がまずやることは自分の名前で検索してみることだというような委縮は往々にしてありますが、自分の名前を出して仕事をしている人なら多少の悪評も賛否両論に持ち込むことはできても、どこかでサラリーをもらいながら生活をしている人は自己防衛の手段としてネットでは何も語らないか、ネットの匿名性を信じて発現をするぐらいのことしかできません。それでも、酷い中傷や虚偽の事実を広めたら発信者情報開示請求をされることはままあるわけで、働き口があって守るべきものがある人はネットであれ実社会であれクレーマーにはなかなかならないというのは道理です。

 クレームを言いまくったり、ネットで暴れている人たちのかなりの割合が暇人であることは中川淳一郎さんの著書などでも繰り返し主張されていることですが、それを受け取る組織の側も、自社の考え方や倫理、価値観などと勘案して、それは許されていることだとなればクレームをはねつけることが必要になります。お話として承りました、部内で検討いたしますといって放置するというのは、無用なクレームに配慮しすぎないようにするという意味で組織を守るための物事の判断として大事なことです。本件で言えば、ボランティアで働いてくれている消防団員が移動中にうどんを食べて何か問題ありますか、という問い返しぐらいはして然るべきじゃないかと思うわけですね。

 また、クレームを入れてきた人は誰なのかを特定する作業として、失礼ですがお名前は、とか、調べて折り返し致しますので連絡先を教えてくださいという内容の返答をすると、たいてい電話を切られてしまいます。自分は匿名でいたいけど、誰かが気に入らないので制御するために連絡をしてくるという人たちはたくさんいます。花火大会であれお花見であれお祭りであれ、自粛しなくてもよいことや制限が不要なものは何かを見極めることが管理職の重要な機能だと思いますし、余計な譲歩をすることでどんどんいろんな付け込まれ方をすることは厳に慎む必要はあると思うんですよね。

 逆に、やってはいけないことを堂々とやり、クレーム多発しているけど反省もなく繰り返す組織というのも存在します。何事も程度問題だと思うわけですけれども、世の中の仕組みと物事の重要性の判断というのは常に磨いておきたいと感じる話題でございました。

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やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」

Vol.188 世の中クレームを言いたい人はたくさんいますよねという話、そして小池都政の先行きや自動運転のこれからをぼんやり考えてみる回
2017年4月29日発行号 目次
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【0. 序文】「消防団員がうどん食べてたらクレームが来て謝罪」から見る事なかれ倫理観問題
【1. インシデント1】小池百合子女史と都民ファーストの会の快進撃と組織化の苦労話
【2. インシデント2】新しいテクノロジーを社会へ取り込むためのハードルは決して低くないことを改めて思い知らされた件
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A

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やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

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