※メールマガジン「小寺・西田の金曜ランチビュッフェ」2017年6月9日 Vol.130 <デジタル世代の是々非々号>より
この記事は、米サンノゼで開かれるアップルの開発者会議・WWDCの取材へ向かう飛行機に乗る直前に書いている。今年はWWDCからE3への転戦で、まるまる2週間連続でアメリカの滞在となる。今年はすでに4回目のアメリカだ。
アメリカでの通信回線として、非常に重宝しているのがソフトバンクの「アメリカ放題」だ。これはその名の通り、アメリカでの通信については、追加の料金がかからない「使い放題」になる、というもの。アメリカでの通信速度が上がってきていることもあり、ホテルのWi-Fiを使う機会が減るほど活用している。逆にいえば、アメリカ放題があるからソフトバンクの回線を使っている……といってもいいくらいだ。そういえば本メルマガで細かい使い勝手を書いたことはないような気もするので、せっかくなので説明しておきたい。
・アメリカ放題に接続しているか否かは、ソフトバンクが公開しているアプリで簡単に確認できる
だが、もちろん問題はある。「つながっていれば快適」なのだが、そうでないとこれが大変なのだ。そのため、万一の保険として、結局は現地のSIMを用意している。使用量は1週間の滞在で1GBいかない程度でまさに「サブ」だが、ないとちょっと不安だ。
アメリカ放題の使い勝手を理解するには、その仕組みを知っておく必要がある。
アメリカ放題は、ソフトバンクグループの一員となっているアメリカの携帯電話事業者、Sprintとの連携で成立しているものだ。一般的に携帯電話を海外で使う場合には、現地の携帯電話会社のネットワークに接続して使う「ローミング」という形態をとるが、アメリカ放題はSprintに接続する。
ここがちょっと特殊なのだが、確かにSpritに接続するものの、端末内での扱いとしては「ローミングではない」。正確には、データローミングの機能を使わない。データローミングの設定はオフにしたまま、携帯電話事業者への接続設定も「自動」(すなわち、接続先を指定しない)形で使う。ソフトバンクの契約がアメリカ放題を利用できる形だと、これでそのままSprintのデータ回線につながり、利用できる。いわば、「アメリカにいるけれど、Sprint回線をソフトバンク回線とみなしてつながっている」ような挙動になるのである。
・アメリカ放題の場合、データローミングは「オフ」で使う
ここでデータローミングを「オン」にすると、アメリカ放題はオフになり、通常のデータローミングになる。この場合には、他国での利用と同様、1日2980円が上限となる料金が発生する。だから、アメリカ放題を使うなら「データローミングはオンにしてはいけない」のである。
ここで問題がある。
アメリカのSprint回線は、必ずしもエリアが広くない。一時期に比べるとかなり改善されたと思うが、それでも「地下」「建物の中」「人口が少ないエリア」ではSprint回線がつながらないことが多い。
その時にはどうなるかというと、「他の携帯電話会社の回線につながる」のである。
え? と思うかもしれない。
これは、通話を維持するための方策である。アメリカ放題は「Sprint回線で使い放題になる」もの。かといって、他社回線でも通話くらいはできないと困る。その場合、通話はローミング扱いになって通話は有料になるが、データ通信料が意図せず高額になるのを防ぐため、データローミングは「オフ」で使う……という仕組みなのである。
Sprintが十分に入るところならなにも問題ないのだが、Sprint回線が弱いところではずっと他社回線につながりっぱなしで、アンテナは立っているのに全然通信はできない……というい状況が続くのだ。しかもそうなると、Sprint回線が入る場所に戻っても、Sprint回線につながるにはしばらく時間がかかる。
じゃあSprint回線固定にすれば……と思われるだろうが、接続設定では「自動」が推奨されていて、Sprint固定にするとうまく動かない。
しかも、この携帯電話事業者の切り替えが起きるたびに、SNSで「アメリカ放題が使える」「今は使えない」という通知が来る。これが鬱陶しい。
・アメリカ放題の対象にならない、Sprint以外のネットワークにつながるとこのようなSNSが来る。
なんかダメなところばかりに見えるが、つながっていると本当に快適なのだ。日本で携帯電話回線を使っている時とほとんど変わらず、ストレスがない。しかも、パケット利用料は日本のものとも別計算、というか容量制限が実質存在しない状態なので、これもストレスがない。だから、現地での回線としては申し分ない。エリアについては、筆者がよく取材に行くサンフランシスコやロサンゼルス、ラスベガスなら問題は減っており、ホテルでも問題が出ないことが多い。
こうしたことを勘案すると、KDDIの「海外データ定額」(24時間980円で、データ容量は国内と共有)やNTTドコモの「海外1dayパケ」(24時間980円、2017年9月30日までは、1日30MBの制約を超えても速度制限がかからない)と比較しても選ぶ価値はある。容量の少ない現地SIMをサブに使えば十分……という結論になるのである。ちょっと前まではAT&Tの回線を使っていたのだが、割高になってきたので、iPad Pro用のApple SIM経由でT-Mobile回線をその都度契約して使っている。
ちょっと気がかりなのは、アメリカ放題の今後だ。
ソフトバンクはSprintをどうするのか、まだ不透明だ。T-Mobileとの経営統合を目指しているが、その際に株式を保有したまま統合に進むのか、それともSprintを売却してしまうのか、今は明確ではない。Sprintが売却されることになれば、アメリカ放題の寄って立つ「グループ内のシナジー」がなくなるわけで、同じサービスを維持するのは難しいだろう。合併後も、見直しが入る可能性はある。
さて、私はあとどのくらいの期間、アメリカ放題を使えるのだろうか。
小寺・西田の「金曜ランチビュッフェ」
2017年6月9日 Vol.130 <デジタル世代の是々非々号> 目次
01 論壇【小寺】
「デジタル子守」に是々非々はあり得るのか
02 余談【西田】
あらためて「アメリカ放題」を解説する
03 対談【西田】
まつもとあつしさんと探る「アニメビジネスの今」
04 過去記事【小寺】
IFAはどこまで「未来」でいられるか
05 ニュースクリップ
06 今週のおたより
07 今週のおしごと
コラムニスト小寺信良と、ジャーナリスト西田宗千佳がお送りする、業界俯瞰型メールマガジン。 家電、ガジェット、通信、放送、映像、オーディオ、IT教育など、2人が興味関心のおもむくまま縦横無尽に駆け巡り、「普通そんなこと知らないよね」という情報をお届けします。毎週金曜日12時丁度にお届け。1週ごとにメインパーソナリティを交代。 ご購読・詳細はこちらから!
その他の記事
6月のガイアの夜明けから始まった怒りのデス・ロードだった7月(編集のトリーさん) | |
メディアの死、死とメディア(その3/全3回)(内田樹) | |
「残らない文化」の大切さ(西田宗千佳) | |
「iPad Proの存在価値」はPCから測れるのか(西田宗千佳) | |
IoTが進めばあらゆるモノにSIMの搭載される時代がやってくる(高城剛) | |
「おじさん」であることと社会での関わり方の問題(やまもといちろう) | |
超人を目指す修行の日々(高城剛) | |
人生に活力を呼び込む「午前中」の過ごし方(名越康文) | |
「一人負け」韓国を叩き過ぎてはいけない(やまもといちろう) | |
バンクーバーの街中で出会う「みっつの団体」(高城剛) | |
ネトウヨとサヨクが手を結ぶ時代のまっとうな大人の生き方(城繁幸) | |
オランウータンの森を訪ねて~ボルネオ島ダナムバレイ(1)(川端裕人) | |
怒って相手から嫌われることのメリット(岩崎夏海) | |
都市近郊の統一地方選が「ドッチラケ」な理由(小寺信良) | |
液体レンズの登場:1000年続いたレンズの歴史を変える可能性(高城剛) |