やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

仮想通貨に関する概ねの方針が出揃いそう… だけど、これでいいんだろうか問題


 というわけで、仮想通貨に関する政策骨子を固める勉強会も話が進み、非常に無難に話がまとまりつつあります。不良業者は排除しつつ、金融イノベーションに資する仮想通貨事業者を中心に安心して投資できる環境づくりをしていきましょう、という話でありまして、総花的ではあるけど、いままでそういう議論すらないまま適当な事業者が数百億円レベルのやらかしを繰り返してきたことを考えると、この程度の揺り戻しで良かったねという状況ではないかと思います。

「仮想通貨交換業等に関する研究会」(第10回)議事次第

 大きな問題となっているのはICO規制に関わる部分で、資料もICOでは詐欺がいっぱいありますねということで、もういい加減にしろよということで制限がかかっていくでしょうという雲行きであります。いまだ流出リスクへの対応というネタが本題冒頭に出てくるあたり、この界隈の程度の問題がいかによろしくないかを示すものであると思いますが、一方で、そろそろ仮想通貨の証拠金取引(FX)については、ようやく「仮想通貨デリバティブ取引と同様の規制の対象とすることが適当か」と問題視する議論が出始めた環境にあります。

説明資料(事務局)
https://www.fsa.go.jp/news/30/singi/20181126-4.pdf

 いや、仮想通貨事業の交換業者において、はっきりとした価格体系も換金性も担保されていない仮想通貨各種が、事業者の決定する値動きに応じて証拠金取引の具になるというのは投資家保護の観点からも安全性の担保などできるはずもなく、そもそも通貨でもない仮想通貨で証拠金取引を行わせていること自体が本来は問題だと私は思っています。なので、その前の研究会において「証拠金は何倍までであれば許容されるのか」という議論が起きること自体が異様で、そもそもやるなという議論がなぜでないのか、あるいは、やるとして、現行の証拠金取引業者より緩い規制で行うことが本当に望ましいのかというあたりはきちんと議論していかなければならなかったであろうと感じます。

 そして、次の研究会以降は仮想通貨の資産性についても論じられていくことになるわけですが、ここで問題となるのは「仮想通貨は仮想資産と呼びましょう」というネタの後に続く、仮想通貨相場で儲かった投資家に対する課税は分離課税とするべきだという議論です。実態を伴うかどうかは別にして(証券取引や証拠金取引同様)税率20%の分離課税にすることや、投資損が発生したときに分離課税にして繰越を認めるのかどうかといったあたりは国会でも論戦になるべきネタとなるかもしれません。しかしながら、これらは特定方面からのロビー活動によって湧き上がった議論である一方、これらの事業者はいささかスキャンダル含みのようにも見える人々であるため、そのまますんなりと話が進んでいくようにも見えません。

 コインチェック社といいZaifといいビットフライヤー社といいこれだけの事件を起こし続けてきたわけですから、常識的な証券取引、為替取引と同等か、それに準ずる監視体制を用意しなければならないという議論に私は賛成です。仮想通貨を支える技術は確かにフィンテックだイノベーションだという側面はあるとは思いますが、投資家の保護や犯罪収益の移転といった問題にきちんと対処できない限りは同じ問題を繰り返すごとに普通の投資家が巻き込まれることになります。そして、厳密に言えばいまの仮想通貨交換業者はこれといったイノベーション推進の役割は担っていないばかりか、さして重要な産業となるようにも見えません。すでに技術革新の本丸は仮想通貨取引の現場からは離れつつあるのが実情である以上、国が産業育成や技術革新を企図して不正の温床になりかねない仮想通貨取引を死守する必要すらなくなっているように思います。

 これらの問題も踏まえて、仮想通貨を巡るあれこれは、昨年の今頃大変な高値を付けたビットコインブームからたった一年で大逆風に陥るぐらいには状況が激変していることも踏まえ、何が正しいのかをきちんと模索する必要がある、と考えています。
 

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」

Vol.244 仮想通貨問題、ガチャ規制や中国事業者進出で将来不透明なソシャゲ界隈、にわかに熱量が高くなりつつあるGAFA問題などをあれこれ考える回
2018年11月30日発行号 目次
187A8796sm

【0. 序文】仮想通貨に関する概ねの方針が出揃いそう… だけど、これでいいんだろうか問題
【1. インシデント1】熱量が上がるガチャ(ルートボックス)問題と日本特殊論の今後と中華問題
【2. インシデント2】来年は我が国における海外大手プラットフォーマー対策元年となるか
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A

 
やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」のご購読はこちらから

やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

その他の記事

アングラ住人たちが運営する「裏の名簿業者」の実態(スプラウト)
川端裕人×オランウータン研究者久世濃子さん<ヒトに近くて遠い生き物、「オランウータン」を追いかけて>第2回(川端裕人)
液体レンズの登場:1000年続いたレンズの歴史を変える可能性(高城剛)
世界のクリエイターに愛されるノートの物語(ロバート・ハリス)
「狭霧の彼方に」特別編 その3(甲野善紀)
父親が次男に事業を継がせた深~い理由(やまもといちろう)
「政治メディア」はコンテンツかプラットフォームか(津田大介)
川の向こう側とこちら側(名越康文)
トレーニングとしてのウォーキング(高城剛)
スマホが売れないという香港の景気から世界の先行きを予見する(高城剛)
世界経済の混乱をどう生き抜くか(やまもといちろう)
中学受験に思う(やまもといちろう)
友人知人との別れと世迷いごとの類(やまもといちろう)
実は湿度が大きな問題となる温暖化(高城剛)
福永活也さんの「誹謗中傷示談金ビジネス」とプロバイダ責任制限法改正の絶妙(やまもといちろう)
やまもといちろうのメールマガジン
「人間迷路」

[料金(税込)] 770円(税込)/ 月
[発行周期] 月4回前後+号外

ページのトップへ