やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

世界的な景気減速見込みで訪れる「半世紀の冬」


 メルマガやTwitterなどでもさんざん書いてきたことではあるのですが、私自身は世界の平和が実現したことによる「平和の配当」時代は終わりをつげ、新たな米中対立のなかで再び緊張と低迷の時代に陥ることに備えたほうがいいのでは、と思っている側の人間です。

 なので、どうしても12月25日に日経平均株価が1,000円以上下落したこと自体は何も不思議はないと思っていますし、「豪運の人」安倍晋三総理の治世には恩恵を被りつつも、世界的な流動性減退の状況と、日本国内での経済シュリンクとが結構な閉塞感を呼ぶのではないかと思い、私なりに警鐘は鳴らしてきたつもりです。

 もちろん、このまま一気に何かが駄目になるというものではなく、緩やかな縮小は痛みを伴いながら多くの人を不幸にしていく過程になるんじゃないかと思っていますし、2010年代のころは当たり前に出来ていた話が、2020年以降なかなかままならない経済状況になり、ベンチャービジネスへの資金流入は途絶え、地方経済はより縮小し、高齢者向けのサービスは財源が保てなくなって大幅に切り下げられ、日銀の投資は含み益から大幅な含み損に転じて、年金基金は運用損となって厚生年金基金では閉鎖や合併が出たり、地方金融機関では統合を余儀なくされるゴミ箱銀行がたくさんできることになります。

 ただ、これらは別に全てにおいて常に悪いことというわけではなく、まだ景気がどうにかなってしまっていたので温存されていた不合理や不平等が、状況悪化とともに持ちこたえられなくなっていくプロセスだと思います。そしてそれは、本来ならもっと早く政治的な決断をして切り離しておかざるを得なかったものであって、いわば安倍ちゃんの豪運によってどうにかなってしまった部分があります。それがどうにもならなくなれば、当然見捨てざるを得ない、見放さなければならなくなる、ということにすぎません。

 もっと早く手を打っていれば、と危機が起きてから思うわけですが、そもそも日本においてはこれから円高基調になり、世界景気も低迷が見えている段階で外国人勢が日本市場で売り越しを続けてきたことからも、いったんはシュリンクするのだろうと思っていたわけです。それが、消費税増税論議からの景気中折れ懸念で日本銀行総出動となり、その残弾も尽きれば落ちていく以外になくなります。何度も指摘している通り、日本の人材難とは「安く働いてくれる人不足」に過ぎず、それを賃金上昇によって若者や現役世代に還元する前に、安い外国人を移民させるという産業側の要請に丸乗りする格好で実施してしまいましたので、もうどうにもならないわけです。

 これからは、集住しなければ社会インフラも維持できませんし、豊富な品ぞろえを用意できる商業施設も縮小に転じ、配送コストの増大に耐えきれなくなったコンビニエンスストア業界も不採算店舗の閉鎖に動くと思います。また、地域・地方や自治体も本格的な税収減と地方交付税の切り下げで立ちいかなくなる負け組地域が色濃くなり、本格的に地域の衰退が人口減少に直結し、教育もままならない地域、都市部に若者が「出稼ぎ」に出たままとなる地域がどんどん出てくることになるでしょう。

 残念ながら、政治の力でこれらを押しとどめることはなかなかに困難です。そもそも、人口減少時代に産業力の低下した日本が津々浦々まで平和と繁栄を謳歌させること自体が、非効率の極みなので、必然的に、どこかで、折れて衰退を受け入れていかなければなりません。いつまでも右肩上がりの制度で成り立っている社会では駄目である、ということは、勝つところと負けるところが出て、負けるところは潰れざるを得なくなるのです。潰れるというのは負けた地域からすれば死刑宣告のように見えるのですが、負担となりマイナスとなっている地域や産業や大学がいつまでもどこかから降ってくる資金をアテにして生き永らえるというのは合理的ではないのです。

 本当は、痛みを国民に強いる強い政治がリソースを投じて「もう負け組を支えられるだけの国富は残っていないんだ」「強いところも共倒れになってしまっては、日本は立ちいかないのだ」と思い決断を下すはずが、生産性のない老人にも資金を回さなければだめだ、衰退から脱却したい意欲のある地方にも資金を分配するべきだ、となってしまうと、強いところから弱いところに政治が常に力を分配し、強みが弱くなってしまうことはあるでしょう。一方で、そういう弱まっている日本人を日本社会が「どうせ助からないから」と見捨てるのが望ましいのかという相克たる議論はあります。

 何処をコンセンサスとするかは、来年の課題となるでしょう。本格的に景気低迷し始めたら、デフレ懸念とか外国人移民奨励とか吹っ飛ぶと思いますし、憲法改正どころではありません。短期的には持つかもしれませんが、中長期的にはかなりの円高になりますから、この不況をどこに輸出するか考えなければなりません。本来なら(私なら)、日韓友好だ、スワップ復活しましょうといって、韓国ウォンを安定させて他国の通貨が高くなるように誘導したり、米中貿易紛争にかこつけて中国はフェアトレードを実現していないと難癖をつけて中国の輸入を増やすよう交渉したりすると思うのですが、あんまりそういう考えはいまの安倍政権にはないようなので、まあ微妙だなあとは思うわけですが。

 本来なら、東京五輪やっているべきなのか、大阪万博していて大丈夫なのか、という感じはします。世界的な景気が順調ならばまだインバウンドだ対日投資増大だと言えたはずが、このままではどんなに素晴らしいイベントにしたところで無駄金になってしまいかねません。すべてにおいて、裏目に出て逆回転して、余計なことをしたばっかりに、かえって死期を早めてしまうということのないように注視していきたいと思う次第です。
 

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」

Vol.246 日経平均株価1,000円超下落の先にある現実を見すえつつ、中華製通信機器問題やキャッシュレス決済騒ぎなどを語る回
2018年12月25日発行号 目次
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【0. 序文】世界的な景気減速見込みで訪れる「半世紀の冬」
【1. インシデント1】ソフトバンク(通信部門)上場後の狼、中華製通信機器は本当に置き換えられるのか
【2. インシデント2】箍が外れつつあるようにも見えるキャッシュレス決済・電子マネーの行方
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A
【4. ボツ原稿フラッシュ】「自分は馬鹿じゃない」と思い込んでいる馬鹿どもの問題

 
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やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

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