本田雅一
@rokuzouhonda

メルマガ「本田雅一の IT・ネット直球リポート」より

検査装置を身にまとう

※この記事は本田雅一さんのメールマガジン「本田雅一の IT・ネット直球リポート」 Vol.005(2017年10月13日)からの抜粋です。




ウェアラブルデバイスというと、腕に装着する活動量計のようなものを想像するかもしれないが、個人的に注目しているのはもっと違ったアプローチの技術だ。Life Lensというベンチャーが手がけているのは、医療グレードのバイタル検査装置を身にまとうための技術。すでに動作しており、応用範囲は極めて広い。
http://lifelenstech.com

昨今はさまざまなセンサー類をひとつの半導体にまとめるMEMS技術が発達し、超小型のセンサーアレイを構成できるようになってきている。複数種のセンサーを、ひとつの小さな場所に集約し、小型コンピューターでその情報を蓄積、最低限の処理を加えてBluetooth LowEnergyでスマートフォンやタブレット伝送、さらにクラウドと連動させることで、センサーアレイを活用した従来にないアプリケーションを生み出せる。Life Lensが手がけているのも、まさにそうした技術なのだ。

彼らの第1世代のウェアラブルデバイスは、10円玉1個ぐらいの直径を持つ小型の「Pod」を身体のさまざまな部位に装着。皮膚呼吸が可能な医療グレードの電極付き絆創膏に装着すると、強く引っ張っても剥がれず、脱落することがない。

このセンサーデバイスは、センサーアレイとARMの4コアCPU、64Mバイトメモリー、Bluetoothなどが内蔵され、現時点では最長3日間連続稼働しながらバイタルデータをスマートフォンなどに送り続けることができる。デバイスは1ヶ所だけに装着するのではなく、目的に応じて多様な場所に装着され、装着したそれぞれの場所や目的に応じてさまざまな分析を行うことができる。

この装置に内蔵されているセンサーは極めて多い。誤訳があるといけないので、英語のまま掲載するが、現時点のPod(10グラム程度)には次のようなセンサーが内蔵されている。

ECG/EKG (Electrocardiogram)
EMG (Electromyography)
Heart Rate
Heart Rate Variability
Muscle Group Assessment
Respiration
3-Axis Accelerations
3-Axis Gyroscopes
Skin Temperature
Core Temperature (Cal/Prediction)
Tap Logic
Up-Facing Microphone (annotation)
Down-Facing Microphone (organ)
External Temperature
External Noise
Barometer
Humidity

さまざまな生体信号が取得できるのは当然として、加速度や姿勢変化の履歴、それに加えて肌の温度と気温、体内音と環境音、さらに湿度計なども内蔵されているのは興味深い。なぜこのようなセンサーが必要なのかというと、それによって応用範囲が広がるからだ。

例えば体内音を外部音と絡めてノイズ処理を行うと、気管を通る空気の音が拾えるという。それを分析することで呼吸量を検出し、他のバイタルデータと突き合わせることで酸素摂取量を取り出せる。

温度に関しても皮膚の温度をさまざまな場所で計測しながら運動をすることで、特定の運動に対して筋肉がどう温度変化するのか。それを生体信号と同時に取ることで、スポーツ時の運動機能とバイタルデータの変化が履歴を突き合わせながら分析できる。

昔、『巨人の星』というコミックで、中日所属のオズマという選手がさまざまな検査装置のセンサーを有線で装着し、酸素摂取を計測するマスクをはめてトレッドミル(室内ランニングマシン)を走るシーンがあったが、実際にバイタルデータを測る吸盤を多数装着しながら走ることは難しい。

なによりコードがあることでノイズが乗るため、ノイズリダクションも必要となる。それに対して超小型のウェアラブルデバイスならば、信号を取る場所の真上で数値化するためノイズが少なく、しかもセンサーアレイを用いることで他のさまざまな環境データや他のバイタルデータを取得可能だ。

まさに検査装置を身にまとうようなもので、リアルタイムにデータを取得できるこうしたウェアラブルデバイスは、まだ他に聞いたことがない。

 

本田雅一メールマガジン「本田雅一の IT・ネット直球リポート」

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2014年よりお届けしていたメルマガ「続・モバイル通信リターンズ」 を、2017年7月にリニューアル。IT、AV、カメラなどの深い知識とユーザー体験、評論家としての画、音へのこだわりをベースに、開発の現場、経営の最前線から、ハリウッド関係者など幅広いネットワークを生かして取材。市場の今と次を読み解く本田雅一による活動レポート。

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本田雅一
PCハードウェアのトレンドから企業向けネットワーク製品、アプリケーションソフトウェア、Web関連サービスなど、テクノロジ関連の取材記事・コラムを執筆するほか、デジタルカメラ関連のコラムやインタビュー、経済誌への市場分析記事などを担当している。 AV関係では次世代光ディスク関連の動向や映像圧縮技術、製品評論をインターネット、専門誌で展開。日本で発売されているテレビ、プロジェクタ、AVアンプ、レコーダなどの主要製品は、そのほとんどを試聴している。 仕事がら映像機器やソフトを解析的に見る事が多いが、本人曰く「根っからのオーディオ機器好き」。ディスプレイは映像エンターテイメントは投写型、情報系は直視型と使い分け、SACDやDVD-Audioを愛しつつも、ポピュラー系は携帯型デジタルオーディオで楽しむなど、その場に応じて幅広くAVコンテンツを楽しんでいる。

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