やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

韓国情勢「再評価」で、問題知識人が炙り出されるリトマス試験紙大会と化す


 韓国・文ジェイン大統領が民情を優先することで、日韓間のGSOMIA破棄という悪いほうのシナリオになったので、いろいろと整理が必要な段階に入ってきました。

「GSOMIA終了」韓国が民情に押されて開く混沌の未来(山本一郎)

 この問題の評価としては、言うまでもなくハード面(いわゆるガチ戦争)ではTHAADの情報を最新でもらえるわけではない日韓、また海洋を挟んでしか侵攻の怖れがない日本としても、協定がなくなったからただちに日本が困るわけではない、という日本側にとっては「そんなに痛くは無い」という評価が官邸では早々に下されています。

 そうですか。

 ただ、問題は情報活動での情報交換が無くなるよなあということであります。日本と韓国は政治的状況は別としてなんだかんだ現場ではかなりの信頼関係をもってあれやこれやコミュニティを作って情報交換を進めてきていたので、そういう信頼関係が本格的に拠って立つ名分ごと無くなるぞとなると、情報の出しようがなくなります。

 例えば、朝鮮半島有事の問題だけでなく、日韓両国の旅行者にヤバそうな人が混ざってないのかとか、日本だと北朝鮮拉致問題で気になる話が脱北者経由や北朝鮮の浸透要員から訊けないかとか、露朝で行われている取引の中に日本渡航歴がありそうな人たちが工作員を中国・ロシア経由で日本に送り込んでないのかとか、そういう話はごく普通にやりとりをされておるわけです。

 この辺は二国間の話し合いにおける「足腰」のため、一切これが無くなるよというわけではないものの、ある程度自由に「お前のところ、こういう話になってるよ」というのがバーターとして成立しないとなると、やはり「上(政治)ではこうだけど、俺たちはまあ仲良くやろう」とはならなくなります。日本でも、やはり最終的なレポートラインは偉い人になりますから、彼らに挙げた情報が漏洩すると普通に国家公務員法の守秘義務違反や特定秘密保護法に思い切り抵触することになるので、どうにもならなくなります。

 で、こうなると情報部門でも韓国とのデカップリングが進むよねという話になり、アメリカがどう橋渡しをしてくれようとコードとして韓国を信頼してはならないという流れになります。ここで炙り出されるのは、今回の破談について、日韓情勢の説明において「いま何を言っているのか」ではなく「いままで何を言ってきたのか」という事項がクローズアップされてしまいます。つまり、GSOMIA破棄から日韓防衛を韓国側から切ってくるという当たり前の情報をしっかり掴み、適切な情報保持の枠内を守りながら外に向けて(またはレポートなどで)どのように書いてきたのかという話になるわけですよ。

 メディアに出たり、Twitterに書いたりしている韓国系の有識者とされる人たちや、北朝鮮問題に詳しい、あるいは当事者だ、安全保障に詳しいとされる人たちの過去の発言において、GSOMIA破棄からの在韓米軍撤退問題まで「採点」が進むことになります。そして、いま著名な韓国問題の専門家とされる人たちの結構な割合が「この人は有識者として駄目な人だ」あるいは「特定の陣営からだけ情報を得て、彼らにとって都合のいい情報を日本社会に流している役割の人だ」というラベリングができるようになってしまいます。そのぐらい、GSOMIAの終了に伴う後始末というのは重要な事柄であって、こんなに分かりやすい破局を一定の可能性として言及してこなかった、これが在韓米軍の撤退問題と絡めて東アジア情勢を語らなかった人は、少なくとも中立的に物事を理解し説明できる有識者ではなかったという結論になるわけです。

 いわば、いままでは占い師でもどうにかなったのです。現場を持たず、情報交換や有識者への取材もせずに専門家として教授やジャーナリストでやっていたとしても、実態のところは誰も分からない前提であったので、どうにか取り繕い続けることはできた。しかしながら、今回のようにはっきりと東アジアからアメリカが影響力を自ら減らし、韓国に圧力をかけても文大統領が守らない可能性なんて多くの有識者が指摘してきたシナリオの一つだったのに、在韓米軍のざの字も言わない韓国専門家や外交評論家がいたというのは、能力の問題か、刺さってる人脈の意図の表れか、要するにそういうことでしょうという話になるわけですよ。

 つまりは、誰が韓国系のスパイであったのかが分かりやすくなる、あるいは、影響力要員として中国や韓国から資金提供され、記事を書く場を用意してもらって地位や肩書を使って記事を書いてきた人は誰であったのかがかなり明確に分かるようになった、というのが大きいのではないかなと思う次第です。

 蛇足ながら、逆説的に言えば、いままでの日韓関係を第三者的に見るに、韓国側がいろんな無茶難題を言ってくることもまた日本側が織り込んで、まあことを荒げるぐらいならほどほどのところで妥協してやろうかという態度を取り続けてきたところ、安倍政権になって冗談が冗談として受け止めないぐらいには日本も政権運営に自信がついてしまうと、なあなあで許されてきたところが放置されなくなった部分はたくさんあるんですよね。

 その中には、カネをもらって韓国に有利なように、あるいは、政権・権力にとって批判的な意見を出していく人たちの商売ってのが少なくない量組み込まれていて、今回のようなネタで一気に炙り出されそうだ、というのはあるかもしれません。それは、北朝鮮が拉致を認めて旧社会党が死んだのとおんなじような感じになるのではないかと思うわけであります。
 

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」

Vol.270 このところの韓国情勢、そして世界的な長期金利の低迷、いよいよ焦臭いファーウェイ問題などでいろいろと思うことを語る回
2019年8月24日発行号 目次
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【0. 序文】韓国情勢「再評価」で、問題知識人が炙り出されるリトマス試験紙大会と化す
【1. インシデント1】 繁栄から取り残された人々と長期金利の驚くべき低下
【2. インシデント2】終わらないHUAWEI問題、もはや単なる米中対立の問題の具ではなくなる
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A

 
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やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

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