※高城未来研究所【Future Report】Vol.465(2020年5月15日発行)より
今週も、沖縄本島北谷町にいます。
沖縄は、新型コロナウイルスの「緊急事態宣言」解除によって、街に活気が戻りつつありますが、早くも梅雨に入り、1日の天気が目まぐるしくかわる日々が続きます。
そんな機(気)なこともありまして、最近は、1日一冊古いSF(ウィリアム・ギブソン登場前までのSF)を読むのが日課になりました。
「幼年期の終わり」や「2001年宇宙の旅」など傑作SFで知られる作家のアーサー・C・クラークは、1917年にイギリスで生まれ、1956年にスリランカに移住し、2008年に亡くなるまで過ごしました。
宇宙を愛し、海を愛するSF界の巨匠クラークが探しあてた地上の楽園、スリランカ。彼は、この美しき島を拠点に、自分用の巨大衛星受信パラボラアンテナを庭に立てた「エレクトロニック・コテージ」と呼ばれる建物内にこもり、モニター、無線、キーボードを通じて世界と交流しました。
まるで、昨今の「巣篭もり」の先を行くようなライフスタイルですが、ユーモアあふれる語り口をもって、SF小説以外にも、科学解説・啓蒙活動をくりひろげ、世界中に多くのファンを獲得。
他ならぬ僕もその一人で、はじめてスリランカに訪れた際には、彼の「エレクトロニック・コテージ」とヒッカドゥワにあるスキューバ・ショップを訪れたあと、墓参りに出向いたことがあります。
いまもスリランカににあるアーサー・C・クラークの墓碑には、こう刻まれています。
「彼は決して大人にはならなかった。しかし、成長を止めることもなかった」と。
晩年のインタビューでは、「特許を申請していれば大金を稼げただろうと人々は言うが、(作中にある創作物が)自分が生きているうちに実現するとは考えもしなかったので、特許を取得しなかった」と述べ、「読者を楽しませた作家として、願わくは読者の想像力を広げた作家として思い出してもらえればうれしい」と話すように、彼はお金に執着がなく、自由な人生を謳歌しながら、人生の大半を南国で過ごしました。
クラークは、2008年に90歳でスリランカにて呼吸不全により亡くなりましたが、彼が息を引き取る数時間前、まるで彼を宇宙に連れ去るように、記録的な大規模なガンマ線バースト(GRB)が地球に到達しました。
のちに「GRB 080319B」と名付けられたこのガンマ線バーストは、地球から肉眼で見ることができた最も遠い天体からのガンマ線として新記録され、科学ライター、ラリー・セッションズは、このバーストを「クラーク現象」と名付けました。
クラークの未来「外挿」によると(クラークは「予測」という単語を使いません)、2030年までに人類が他の惑星の知的生命体と交信し、2090年までに不死の秘密が解明されることになるだろうと、予見しています。
もし、フューチャリストとしても名高いクラークの予測が正しいとしたら、知的生命体と交信する2030年まで、いよいよあと10年。
そんな思いを馳せながら、南国の夜空を見上げながら読むアーサー・C・クラークは、格別です。
僕も頻繁に引用する「高度に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない」と語るクラークの名言は、現代社会で多くの人が実感しているところだと思います。
もうひとりの現代SF界の巨匠フィリップ・K・ディック原作による1982年のSF映画「ブレードランナー」の舞台は、2019年11月。
いま、僕らは、その数ヶ月後にあたる「ブレードランナー以後の世界」に、誰もが生きているのです。
高城未来研究所「Future Report」
Vol.465 2020年5月15日発行
■目次
1. 近況
2. 世界の俯瞰図
3. デュアルライフ、ハイパーノマドのススメ
4. 「病」との対話
5. 身体と意識
6. Q&Aコーナー
7. 連載のお知らせ
高城未来研究所は、近未来を読み解く総合研究所です。実際に海外を飛び回って現場を見てまわる僕を中心に、世界情勢や経済だけではなく、移住や海外就職のプロフェッショナルなど、多岐にわたる多くの研究員が、企業と個人を顧客に未来を個別にコンサルティングをしていきます。毎週お届けする「FutureReport」は、この研究所の定期レポートで、今後世界はどのように変わっていくのか、そして、何に気をつけ、何をしなくてはいけないのか、をマスでは発言できない私見と俯瞰的視座をあわせてお届けします。
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